正式サービス開始


「ジャバン」

 大袈裟に噴水の中へと落ちた。

 噴水の中に落ちた衝撃で大量の水しぶきが自分にかかった。もはや勢いが凄くて周りにいたプレイヤーにもかかってしまった。

 ゲーム開始早々びしょ濡れになり、尻もちをついた影響でぎっくり腰のように立てなくなった。

 果たしてこれは運が無いのか、それともたまたまなのか。

 でも凄い。本当に水の中に落ちたかのように感じた。


「大丈夫か?」

 ゴッツイ大剣を持っている人が手を差し伸べてきた。

 メリルは片手を差し出すと思いっきり引っ張られ、あまりの強さに腕が取れそうであった。


「痛てて、ありがとうございます。それにしても凄い服ですね」

「まだみんな初心者だからな。まぁ俺はさっさとレベルを上げ、そこら辺のダンジョンをクリアしてこの装備を手に入れた。まぁ俺の話はどうでもいい。君は鍛冶師かな? 鍛冶師選ぶ人は余っ程のコアなファンしかいないぞ?」


「でも……、人気な武器が選べなくて……」

「日本サーバーはいっぱいあっただろ?」

「そうなんですか?」

 ゲームを生まれて初めてプレイするメリルには、『サーバー』という言葉が分らなかった。そのため、サーバーが複数あったことなど知る由もなかった。

 ワルオンを日本中の沢山の人たちがプレイすると予測した制作側は、日本サーバーを20以上作成し、集中しないようにしていた。


「初心者に一つだけ言っておこう。俺が見た限りでは鍛冶師は君しかいない!ということはどういうことか分かるか!?」

「いえ、分かりません」

「君が一流の鍛冶師になれば有名になれる! だがLv1の鍛冶師は何も出来ないけどな! ははっ、じゃっ!」

 彼はキリッとした笑顔で手を振りながら、去っていった。

 メリルは不思議そうに上を向いていた。


「わたし、このゲームやって行けるか心配になってきた」

 ゲーム開始から二十分、既にメリルは弱気になっていた。

 テレポートしてすぐに噴水に落ち、助けられた人はとにかくテンションが高い男の人。

 メリルの頭の中は混乱していた。


「とりあえず、ステータスを確認っと」

 手際よくステータス画面を開くと、攻撃力(STR)、防御力(VIT)素早さ(DEX)、運(AGI)が表記されていた。

 初期ステータスは全部が+30の状態でスタートする。運が良ければ+50の状態でスタートすることもあるが、ほとんど有り得ない。


「運以外は30。だけど運が……、」

 自分のステータスを確認すると……、運以外は30で普通だと思っていた。

 しかし運だけなぜか150を超えていた。

 メリルは再び噴水に座りながら自分のステータスをじっくり眺め始めた。


「やっぱり鍛冶師は運が高いと有利なのかな……」

 レベルアップをしなければ何も出来ない。全然何も分からない咲は、そのままずっと噴水の上で座っていた。


「あのすみません……」

 一人の女性が私に話しかけて来た。彼女は背中にツルハシのような物を背負っている。


「何でしょうか?」

「あなた、滅多に見ることの無い鍛冶師ですよね? 私もまだ初心者なんですが、鍛冶師さんを探していて……」

「あなたも滅多に見ない職業でしょう?私はまだレベル1の何も役に立たない鍛冶師ですが?」

「私もまだ!レベル1の採掘師です」


 職業採掘師。

 戦いには一切向いてはおらず、鉱石やモンスターの素材等を採掘出来る確率が常に高い。一緒にクエスト等に連れて行くと、希少な素材が手に入ることがある。


「良かったら戦友登録しませんか? 私一人じゃ何も出来なくて。本当は魔法使いになりたかったけど選べなくて……」

「私と同じミスしてますね」

「本当ですね。あの良かったら一緒に初級モンスターを倒しに行きませんか?」


「行きましょう」

 彼女と出会う約束時間を決めて、私はワルオンからログアウトした。



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