第一章 弱者な鍛冶師の私、剣士になる。

始まりは金欠から

「緊急事態! 緊急事態! お金が……、お金がありません! なので、金欠緊急事態宣言を発令します!」


 2034年11月、お金が無いことに困っていたとある少女が金欠緊急事態宣言を発令した。

 とはいえ、推しであるVtuberの"黒白メルリ"のグッズを買いすぎたのが原因である。

 金使いが荒い性格では無いが、黒白メルリのグッズとなると目の前が見えなくなってしまう。かなり危険な症状を抱えている。


「――そうだっ!」


 何かを思い出した咲は、スマホの検索サイトで『ワルオン サービス開始日時』と調べた。上から順に、沢山のゲーム攻略サイトがワルオンについての情報を書いていた。

 

 日本での正式サービス開始日は、明日の午前十時。世界同時発売になっているワルオンは国ごとに発売の時間差があるが、日本は一日遅れで発売される。

 

 先行で開設された、匿名で誰でも簡単に意見を交流できる"ワルオン掲示板"には沢山の人達がサービス開始を待ち望んでいた。その中でも特に掲示板内で盛り上がっていたのは、VRゲーム好きの集いの面々だ。


 ◇♦◇♦◇♦◇♦◇♦◇♦◇♦◇♦◇♦◇♦



 名無し1:確か明日の午前十時が日本のサービス開始時間だっけ?


 名無し2:そうだよ。 世界初のフルダイブ型VRMMOゲームってこともあって、発売前から注目を浴びすぎてる。 ゲームってことはワルオンにも課金システムとかあるんかな?


 テイオウ:武器や装備の課金は絶対に無いだろう。 たとえあったとしても冒険に役立つアイテムしか売らないだろう。


 名無し1:うわっ! MMOゲームの覇者ことテイオウさんだ! やっぱりテイオウさんもワルオンやるんですね! ということはまた徹夜ですか?


 テイオウ:それは始めてから決める。


 通称テイオウはMMOゲーム界の覇者とも言われている。今まで数々のMMOゲーム、やり込み要素が多いやつも含み、三、四日徹夜でプレイしプレイヤーレベルをかなり上げたり、キャラクターを強化していた。

 

 一方、「そんなに暇なら仕事しろ」「暇人すぎるだろ」など対テイオウ派は他の掲示板で日々そう言っている。

 それでもテイオウは他のプレイヤーよりもMMOゲームの知識量は多く、ボス戦とのソロ戦闘の経験も多い。そのため界隈では帝王ゴッドと呼ばれている。

 その帝王もお金が稼げると噂されているワルオンに目をつけていた。


 ◇♦◇♦◇♦◇♦◇♦◇♦◇♦◇♦◇♦◇♦



 次の日。


「あと五分!」


 正式サービス開始まであと五分。早くプレイが出来ないかとうずうずしている咲は、全然落ち着きがなかった。

 ふと、部屋に飾ってある大きな鏡を見ると、生まれて初めてのゲームにワクワクしている自分の顔が映っている。

 鏡に映った自分を見つめていると急に恥ずかしくなり、付けていた腕時計の針を眺めていた。


「ブーブー」


 スマホに通知が入り、バイブの音が響いた。

 すぐさま咲はスマホを手に取りメールを確認する。届いたメールの内容は『World Nature Online正式サービス開始』であった。

 早速、買っておいたワルオンセットの箱を開封し機器を取りだした。


「これ、ちゃんと装着できるかな?」


 生まれて初めてのゲーム。

 ましては普通のゲームではなく、VRMMOゲーム。

 よく動画配信サービスでゲーム実況とかを見ていたが、実際に自分が遊ぶ《プレイする》となると謎に緊張してきた。

 ヘッドギアの装着方法に少し悩んでいたが、説明書を何度も見返し何とか被ることが出来た。

 

 そして寝具に横たわり、目を閉じてゲームを開始しようとした時であった……。


「ブーブー」


 テーブルに置いたスマホに再び通知が届いた。寝具から起き上がり、ヘッドギアをそっと外し、届いたメールを確認する。

 メールを確認すると、ワルオンの運営から『緊急メンテナンスのお知らせ』というメールが届いていた。

 咲はやる気満々で今から始めようとしていたが、かなりのショックを受けたと同時に今までの興奮が疲れに現れ、そのまま寝落ちしてしまった。


「あれ……?」


 深い眠りから目覚めた咲は、スマホの画面を確認した。

 時刻は既に午後二時、緊急メンテナンスが終わってから四時間が過ぎていた。

 寝起きながらも急いでヘッドギアを被り、ゲームスタートの合図である『ワルオンにログイン』を叫び、ワルオンの世界へと入っていった。


『ワールド・ネイチャー・オンラインへようこそ! まずはプレイヤー名をご入力ください』


「んー、どうしよう」


 特に名前なんて考えてなかった。

 初期の名前でもいいけど、せっかくならちゃんとした名前にしよう。ちゃんとした名前が何かは分からないが、悔いが残らない名前なら大丈夫なはずだ。


っと入力!」


『ご入力ありがとうございます。次に職業を選んでもらいます。お好きな職業をお選びください』


 いざ職業を選ぼうとしたが、上限なのか、既に選べる職業は限られていた。

 人気な職業の剣士、魔法使い、盾使い、弓使い、ハンマー使いは選べないようになっていた。職業が自由に選べなかったのは自分の責任でもあるが、あの時寝ていなければ。とメリルは後悔していた。


「回復術士は無理だし……、盗賊はもっと無理……、あっ、これなら!」


 自由に選ぶことが出来ない職業選択に愚痴を漏らしながらも、メリルは良さそうな職業を見つけた。


「鍛冶師? 武器を作るだけの職業……、これでもお金って稼げるのかな? まぁいいや、これで決まりっ!」


 メリルが選択した職業『鍛冶師』はほとんどの人が選んでいなかった職業。

 しかし、他に残っている職業も人気が無い職業とほぼ同じである。

 鍛冶師は剣も無ければ魔法杖や弓もない。

 そして戦うためのスキルも持っていない。

 武器を作るだけの生産職であり、本当にハズレ職業と言っても過言ではない。

 しかし、武器を作りがたいために始めた人は除く。


「よし、これで完了!」


『それではワルオンの世界にテレポートさせますので、その場で暫しお待ちください』


「ついにワルオンで稼げるー!」


『それではお待たせいたしました。ワルオンの世界へ、いってっしゃい!』

 

 案内アナウンスが聞こえながら、体がどこかへと移動していった。


 ◇♦◇♦◇♦◇♦◇♦◇♦◇♦◇♦◇♦◇♦



「金欠………」


 所持ゴールドはたったの1000G。


「緊急事態! 金欠緊急事態宣言を発令します!」


 ワルオンの世界にテレポートしてからも、メリルは金欠に悩まされていた。





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