ⅩⅦ「『強酸性バースト』発射!」
「地球が滅亡って、どういう事だオイ!」
三体の不気味な金星人どもから遠まわしなお前ら皆殺し宣言を受けてしまったので、地球人最前線(仮)としてなんとしても阻止しなければならない。「ウラヌス」という単語に対して聞き覚えがあったけれど、俺はこの言葉をどこで聞いたのか思い出せずにいた。
「ウラヌスといえば、最近このあたりで見つかった新しい鉱物でしたね。確か未知のエネルギーを有しているとか…」
「ああ、そういえば今日の昼のニュースで見たな。捕虜、覚えているか」
「そうだそれだ、今思い出した」
そうだ、どうもそのウラヌスって鉱物が発見されたあたりは、遥か昔に隕石が落ちてきた形跡があって…ってまさか。
「ウラヌスは我々のご先祖様が、遥か昔にこの地球上に置いていった金星の物質だ!それを爆発させたエネルギーで我々は金星に帰るのだ!」
「でもそのウラヌス爆発させると、地球だとそうだなー…。1/8くらい吹っ飛んじゃうかもねー」
変わらぬ笑顔で言う金星人だったが、その顔には少しだけ陰りも見えていた。
「そ、そうなんだよねっ、だからフルールはあんまり良くないと思うんだけど…。あ、ごめんよジャスティン…」
おどおど金星人もあまり乗り気ではないようだったが、リーダー金星人に睨まれてその口を閉ざした。
「1/8!? そんなに吹っ飛んだら地球は滅亡しちゃうよぉ…!」
「確かに、仮に星そのものは大丈夫だったとしても、確実に生物の住める環境ではなくなりますね」
それだけはなんとしても阻止しなければならない。そのためには。
「俺たちであいつらを撃退しよう」
「うむ、残念だがそれしかあるまい」
「ふふふふ、望むところです」
「ね、ねえ、僕は戦えないよぉ…?」
地球人最前線(暫定)は、戦闘態勢に入った。
「やいやいやい金星人のリーダーっぽいお前!えーっと、ジャスミンだったか!?」
「ふざけんな誰がジャスミンだ!俺の名前はジャスティンだ!」
「そいつは悪かったなジャスティン!それから重ね重ね悪いが、お前らを金星に帰すわけには行かねえ!」
我ながら堂々たる立ち姿での宣戦布告ではあったがその魂胆は、あちらの出方がわからない以上、まずは会話での情報収集に努めようという作戦だ。
ちなみにそれより先の作戦はない。
「はっはっはっは!甘いな地球人!お前らがそうやって俺たちの邪魔をしてくることくらグッハァッ!!?」
こちらに負けじと堂々たる立ち姿で返答している金星人と俺たちの間を、目を離した隙に班長が軽快なフットワークで距離を詰めたと思ったその瞬間、ジャスティスだかジャックスパロウだかなんだかそんな名前の金星人は2メートルほど吹き飛んだ。
おそらく俺たちには見えないあの長い手を駆使して、渾身の右ストレートをお見舞いしたんだろう。
第一の作戦で得られた情報は、彼らは俺たち地球人が邪魔をしてくることくらいは何かしらの何かだったらしいということだけだった。
俺とアトラスさんは必死になって班長を抑えた。
「ふざけんなバカ野郎!向こうがとんでもない兵器とか持ってたらどうすんだ!」
「えぇっ!?いや、ですがアトラスさんが『お前の力を見せてやるのだ、いけっ!』って…」
「すまん、冗談のつもりだったのだ…」
「そ、そんな…」
そう言って班長はバツの悪そうな顔をしていた。
「…もし今ので金星人サイドがブチギレて襲ってきたら、アトラスさん。あんた責任もって地球を守れよ」
「今回ばかりは本当にすまないと思っている…」
相手が金星人でなければこいつらは普通に犯罪者であった。
「な、何をしたんだあいつ?触れもせずに吹き飛ばされたぞ…!?」
「なるほど、金星人にも『透け透け之助』は効果アリということですね」
ボソッと言ったつもりかもしれんが班長、この場にいる人間全員の耳に入っている。
しかしあのリーダー金星人も相当ダメージが大きいらしく(精神的に)、腰を抜かして吹き飛ばされたその場から動けないでいた。
「フ、フルール!あいつらは危険だ!秘密兵器を出せ!」
「う、うん!しょうがないよねっ!正当防衛だよねっ!」
「ふふふ、この『強酸性バースト』の威力を思い知れ!」
そう言って金星人たちが構えたのはバズーカのような秘密兵器だった。そのフォルムからは、争いを繰り返してきた人間の本能だろうか、底知れない不安感を覚えた。
「ま、まずいですね。金星はかなり強力な酸性雨が降り注ぐ星ですから、おそらくあれは金星の強酸を我々にぶちまける兵器ではないでしょうか…!?」
「その強酸を食らうとどうなるのだ!?」
「規模がどれくらいのものかがわからないので何とも言えませんが、秘密兵器とまでいうくらいですから、生半可な火傷では済まないと思われます…!」
「おいおい、それはまずいんじゃないか?」
「はい、まずいです!」
「よしっ、逃げるほかあるまい!逃げるのだ!」
ここまで相手に喧嘩を売っておいてトンズラとは全く男の名折れだと言いたいところだが、俺はこれといって殴り合いのケンカなんてしたこともないし、そんなプライドは持ち合わせていない。
これから出来るかもしれない新たな家族のためにも、俺は五体満足で生きていかなきゃいけないんだ!まさかこんな形で己の結婚願望を晒してしまうとは!
彼女もいないのに!
「ま、待つんだ!捕虜!班長!」
「なんです!?」
「おいどうした!?」
「あれを見ろ!HGの様子がおかしい!」
金星人どもが今にも『強酸性バースト』を、俺たちに打ち込もうとしている中、HGは俺たちがさっきまでいた場所から1mmも動いていなかった。
「おーい!どうしましたかHGさん!早くこっちに来てください!」
「おいHG!どうしたってんだ!」
なんと声をかけてもHGは直立したままで「うぅ~、ううぅ~…」と呻いているだけだった。よくわからないがなんだか苦しそうだ。まさかまた腹でも下したのだろうか。よく見るとなんだか小刻みに震えている。
「おい、あれやばいんじゃないか!?」
「うむ、どうやらただ事ではなさそうだ、ど、どうする!?」
「どうするもなにも!HGさん!早く走ってください!」
俺たちの叫びは夏の夜空に虚しく響いて、
「『強酸性バースト』発射!」
金星人たちによるHGへの死の宣言にかき消された。
まるで極太の水鉄砲のように、おそらく強酸であろう黄色の液体が噴射される。
「うわああああ!HGよ!走れ!!」
「おい!なんとかなんねえのか!!」
「HGさああああん!!」
だが。
HGへの死の宣言をかき消そうと叫んだ俺たちの声すら、かき消すように。
「う…うぅ…うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
HGの全身から、大量の汗が放出された。
時刻は、午後11時24分だった。
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