ⅩⅤ「バレてしまってはしょうがない!」

 こんな田舎の山道に明かりなんてあるはずもなく、俺たち四人のおっさんは、月明かりを頼りに山道を歩いていた。足元も砂利になっており凸凹しているので歩きにくい。転ばぬよう気をつけなければ。

 街灯のない時代、平安時代や江戸時代のご先祖様たちはこんな真っ暗な中も歩いていたのだと考えると、人類は進化を重ねるごとに弱くなっているのかもしれないと、そんなことを思った。


 夕方に缶蹴りをした中腹の草原までの道はうろ覚えではあったが、なんのトラブルもなく到着することができた。付近に宇宙船が着陸した形跡がないか調べていたが、そんなものは見当たらない。


 「おい班長、今更だけどやっぱり宇宙船なんてないんじゃないか?」

 「いえ、諦めるのはまだ早いです。なんならワタクシ達に興味を持った宇宙人がコンタクトをとってくる可能性もあります」

 なんとしても宇宙人を見つけたいらしい班長はなかなか諦めてくれない。

 「その場合、宇宙人は我々と同じ日本語をしゃべってくれるのだろうか」

 「あぁ、そういえばそうだねぇ。英語とドイツ語なら僕が対応できるけどねぇ」

 「武力交渉なら私に任せておけ」

 「この国には核兵器よりも危険なものが潜んでいるようだな…」

 アトラスさんは最早、意思を持った生物兵器と化していた。


 五分くらいだろうか、あたりを探索したが、これといっておかしなものは見つからなかった。平坦な草原だし、なにせ月明かりを頼りにしての探索なので、そもそも少し無理がある。

 「班長、多分これ以上探しても何も見つからないぜ」

 「ええそうですね。でも忘れていませんか?ワタクシたちはあと約20分、つまり11時24分までこの場にいなければいけないんですよ」

 そうだった。HGの汗の放出が完了するまでこの場を離れるわけにはいかない。

 ふと脇を見ると、流石にアトラスさんもHGも探索に諦めの色が滲んできている。ここをなんとかあと20分持たせなければいけない。


 「しょうがない。なにかでっち上げの痕跡でも見つけて時間を稼ごう」

 「そうですね。なにか手頃なものがあればいいんですが…。ワタクシが見つけたのはこの、落ちていた文庫本だけですね」

 そう言って手渡されたのは、知らない題名のライトノベルだった。比較的新しいようで、あまり汚れていない。

 「落ちていたにしては結構綺麗なんだな。…さて、どうでっち上げるかな」

 これといっていい案も思い浮かばなかったので適当な事を言うことにした。

 「おーい!これ見てみろ!この本は多分、宇宙人の落し物だ!」

 うん、そんなわけがない。でもまあ十分騙せるだろう。あいつら馬鹿だし。


 「なに?捕虜よそれは本当か!?」

 「宇宙人も日本の本を読むのかぃ?」

 「あ、ああ、どうやらそうみたいだな。すぐそこに落ちてたのを班長が見つけたんだ」

 「はい、落ちていたにしては随分綺麗ですし、まず間違いありません」

 間違いしかありません、というのが本音だろうが、今は嘘をついてでもHGをこの場に引き止めなければならないのだ。あまりいい気はしないが、仕方がないんだ。


 しかし。


 「バレてしまってはしょうがない!」


 まるで悪役のようなセリフと共に、草原の向こうに現れた3体の生物は、どこからどう見ても、地球上の生物ではなかった。

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