ⅩⅣ「こいつら3人に任せられることなんて何もない」

 「俺は班長を!許さない!!」


 夜風を切りながら、俺は早々に格好良い台詞をぶちかました。

 これはファンが殺到してもおかしくないレベルだが、残念、サインをしている暇はない。

 というかファンなんていない。


 宇宙船とやらが墜落したらしい場所めがけて、班長が夜の街を駆けていってしまった。今日遊びに行った、山の中腹にある草原あたりだろう。目的地がわかりきっている分、探すのは吝かではない。

 それどころかハッキリ言って、探して後を追いかけてやる義理もないのだが。なに、理由は明快さ。

 あの野郎、俺の家にHGを置き去りにしていきやがった。

 午後11時24分という門限を守ってくれるようなことはないだろう。期待はしない。自分の身は自分で守るべきだ。


 「捕虜よ、私は見ていなかったのだが、本当に宇宙船なんて墜落したのか?見た限り、誰も外を見に出てくる様子はないぞ」

 「そうだな、家の明かりはみんな付いてるみたいだけど、外に出て様子を見るほどでもないみたいだ。俺たちだってそうだっただろ」

 「なるほど、たまたま見ていたのが班長だけだったと、そういうわけか」

 「それも怪しい限りだけどな。班長の脳内は案外メルヘンチックなお花畑になっているのかもしれない」

 「あんな辺境に咲くとは、あの班長のことだ、おそらく全て遺伝子組み換えだな…」

 「今はうまいオチをつけてる場合じゃない。11時24分まであと1時間だぞ!」

 「ん?なんだ捕虜、11時24分に何かあるのか」

 「あ、ああいや、ほら、今日はナウシカの再放送だろ!」

 「そうだったか、紅の豚だった気がするが…」

 一応その時間帯に再放送枠はあるのか…。紅の豚なら録画は不要だな。三回は見たから。


 班長の元への長距離走は、HGのペースに合わせて走っているので、現在はほとんど早歩き状態だ。

 こうしなければならないことを考えていなかったので、このタイミングでHGの汗爆発ポイントに向かうことは、結果的に悪くはないな。こんな閑静な住宅外でなみのりなんかしてられない。

 「HG、大丈夫か?無理はするなよ」

 「ハァハァ、大丈夫、だけど、ハァハァ、なんだか体が、すっごく重いよ…ハァハァ」

 「やはり運動不足は怖いな、年だからといって怠けることは許されんようだ」

 「そ、そうだな、俺も気をつけるよ…」

 おそらくもう、HGは飽和状態だ。まずい。破裂とかしないよな?班長が傍にいないとこんなに不安になるとは。くそ。


 20分ほど走ってようやく、取り敢えず山道の入口には着いたが、班長は律儀にもそこで俺たちを待ってくれていたようだ。

 「おい班長!こいつを置いていったら俺の家が水槽になっちまうだろうが!」

 小声で班長に訴える。すると班長は、

 「ああ、ごめんなさいすっかり忘れてました!そうですね。でもちょうどいいじゃないですか、おそらく宇宙船が不時着した地点とすぐ近くですよ、例の汗爆発ポイントは」

 自分の知的好奇心を肯定する材料はいくらでも持っているようだ。

 「そう言うけどよ班長、それって本当に宇宙船なのか」

 「確実です、間違いありません。なにか変な、なんといいますか、ちょうど二重瞼の方が私の腕を見ている時のような、見えないんだけど、何かあるっぽいな、そんな感じの物体が空から落ちてきていたんです。なんなんだろうなーと思っていたら、急にそれが鉄のタケノコのような形になって!そしてさっき稲妻のように落ちてきたんです!あれは間違いなく不時着した宇宙船ですよ!宇宙人も乗ってるはず…ふっふっふっふっふ」

 「…な、なるほどな」

 班長怖い班長怖い。


 「うむ、そこまで言うなら、私は班長を信じるぞホモよ」

 「誰がホモじゃ」

 「おっと間違えた、すまない捕虜。とにかく、私も宇宙人が見たいぞ」

 「ハァ…ぼ、僕も見てみたいなぁ、せっかく、…ここまで、きたし…ハァハァ」

 俺としては、汗爆発ポイントの草原にナチュラルにHGを連れて行かなければならないので、この展開は正直やりやすいな、出来れば後のことはこいつら3人に任せて、俺は帰って寝たいのだが、少しの時間の共同生活で察した。こいつら3人に任せられることなんて何もない。


 「それじゃあ、行こうか」

 木々がトンネルのように生い茂り、大口を開ける山道の入口へ、おっさん4人は、足を踏み入れた。

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