Ⅺ「ノックアウト!」
レシーブ、トス、ブロックが決まったことは、バレー部に所属していた6年間で、実は一度もない。
しかもアタックは、どこを狙って打っても、極端な話、自分の真下を狙って打っても、必ずおかしな軌道を描いて、尚且つ超高速で誰かの顔面に直撃する。
仲間たちには才能だと言われ、顧問には無能だと言われた。
とにかく。
6年間、退部を勧められたり実際真剣に退部しようか考えたり、曲がりなりにも、矛盾しているが真っ直ぐにバレーと向き合ってきた。
なのにこの様である。なんであろうとひどいコンプレックスだ。
ちなみに、俺が初対面の人間に対してニックネームを勝手に付けるのは、俺自身、人の名前を覚えるのが苦手というのもあるが(実は今仲良くつるんでいるおっさん三人の名前ももう覚えていない)、高校で所属していたバレー部内で、ニックネームで呼び合う伝統があったから。
当時の俺のニックネーム。
「ゴルゴ13」
馬鹿にしてやがる。
「そ、そうだったのか…。知らなかったとはいえ、捕虜には悪いことをした。すまなかったな」
「いいよ、アトラスさん。なんだかんだ言って言い出せなかったのは俺だし。それより班長、大丈夫か?それこそさっきまさに初登場時に断言してた魔法使い顔負けの空中一回転だったぞ」
「あまり初期のネタを引っ張ると作者が辛くなりますよ…うぅ」
大丈夫そうには見えない。まあそうだろう。高校時代はこれで何人ノックアウトしてきたことか。
その度顧問が俺をノックアウト!
「大丈夫かい?このままバレーするのは無理みたいだね。僕もこれだけで息切れしちゃったし。何より満足したしさ。一旦、捕虜くんの家に戻ってご飯にしないかぃ」
「そうして頂けるとありがたいです…」
「にしても班長、よくグラサン割れなかったな。俺はもう割るつもりで打ったのに」
「防護メガネですから、一応…。ていうか私に当てる気満々だったんですねなるほどよく分かりました」
「い、いや違う違う!あの位置からだときっと班長に行っちゃうなこれーあははーと思ってさ…あ、あはは」
「…まあいいとしましょう」
このマッドサイエンティストを敵に回してはいけない。きっと俺の昼食から何かしらの混入物が検出されてしまう。
「ごめんって、班長。俺だって当てない方法があるなら知りたいくらいなんだ」
「逆に当てる方が難しいですよ。そっちならバレーの教本にいくらでも載ってると思いますけど…。まあ、複雑な事情があるのはわかったので、今回は水に流しますよ」
そしてイン・ザ・マイホーム。
我が家でおっさん四人と昼食をとる日が来ようとは。
だがまあ、プロの味は最高。俺アトラスさんの店通おうかな。
ありあわせの野菜炒めに、小さな豚丼。ドリンクは夏らしい麦茶。
まっこと美味である。
「あ、このニュースまたやってますね」
つけっぱなしのテレビに反応したのは、班長だった。
「え?あぁこれねぇ。新しい鉱物が確かこの辺で発見されたんでしょ」
「え?何それ?俺初耳なんだけど」
「私も今初めて知ったぞ。なんだそれは」
「最近もっぱらの話題ですよ。ワタクシは薬物が本命なので、地学はあまり詳しくないのですが…。五日前、この町と隣町の間の…、あ、ちょうどほら、ここからも少し見えますね。あそこの山。あそこで新しい鉱物を、都市の方の研究チームが発見したんですよ。どうやら未知のエネルギーを持っているようですよ。そのウラヌスという鉱物は」
「ウラヌス…?」
アトラスさんと仲良く反唱。
「ええ、どうやらあの辺りの地層を調べた結果、数百年前に隕石の落下した形跡があるそうです。だから、もしかしたら元々は宇宙に存在していた鉱物なのではないかと、今色んな分野の学者から注目されているんですよ」
班長は、ワタクシは興味ありませんけど。と付け足した。
〝ウラヌス〟か…。
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