Ⅹ「死んで後悔しろ糞が!」
Let's play Volleyball!
糞ったれ。
汗が出なくなったHGの為におっさん4人は、現在地であるマンションから道路を挟んで向こう側にある公園を目指して歩いていた。
「うわぁ、ホントに汗が出ないね。なんだかとっても不思議な気分だよ。ありがとぅ、班長くん」
「いえいえ、喜んでいただけたなら光栄ですよ」
この二人はなかなか馬が合うようだ。マイペースなHGのテンションを難なく受け入れられるのは、若干天然が入った班長だけだろう。
おっさん4人がバレーボールを持って公園に入って行くのはなかなかシュールな感じでご近所様の視線が怖いが、どうやら先程の洪水事件のことで町役場の職員が調査しているようで、子供連れの大人の姿はなかった。まあ、この辺りには小さい子供が少ないってのもあるか。
「さて、この辺なら適度に広くて良いのではないだろうか。みんな、バレーのルールはわかるな?」
「い、いやごめんアトラスさん、残念ながら俺はバレーのルールを知らないんだ」
「何を言っている捕虜、貴様は中学一年生から高校三年生までバレー部だったと、昨日の夜言っていたではないか」
くそ、どうでもいいことばかり覚えていやがる。どうする。腹を括るしかないのか。
「それでは、ラインも引いたし、ネットはないが、まあなんとかなるだろう。始めようではないか」
「えぇっと…。僕、運動久しぶりだから全然できないよ?」
「安心しろ、元バレー部の捕虜と同じチームにしようと思っていたところだ。捕虜とHG、そして私と班長のチームだ。異論は」
「ありませんよ、よろしくお願いします」
「あ、ああ、大丈夫だけど…」
「…先程からどうも煮え切らんな捕虜、どうした」
「え!?あ、い、いや…。あ、そう!じ、実は腹が減ってもう動けないんだ!」
「この試合が終わったら好きなだけ食わせてやる。それに動き回ってから食べたほうが美味しいだろう」
その食材も光熱費も全て俺の家の蓄えだけどな!!
「では始めるぞ!先攻は私たちだ!くらえ!」
バシーンっなんて軽快な破裂音と共に繰り出されるサーブは見事、俺めがけて飛んできた。
避けるか、いやダメだ、この流れだといずれバレる。しょうがねぇ!
「そぉら!」
〝スカッ〟
俺のレシーブは見事にスカした。
「ちょっとぉ、しかっりしてよ捕虜くん」
「あ、ああすまん。俺も久々だから腕が訛ったかな。は、ははは…」
「ふふふ、落ち込むことはないぞ捕虜。貴様が遅いのではない、私が速すぎたのだ」
言ってろ。
「さぁ、まだまだ行くぞ!そら!」
再びアトラスさんのサーブ。だが今度は高く舞い上がり、割と手前に落ちそうだ。これはHGに任せてもいいだろう。
「う、うぁこれどうしたらいいの!?わわわっ!うわぁ!」
HGのレシーブで再び高く舞い上がるボール。
「さあ捕虜!来い!」
いやいやどんだけ俺に期待してんだアトラスさんは。班長まで神妙な面持ちでボールを待ち構えているし。
「捕虜くん、頼んだよ!」
HGまでそんな事を言う。
こうなっちまえばしょうがねぇ、いいさ、痛い目見るのは向こうなんだ。勝手に盛り上がってんのも向こうなんだ。俺、知らないっ!
「死んで後悔しろ糞があああぁぁあぁぁあぁあぁ!」
そう叫んで放ったアタックは
「はぃ!?ガフっ!!」
異常な速度と異常な軌跡を描いて、班長の顔面に命中した。
唖然とするおっさん二人に、空中で見事に一回転して背中から着地するおっさん一人。
そう、俺はバレーが下手くそなのだ。
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