Ⅳ「コイツコワイオナカイタイ」
これはマズイだろう。
いくら目撃者も証言者も死者も出なかったとはいえ、被害者、というか文字通り被害宅が出てしまったのだから、警察が動かないわけがない。
危険物取り扱い法違反とかかな。俺が所持しているのはただのスライムの神様だけなんだけどな。
いや、俺が捕虜として所持されてるのか。
爆発後の話をしようと思う。
あのあと、三人が三人とも、ポカンと間抜けに口を開けた状態で立ち尽くしていたのだが、少しして腕なし白衣が忍び笑いを始めた。
「ふふ、ふ、ふふふ、貴方たちなんて怖くないですよ…!ワタクシには特別な力があるのですから!逃げるなら今のうちですよ!!」
な、なんだこいつ、いきなり。てか意外と顔怖いな。
見た目の話をすると、俺より5cmほど小柄な身長165cmほどの細身、見たところ30代前半で、白衣を着用し、両肩より下がなく、スキンヘッドにサングラス、おまけに顔には火傷の様な傷跡がいくつかある。どこぞの軍隊の科学班かコイツは。
班長、と命名しよう。
班長には本人曰く、特別な力があるらしい。用心しなくては。
「で、あんたには具体的にどんな特殊能力があるんだよ。ドーピングでの肉体増強とか、改造散弾銃の連射とかか」
「違います、ワタクシは魔法使いです」
…お前ほど見た目とミスマッチな魔法使いはいねぇよ。ホグワーツ出直してこい。
「さあ、刮目しなさいっ!」
そう言うと班長はいきなり、2mほど宙に浮かび上がった。
…って、いやいやマジかよ!!?え?なんで!?ホントに魔法使い!?本物!!?
「ふふふ、言葉にも出来ないようですね。まだまだ序の口ですよ!!」
やべぇ、ガチで怖い。言葉も出ない。チビりそうとかマジか34歳。
待てよ、何か忘れてるような…。
あ、そうだ!俺には頼れる爆弾魔、アトラスさんがいるではないか!!
「ア、アトラスさん!! あんたならどうにかできるだろ!!?」
そう勢いよく振り向いた先に、アトラスさんはいなかった。
「彼ならワタクシが『逃げるなら今のうちですよ!!』と叫び終わる前に、私を追いかける時より更に速い速度で走り去っていきましたが…」
あの野郎…。
あのおっさんのニックネームを『メロス』にしなくてよかった。
もしそうなら俺は今頃ディオニスに殺されているところだったろうに。
というか見た目と裏腹に物腰丁寧な班長。
「ふ、ふふふ!これからが本番です!!」
なんて地に足をつけたけれども、だんだん悪ノリしてきているようにも見える班長。真の悪役はここで実力のほんの一部を見せつけて消え去るっていう、王道の設定があるんだよ。
ディオニス程度の暴君では、これからの文学界は生きていけないぜ。
とかツッコミをかましているけれども、不意に
「ぐふっ!?」
「あっ!?」
腹部を殴られた。
なんでだ?班長と俺のあいだは3mは開いてるぞ!? しかもあいつには両腕が…。
なるほど、これがそうか。
…というか向こうも本気で殴るつもりはなかったらしい。オイ。
あまり鵜呑みにしてはいけないと思っていたが、体験してしまったのなら、認めるしかない。
というか怖い。もう無理、アトラスさんのナゾ解明はまた今度にする。コイツコワイオナカイタイ。
「え…と、さ、さあ、まだ立ち向かってきますか!!?」
いや俺はお前に何も攻撃してないからね?
誰も立ち向かわねぇよ、立ち去らせてくれよ、てかもう立ってられない、コイツコワイオナカイタイ。
調子に乗り出してまた空中浮遊する班長。不気味な光景だ。コイツコワイオナカイタイ。
とにかく逃走経路を探す。あ、でも班長もなかなか足速いんだよな。大丈夫だろうか。
とりあえず、浮遊した真下を通り過ぎれば、細い裏路地があるので、そこに逃げようと思う。
「だああぁ知るか!せいぜいアトラスさんのスライムミサイル食らって爆砕しろ!俺は帰って寝る!!」
なんて捨て台詞を残して、班長の足元を駆け抜ける。つもりが。
「あ、どこへ行…うわ!」
〝ガツン〟
誰かの腕にぶつかった。
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