第181話 五連邪
不意に背後から突き飛ばされ、地面に叩きつけられた。ランスロットが立っていた空間を、別の
「油断するな」
耳元で聞き慣れた声がした。公孫翔だ。
「一体ではないぞ。気を引き締めろ」
剣を杖替わりにして立ち上がった。松明は次々と灯されたようで、広場は昼間のように明るい。
「馬鹿な」
炎に照らされた広場の
広場の中央に向かって、三十体ほどの化け物案山子がゆらゆらと移動を続けている。案山子どもの歩みは酷く
「行けるか?」
案山子を
「本体がいるはずだ。そいつを叩く。
浅く腰を落とした公孫翔の身体から気が立ち上る。何かをするつもりだ。
公孫翔が体内に貯めている気に
「
気合と共に公孫翔の身体が分裂した。一人が二人になり、さらに分裂が続く。
「
公孫翔が五人に増えていた。敵も異常なら味方も異様だ。
「五つ子か?」
問いかけた一番左側の公孫翔が
「ええっと、どれが本物なんだ?というか、指揮は誰が
「全員本物だ。一応、赤が指揮を執る」
「どれが赤だよ」
「来たぞ。迎え撃て」
左から二番目の公孫翔が前方を指差す。二体の案山子が近づいて来る。
五人の公孫翔が同時に動き、接近する案山子の片方に襲い掛かる。
「あ、五人で一人を攻撃するのね」
五人の攻撃に
気が抜けた。だが悪いことではない。敵は数でも力でも勝っている。怯えて動きが鈍るよりは全然マシだ。
襲い来る鎌の斬撃を防ぎ案山子の胴を両断した。案山子どもは
公孫翔は本体を探せと言っていた。だが案山子どもは皆同じ姿形をしていて区別がつかない。
松明の炎の灯りのせいで、更に闇が深くなった森への入り口から、一体の案山子が現れた。酒にでも酔ったような
「冗談だろう」
呻きにも似た声が口から洩れた。
案山子どもは森への入口を
布が避ける音と共に、頭を
「ニゲルモノは追わない。ハムカウモノは殺す」
藁のはみ出た右手を突き出し、森の反対側、街へと続く道を指差し、同じ言葉を吐き続ける。
剣客の中の一人が、街道への出口に向けて走り出した。四人ほどが後を追う。
五人の姿が闇に呑まれた。
案山子が指差した出口から、逃げ出した五人の首が転がり出てきた。出口の先の闇の中から、数十体の案山子が姿を現す。
「ニゲルモノは殺す。ハムカウモノも殺す」
中央に立つ案山子がけたたましい声で笑い出した。それに釣られて、他の案山子どもまで笑い出す。
中央の案山子目掛けて黒い影が
「これも
公孫翔だった。敵の本体を見極めようとしている。
五百体を超える案山子どもが動き始めた。中央にいる公孫翔に向かって十数体が宙を跳ぶ。
公孫翔に向かって駆けた。群がる案山子どもを斬り伏せ、五人の公孫翔と共に円陣を組んだ。
「囲まれたぜ。策はあるのか?」
背後にいる公孫翔に声をかける。背中を他人に預けるのは初めてだが、不思議と不安は無い。
「私とお前で、一匹残らず始末する。それでよかろう」
五人の公孫翔の中のひとりが気楽に答えた。確かにその通りだ。
「ランスロット」
「なんだ?」
「これが終わったら酒を
「公孫翔」
「なにか」
「死ぬなよ」
それを合図に敵に向かって駆けた。密集する案山子どもに斬り込み、片っ端から斬り倒す。
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