第178話 公孫翔
顔を出すたびに、母はアイリエッタの首を欲した。
三か月ほど旅を続けたころ、脇腹に
医者に見せたが、原因は解らなかった。強い
魔法や呪詛は、ランスロットの生まれた西の大陸にも存在する。だがそれらは、一定の条件が
教えてくれた亜人も、呪詛を治す方法までは知らなかった。呪いを仕掛けた相手を捜して始末しようかとも考えたが、心当たりが多すぎてそれも面倒だった。
東の大陸まで行けば、呪詛を払う祈祷師や呪師がいると聞き、船で東の大陸に渡った。
東の大陸は、緑が果てしなく続く森林地帯だった、主要都市を結ぶ交通網も未発達で、移動手段は自分の足か、馬や牛といった家畜の背に乗るくらいだ。
どこまでも続く道なき道を進まねば別の街に
港のある町から、東の大陸最大の都市バロムワンまでは昼夜を問わず馬を飛ばして四日は掛かるという。馬の
魔法陣の使用は、さぞかし高額なのだろうと訝っていたが、手持ちの現金でぎりぎり足りるほどの額だった。
金を払い、魔法陣の中央に立った。本当に一瞬で移動できるのかどうか怪しいものだ。詐欺や冗談の
魔法陣の中央に立つランスロットの体が真紅の光に包まれた。全身が燃えるように熱い。無数の針で体中を刺し貫くような痛みが走り、目の前が暗くなった。
目を開くと、辺りの様子が変わっていた。
魔法陣のすぐ脇に浅黒い肌の中年男が立っていて、異国の言葉で
「初めてか?」
西の言葉で話しかけられた。顔を上げると、
「一度死んで生まれ変わった。気分が悪いのはそのせいだ」
「意味がわからん。だが死ぬほど痛かった」
「これ以上は砕けないというほど小さくなるまで体を分解する。それをここまで飛ばし、この魔法陣で
「失敗したらどうなる?」
「消える。跡形も無く」
「親切だな。男好きか?」
「強い者が好きだ。男でも女でもな」
「ランスロットだ」
腕を差し出し、男の右手を握った。この男は強い。自分ほどではないだろうが、今まで会った誰よりも強いことは確かだ。
「公孫翔だ」
男が名乗った。コウソンショウ。変な名前だった。それに公孫翔の顔は妙に平たく、目も細い。
並び立つと、公孫翔はランスロットより頭ひとつ小さかった。武器らしい武器も持っていないところを見ると、使うのは体術だろう。
「目的のある旅か?」
「こっちにはいい女が多いって聞いてな。わざわざ西から出向いてきた」
公孫翔の正体が知れない限り、呪詛を解くという本当の目的は知られたくない。
「そうか。なら酒場に案内しよう。私が捜している男もいるかもしれないしな」
「ありがたいな。だが金が無い。貸してくれるか?」
トベーラでの移動で有り金をはたいていた。強い者が好きだというからには、公孫翔は腕の立つ者を必要としているはずだ。
「食い物は
苦笑しながら
バロムワンは想像以上に大きな街だった。そして数多の人種が
町の中は人間だけでなく、亜人やエルフまでもが当たり前のように
公孫翔に連れられて入ったのは、岩盤をくり抜いて作り上げた巨大な酒場だった。
「探し人がいるらしい。すまないが少しだけ待っていてもらえるか?」
熊のような亜人と話したあと、公孫翔からそう告げられたので、頷いて同行した。言葉も解らず字も読めないから、一人にされても注文すらできない。
奥の席に、大きな男が座って酒を飲んでいた。身の丈こそランスロットと変わらないが、掘り起こした岩のように
「九王バド・マーディガン様とお見受けしました」
男の前に膝を付き、公孫翔が頭を垂れた。西の言葉を使っている。
「元だ。今は違う」
野太い声で楽しそうに男が言葉を返す。隣の少女は視線すら向けてこない。
九王バド・マーディガン。その名は聞いたことがある。
「
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます