第二章 魔王復活
第42話 魔王覚醒
目を開くと、見慣れぬ天井が見えた。異様に低く、薄汚れた天井だった。その天井に、半裸の女を描いた絵が所狭しと貼り付けれらている。人間たちが作り上げた神を祭る教会とかいう建造物の天井に、似たような装飾が施されていたのを思い出した。
記憶を
「小僧」
あの人間の小僧、力などまるでなく、赤子同然に無力な存在だったくせに、まんまと手の内に乗せられ、してやられた。
龍の
龍の吐く灼熱の炎の直撃を受けたのだから、自分はともかく、人間であるあの小僧は跡形もなく消滅したのだろう。そう思うと、全身を
それにしても狭い部屋だった。ひょっとしたらここは牢獄なのかもしれない。だが最強の魔王を監禁するにしてはいささか粗末な造りだ。部屋の至る所に貼り付けられた半裸の女の絵には、魔封じの呪文でも描かれているのだろうか?
「フロガ・エクリクシー」
両手を天井に向け、爆発系魔法を放った。天井は吹き飛び、陽光が部屋の中に降り注ぐはずだった。
何も起こらない。至る所に張り巡らされた女どもの絵は、やはり魔封じの札なのかもしれない。
「ミスリルソード、ジェノサイドドーン」
愛刀を呼び出した。粒子化し、意思の力で再構築することで、どこでも取り出すことができる究極の剣だ。
何も起こらない。窓の外から、区役所とやらのお知らせで、どこかの年寄りが朝から行方知れずだと告げる声が聞こえる。
「やはり魔封じか」
自分の強大な魔力を封じるとは、相手は生半可な術者ではない。止めを刺したはずのエンノオヅネか、それに相当する使い手がこの部屋に結界を施しているのかもしれない。
「
狭く汗臭いベッドから起き上がり、部屋の中を見回した。ベッドと机と本棚。それだけしかない。机の前にはガラスをはめ込んだ額縁のようものが三枚ならべられていた。本棚の中の書籍は、やたらと目を大きく描いた人間の女が半裸で微笑みかける絵が表紙のものばかりだった。窓から見える陽光の具合からして、季節は冬だと見当がついた。
「ふん、我が力を
呪文詠唱に入った。通常なら詠唱など必要ないが、この部屋の結界は尋常ではないらしい。魔力を集中し、建物ごと一気に破壊してしまったほうがいい。
エネルギーが全身に
「オゥラ・ディアスプトラ。全ては無に帰れ!」
最強クラスの破壊魔法だった。あたり一面は草も生えない焦土と化すだろうが、そんなことは構わなかった。
凄まじい振動と共に建物全体が震えた。狂暴な破壊の衝動に身を委ね、
「己が無力を思い知るがいい、人間共!ぐっわっはっはは」
両手を天に突き上げ、エネルギーの
「朝っぱらからうるせぇんだよ、バカ兄貴!」
若い女の声がした。それと同時に後頭部に強い衝撃を受けた。不意の一撃に、思わず膝をついた。後頭部を直撃した物体が上から落ちてきて、膝の前に転がった。白い長方形の固形物だった。蝋のような表面に、ミルクリ石鹸と刻印してある。
後頭部を右手で押さえながら振り返ると、部屋と廊下を仕切る紙の引き戸が開いていた。体を白いタオル一枚で覆った若い女が、怒りに燃えた目でこちらを睨んでいる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます