第8話 外出
「店長、あの人」
レジ脇で揚げ物を陳列していた店長に声をかけた。
「な~に?明奈ちゃん。店長ねぇ、今とっても忙しいの」
このコンビニでバイトを始めて2カ月近くが立つが、明奈は店長の年齢を知らない。外見上は間違いなく男性なのだが、言動は限りなく女性に近い。だからといって、完全な女性かといえば、そうではないような気がする。
「いえ、あの、ちょっとやばいかもって」
男は店の駐車場に足を踏み入れた。
「やばいって、そんなにイケメンなの?」
「いや、やばいって、そういう意味じゃなくて・・・・・」
「イケメンじゃないなら、店長知らない。ねぇ、明奈ちゃん。春巻き、十個で足りるかしら」
「1時過ぎてるから、充分だと思いますけど」
自動ドアが開くと、男は一歩後退し、まじまじとガラス製のドアを見回し始めた。
「魔法か?それとも誰か
呟きというには大きすぎる声だった。
「エルフのいたずらか?」
受けを狙っているのか単なる危ない人なのか、明奈には判断がつかなかった。ただ、男の外見を見る限り、
「いらっしゃいませ」
声に反応し、男が顔を明奈に向ける。近所に住んでいる
「助かった。やっと言葉の通じる人に出会えた」
同じ日本語なのだから、言葉は通じるだろうと明奈は思う。コンビニにやってくる客の七割は、そこから先に問題がある人間が多い。つまり、言葉は通じるが、会話は通じないタイプだ。
「ここまで来る間に、四人ほどに声を
あまつさえという言葉を使う人を明奈は始めて見た。
「わたしを
真夏に
「ここは商店なのか?変わった店だが、
何がいいのかわからない。コンビニの店員に接する際の
「何かお探しですか?」
「欲しいのは情報だ。
「ここは
「ボルサールは城塞都市だ。知らないのか?」
知らないわよと明奈は内心で毒づいた。
「そうか。では、ここから一番近い大きな街の名を教えてくれないか?」
「
「イケ、ブクロ」
「池袋。サンシャインがある」
「サンシャイン。トベーラは使えるだろうか?」
「トベーラってなんですか?」
「トベーラ、
いよいよ
「池袋だったら、
「そうなのか。その三田とか埼京とかいうのは、馬車のようなものなのだろうな。それで移動する。なるほど。」
ひとしきり考え込むと、男は明奈に向けて笑顔を見せた。取り立てて
「ありがとう。とても参考になったが、残念なことに今は持ち合わせがない。いつか代金を支払いたいのだが、それまではこれを
男が腰に巻いたカーテンの切れ
「光の勇者であるわたしが
「この
男が抜いたのは、ホームセンターなどでよく見る、食材がくっつかないように刃の
「バンノウホーチョー?ホーチョーというのか、これは。だったらこれは、聖剣バンノーホーチョーだ」
思わず吹き出しそうになるのを
聖剣万能包丁に明奈が手を伸ばそうとしたとき、きゃっという叫びと共にけたたましい金属音が
「包丁、ごっ、
「店長、違います。この人は・・・・・」
その場を
「け、警察。そうよ。警察ね」
短い手足をばたつかせながら、店長がカウンターの下にある非常ボタンを押した。
「何?なんなのこれ?」
「まぁ、
テンぱると
「店長、違うんです。この人は多分」
多分の先が出てこなかった。多分何なのだろう?包丁を差し出す男を見つめ、明奈は首をひねった。
「どうしたんだ彼は?」
動じる様子もなく、男が店長に
「大丈夫か、きみ。
男が店長に歩み寄ると、店長のパニックは
「ショバラっ」
「スピバっ!」
言うだけあって、店長の
「何をするんだ?」
男がさらに店長に近づいた。店長はすでに二投目のモーションに入っている。
「ボラッチェっ」
パニックを起こしている割に店長は
だがその二投目も、男は僅かに体を
「こっ、来ないで、ね」
カラーボールは店長の手をすっぽ抜け、同じカウンターにいる明奈に向かって飛んだ。自分めがけて飛んでくるカラーボールが
「女性にものを投げつけるのはよくない」
左手に掴んだカラーボールをカウンターに置くと、男は店長を
「何を
男が静かに問いかけた。聞いているだけで不思議と落ち着く、
「ごっ、強盗」
男の握った包丁を
「強盗?わたしが?ああ、これか」
男が手にした包丁を
「
包丁を手にしたまま、男は明奈に微笑みかけた。
「おっ、お友達なの?明奈ちゃんの」
「違います」
「アキナというのか。変わった名だな。わたしは光の勇者」
「なっ、ナンジョウさんですよね」
ここでまた光の勇者などと言い出されると、
「ナンジョウ?わたしはナンジョウというのか?」
男は首を
「そうか。わたしは、あのとき死んだのか」
男の呟きは更にやばさを増していたが、明奈はもう
「そしてこの男に
店のあちこちを見回したあと、男はパチンと音を立てて手を打った。
「
ラノベの読み過ぎであっちの世界に行っちゃった人なのかもしれないとは、明奈は思わなかった。確かに行動は怪しかったが、男、ナンジョウの行動には、不自然さが感じられなかった。そして何より、店長の投げるカラーボールを躱し、明奈の眼前でキャッチしてみせた
「
南条は自分の体を
「剣は使えるのか」
南条は明奈にすまないと断ると、包丁の
シャキィィーンンン!
まばゆい輝きと共に、ステンレスの万能包丁から鋭い刃鳴りが響いた。
「おおっ・・・・・」
聖剣万能包丁を見つめていた店長が、その場にひれ
「眉月と有明のようにはいかないが、バンノーホーチョーも悪くはない」
見事な
「おっとけない。これはきみに」
南条が包丁を明奈の前のカウンターに置くのと同時に、床を何かが転がってきて、南条の
明奈が
「
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