第4話 聖剣
雪のように降り積もる氷の結晶の中に立つ勇者の前に、黒い影が立ち
「不思議な男だ。とりたてて魔力が強い訳でもなければ、
「妙に強い。単に運がいいというだけでは片づけられぬ強さだ。どういう
足を止め腕を組んだ魔王が、首を
「神などしらん」
勇者に目もくれず、魔王は呟き続ける。
「数百年の長きに渡り闇に
魔王の
「いんちき臭い神の姿が、貴様を通して見え隠れする。どうにも腹が立つ。貴様を切り刻み、いもしない神の
魔王の全身から、黒く淀んだ
「
魔王を包む瘴気の
「ミスリルソード、ジェノサイドドーン」
魔王の呼びかけに応じたように、魔王の右手に剣が現れた。白銀に炎の
「皮肉なものよ」
光り輝く剣を見つめながら、魔王が唇を
「聖なる炎の煌めきをその身に宿しながら、
魔王が光輝く聖剣を一振りすると、鋭く冷たい
勇者の顔が苦痛に
「これが
「
勇者の両手が交差し、二振りの魔刀が再び重なり合い、一輪の円刀と化した。光り輝く円月輪の放つ刃鳴りは、魔王が持つ聖剣の怨嗟の声を打ち消した。
「質問の答えを聞いていません。この戦争、ここで終わらせることはできませんか?」
「望み通り終わらせてやる。貴様を殺し、次の日の出までに半数の人間を殺す。ひと月後には、人間は
「ならば仕方ありません。勇者として、あなたを
勇者の手から、光の輪と化した円月輪が飛んだ。陽の光を宿した光輪は、複雑な軌跡を描きながら魔王の
魔王の聖剣が円月輪を弾き飛ばしていた。弾かれた円月輪は空中高くに姿を消した。
「相手の死角を襲うとは、勇者らしからぬ攻撃じゃな」
苦笑しながら、魔王が右手に持った聖剣の切先を勇者へと向ける。
「次はわしの番でよいか?」
勇者と魔王の間には、まだ数十歩の距離がある。魔王の持つ聖剣の間合いにはまだ遠い。
「ディメンションリッパー」
魔王が聖剣を一振りすると、
魔王が剣を一振りする直前に、勇者は地に
地に這いつくばった
「決死の特攻か。気の毒にのう」
魔王が二撃目を構えた。聖剣の力だけでは、空間を切り裂くなどという芸当はできはしない。魔王の魔力を刀身に伝え、それを
「円月輪十六夜、戻れ!」
地を這うように走りながら、勇者は叫んだ。魔王の持つ聖剣は、再び炎の煌めきを取り戻している。
勇者が進入してきた縦穴を真っ直ぐ上に向かって飛んで行った円月輪十六夜は、上空に輝く陽光を浴び、黄金色に輝いていた。月の名のごとく、日の光を吸収した円月輪は、より強大な
魔王が聖剣を中段に構えると、勇者との間に吹き荒れていた暴風が止み、舞い上がる粉塵も消し飛んだ。距離を詰め、魔王の眼と鼻の先にまで接近した勇者だったが、その両手には武器となるものは何ひとつ握られてはいない。
「遅い」
魔王は構えた聖剣を、突撃してくる勇者の正面から両断するように剣を打ち下ろした。
「ディメンションリッパー!」
勇者を両断するべく振り下ろされた聖剣は、空間を切り裂き、その先にある大地をも両断した。だが魔王の眼には、斬撃が直撃する寸前、勇者の姿が消失したように見えた。ハチドリの羽ばたきすら指先で捉えられるほどの
次の瞬間、魔王の懐に勇者が現れた。人の筋力では決して為しえない移動速度だった。
「馬鹿な」
闇の力を得た聖剣と、光の
両手で握りしめた聖剣で、魔王は迫りくる円月輪の圧力を防いでいた。どういう仕掛けかは不明だが、勇者の円月輪は最初に
「フロガ・エクリクシー!」
正面にいる勇者の左手が真紅に染まっている。これもまた解せないことだった。高高度の攻撃魔法を、なぜ詠唱もなく勇者が連発できるのか?それ以前に、ディメンションリッパーを躱した際に見せた高速移動が、なぜ人の身でしかない勇者に可能だったのか。
「舐めるな!
数百年ぶりに魔王は怒りを感じていた。
魔王の
「バゴス・エクリクシー!」
魔王は胴体から生えた新たな腕で、突き出された勇者の左手を受け止めると、発動した勇者の炎系爆発魔法フロガ・エクリクシーに被せるように氷系爆発魔法を放った。
炎と氷は、
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