第58話 ダンスと音楽と子どもたち
大学4年生のころ、ストリートダンスを教えていた時期がある。
自分のクラスを持つのは初めてだったのでとても記憶に残っている。
小学1年から6年生までと幅広いキッズクラスだった。
マンション街にある、カルチャーセンターのような場所を借りて週に一回のレッスンだった。
ダンススタジオでガツガツとダンスのスキルを。というよりは
学校の後の習い事、お母さんが仕事から帰ってくるまでの時間、体を動かす。
という目的のような子が多かった。
私自身は小学生のころからガツガツとレッスンをしてきたタイプだった。
子どもたちが何を求めているのか、それが一番大事。
週に一回だけど、その時間がみんなにとって何か意味のある時間になってほしい、そう思ってレッスンをしていた。
しかし、相手はやんちゃな子どもたち。
しかもダンスが上手になりたい!という意思が強いわけでもなく、何となく踊れたらかっこいいかなという感じ。
このレッスンに来ることが楽しければ良い。
そう思って、好きな音楽に合わせて体を動かす、まずはそれが一番だった。
リズムに合わせて、ジャンプしたり走ったり、止まったり。ケンケンパしてみたり、寝っ転がってみたり、それをリズムに合わせると、なんだか楽しくてみんなでゲラゲラ笑いながらやった。
そして気が付くとみんなで汗だく。
音楽に合わせて体を動かすことが楽しい、しかもみんなとやると面白いじゃん。
そう思ってもらえたらいいな、そんな想いで子どもたちと向き合っていた。
子どもたちのすごいところは、大人が何も言わずに高学年の子が年下の子のフォローをしてあげられる。それが自然とできる。
ダンスレッスンの中でも年齢差があることで、そんな環境があることはとても良かった。
ある日、1年生の子がレッスンに来ると「靴が片方しかない」と言い出した。カバンを見ても上靴は片方だけだった。
「お家から今来た?どこかによった?」
「家から今来た」
「どこ行ったんだろう?」
みんなで靴探しが始まった。
家までの道のりを歩いてみると、道にポツンと靴が片方落ちていた。
「あったよ!」ワーワーワー!
みんな宝物が見つかったかのような盛り上がりだ。
ようやく靴をはいてと。
さてレッスン!「みんなやるよ~」「靴はいたー?」
レッスンが始まるまでいつも何かしらがあって大変。
ようやく始められる。
でもまぁ、みんなそれがまた楽しいんだよね。
そんな感じで始まったダンスクラス。
最初は恥ずかしがったり、人見知りしたりと、距離があったけど。
距離が近くなると一気に、全員がおしゃべりになり。
「先生、今日踊った曲、何て曲?」
「今度ディズニーの曲でやりたい」
などなど興味を持ち始めて、自分で練習してくる子も出てきた。
とてもとても嬉しい瞬間だった。
初めてダンスと出会った子どもたち、
初めてのステージ本番が決まった。
地域の夏祭りだ。学校の友達も見に来るらしい。
みんなはソワソワとしていた。
それよりもソワソワしていたのは私、先生だった。
あと3か月で本番で踊れる作品にまとめなければ。
子どもたちの楽しみにしている笑顔を思い浮かべて作品作りに取りかかった。
子どもたちの初ステージまで、
続く。
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