第27話 うとうと白マスクおじさん

図書館で働いていた時のことだ。


再任用と呼ばれる、定年退職したあとに短時間で働いている人たちとも一緒に働いていた。

そのおじさんは、いつも小さい白の布マスクをしていた。



コロナになる前で、あべのマスクとか言われていた頃より前に、そのおじさんは白の布マスクをいつもしていた。

何回も洗って小さくなってしまった感じの白マスクが、トレードマークだった。



身長は大きく、くまさんのようにむくっとしていて、白髪。

強面なんだけど、いつもニコニコとしていた。


そして体が大きいのに、とても歩幅が小さい。

ちょこちょこと歩いてカウンターにのんびり歩いてくるので、「くまさんみたいね」と同僚の中では言われていた。



そんなマスクおじさんは世界中の図書館を旅してきたそうで、いろんな話をしてくれた。

日本国内も旅行と言いながら全国の図書館を巡って歩いているようで、出かけるたびにお土産をみんなに買ってきてくれた。



ある日、マスクおじさんと一緒に図書館のカウンターに出て仕事をしていた。

少し離れた席にマスクおじさんは座っていた。


平日のお昼過ぎはわりと空いていて、カウンターは平穏だった。


「すみません。」

その時、ひとりの大学生らしき男性がカウンターにやってきた。

そして私に言うのだ。


「あの、そこの受付やってないんですけど。」


その受付とは、マスクおじさんが担当しているカウンターだ。

見るとおじさんはいつも通り座っている。


「この時間ですのでやってますよ。」私はその男性にこたえた。

男性は笑いながら、

「でも、それがやってないんですよね。」


ふたりの間に沈黙が流れた。


ん?なんで?


「少しお待ちくださいね。」

マスクおじさんの席へと急いだ。


よく見ると・・・目をつぶっているではないか。

確かにやってない!あの男性の言うとおりだ!


お昼ご飯も食べて、図書館の中は暖かいし静かだし、心地よいのは分かる・・・

けれども。


マスクおじさん頑張ってくれ!起きてくれ!

私はマスクおじさんの名前を呼んだ。


「はい、こちらどうぞ。」

何事もなかったかのように、業務に戻るマスクおじさん。


「すみません。ご案内します。」

私は男性のもとに戻った。



なんて優しい利用者なんだ。

有難かった。

その男性は自分でマスクおじさんを起こすのも何だし私のカウンターに来たのだろう。

クレームを言うわけでも、怒るわけでもなく。

そして、「寝てますよ」とは言わずに「やってないです」と言ってくれる心遣い。


申し訳ないけど、とても助かった。

怒鳴られてもおかしくないシーンだったが、男性のおかげで笑いごとですんだ。


男性はくすくすと笑いながらも、帰っていった。



お昼ご飯の後のあの睡魔の時間。

うとうとには要注意。




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