第12話 回転木馬

日本語学校の行事で、東京ディズニーランドに行ったときのこと。


私は先生として引率で行ったが、学生と同じくらい前日からワクワク笑



当日、日本に来て初めてのディズニーランドという外国人留学生たちと、エントランス前に集合!


いやー、来ない来ない。


人数が揃ったクラスから入園するのだが、私の担当のクラスは30分過ぎても全然集まらずビリで入園。


1時間過ぎても到着しない人たちを待ち、いざ出発。不思議なことに時間通りに来てる学生も怒ることなく遅刻組を待ってあげる優しさ。


入学して3ヶ月、まだ日本の時間を守るマナーが分からないので、おいおいね。



入った瞬間からキャーキャーワーワー!


写真を撮ってなかなか中へ進まない。入り口でこんなに喜んでくれるなんて、こちらとしても嬉しい。



入園したら、各自でまわりたい人、他のクラスの人と合流したい人、そこは自由。学生といえどもみんな、大人ですから。


他のクラスに彼女がいるといってデートに行く子もいた。



ひとりじゃ不安な人や、クラスのみんなでまわりたい人は団体行動。


なんだかんだで十数人。


「先生、一緒に行こう。」そう言ってくれるのもまた嬉しい。


結局、1日一緒にまわるのは、インドネシア、スリランカ、ベトナムの男女10人くらいになった。


途中、他のチームや他のクラスと何回も出会い、そのたびにみんな嬉しそうに手を振りあって。


みんな、かわいいなぁ。


学生といくつも年が変わらないので、教室の外だから余計に先生というよりは友達みたいな感覚。



「先生!なんで、みんな座っていますか?」


パレードのために地面にシートをひいて座っている人たちが不思議でしかたない様子。


私は見慣れていたので、そうか、この光景はちょっと面白いよなーと思った。


パレードの説明をすると、まだ始まっていないのに座って待つのは変だと首をかしげていた。



アトラクションは当然、初めての経験なので大絶叫!大盛りあがり!


カリブの海賊はうるさいほどの盛り上がり。


船に私たち学生しか乗っていなくて、私は安心した。

何に乗ってもみんな、ノリの良さが素晴らしい。



そんな時、突然。


「あれ、いないよね?」

ベトナムの女の子の姿が見あたらなかった。


途中で他のチームに合流したのかな、そう言っている子たちもいた。


確かに、あっちのチームにいったりこっちのチームへいったり、そうやってまわっている人もいたので、その子もそうかなぁと思っていた。



そこへ携帯が鳴った。

「先生、どこ?」


泣きそうな声で電話をしてきたのはその女の子だった。

「みんな、いない。」

いつの間にかはぐれたようだった。



「今、どこですか?」

「わからない。」


「何がありますか?」

「わからない。」


分かる日本語だけで、場所を説明するのは大変。しかもカタカナもまだ微妙なので、アトラクションの名前や看板を読むのも難しい。


どうしようか悩んだ時


「何が見えますか?」

「先生!うま!ウマ!」と言った。



一瞬でピンときた。


メリーゴーランド。



「わかりました。今行きます。そこにいてください。」


私は他のみんなに説明をして、ダッシュでメリーゴーランドへ向かった。


いた!!



「せんせ~い!」


その子は大人で、私より背は大きいけれど、子どものように抱きついてきた。


「よかった!よかった!」

私たちは抱きあいながら笑った。


「よく分かったね、ウマ!」

ふたりで爆笑した。

そして、メリーゴーランドという言葉を教えると嬉しそうに覚えていた。



そして、またみんなが勢ぞろいすると1度も座ってないんじゃないかという勢いで、1日中遊びまわった。



全員が食べられるものとなると、ハンバーガーとポテトということになり。


夜ご飯は、肩を寄せ合ってイスに座りみんなでそろって食べた。



夜になり、パレードはぜひみんなに見てほしかったので、私は案内した。


キラキラした目をして、すごいすごいとはしゃいでいる姿は、こちらが見ていて楽しかった。


人生で初めて見たら、そりゃテンション上がると私も思う。何回も見ても毎回テンションあがるんだから。


カメラで写真を撮ったり、テレビ電話をして国の家族に見せたりしていた。



誰かに見せてあげたい。その気持ちが温かく、来てよかったなーとしみじみ感じていた。


感動したのはそれだけじゃない。


「先生!こっち!」「先生、見えないよ。」

そう言ったのは、クラスでもよく話すみんなのお兄さん的存在の男の子だ。


スリランカの高身長の男の子で、背の低い私を前にこさせようとするのだ。


「私はいいよ。見てきて!」


人が多く、混雑していたので見える位置にみんなを誘導して私は少し離れたところから見ていたのだった。


その男の子は、私を呼びに来て、みんなの前に私を引っ張った。


確かに、私がクラスで1番小さい。

教室ではそれでみんなで笑っていたのだ。

「先生、ちいさいねー」って。


私は自己紹介のときに「この学校で1番小さいです。」と言って、学生を笑わそうとしたのだ。


148センチ、日本人の中にいても小さい。



パレードも中盤。


スリランカの男の子に連れられみんなのところに行くと、「先生!ここ!」そういってみんなが、私を前に立たせようとした。



その心遣いが本当に嬉しかった。



他の国に留学して、初めて出掛けて、初めてイルミネーションのパレードを見て。


それなのに、見えないだろうな。

そうやって他の人を、思いやれる。


しかも私は日本人だからまた来られる、それなのに。


優しい。

ただただ、みんなの優しさが心に響いた。



「ありがとう。」

私はたくさん、伝えた。



きれいだねー

楽しいねー

今日はいいねー


みんなで幸せに浸りながら出口に向かった。



まだまだ言葉が通じないからコミュニケーションは難しいけど、

言葉じゃないものもある。


またひとつ、心が近づいた気がした。


またひとつ、国も言葉も文化も関係なしに、楽しい時間を共有できた。


それだけで十分。



魔法の国、ホントだよ。



終。


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