第7話 赤、白、デザートワイン

ワインとチーズ、最高の組み合わせ。

そこに、音楽とちょっとくらい照明と、心おきなく長話ができる人。


私の至福の時。



20代半ば、1番お酒を飲み歩いた。

1番の理由は職場の先輩が、お酒大好きだったからだ。


図書館の職場で出会った先輩は8つ年上だ。


武道をやっていて、美大を出て画家。ワインや着物に詳しく、オシャレなお店もたくさん知っている。黒髪ショートがとても似合っていて、仕事がバリバリはやい、もういろんなことが素敵な女性、憧れの先輩だ。


かっこいいなと思っていたが、何となく近寄りがたく、あいさつ程度でなかなか話す機会がなかった。



ある日、たまたま休憩室で同じ時間に休憩で、ふたりきりになった。


先輩がパラパラとめくっていた雑誌から顔をあげて

「アイス好き?」突然話しかけてきた。

嬉しビックリで、「好きです!」と告白みたいになってしまった。



その雑誌に最近新しくオープンしたというアイスクリームのお店が載っていた。


「美味しそうだよね、食べに行く?」


そんな突然のお誘いを頂き、その日仕事が終わった後、ふたりでそのアイスのお店に行くことになった。


何を話していいのやら、ふたりになると緊張した。



私はその時ピスタチオのアイスを選んだのをいまだによく覚えている。


アイスを食べながらおしゃべりをすると、クールな見かけとは違ってとても気さくで話しやすかった。


図書館で働いているふたりだから、本が好きなのはよくある話だが、話してみるとまさに「本棚」が同じだった。


本棚が同じというのは、読んできた本がかぶっているという事だ。


それから意気投合!


本の話で盛り上がった。アイスを食べ終わってしまったけど、もう少し話したいということになり、隣にあった素敵なバーへ行くことになった。



私はお酒を飲むのは好きだ。でも詳しくはない。

先輩はワインにとても詳しかった。いろんな種類を試しながらワインについて教えてくれた。


お酒が好きということにも意気投合して、初めてちゃんと話した日なのに終電近くまで話しがつきなかった。


ワインにチーズ、おしゃべり。

ワインをそんなにたくさん飲んだのは、その日が人生で初めてだった。



それから先輩とは度々、仕事終わりに一緒に飲みに行くようになった。


「今日行く?」

「行きますっ!」

私は先輩について行くのが楽しかった。


赤ワインにもいろんな種類があって食事によって選ぶこと、食前に白ワインで乾杯すること、デザートワインと呼ばれる何とも甘い美味しいワインがあること。


全てが初めてで素敵な時間だった。



何よりもお酒は誰と飲むかだ。


先輩は年が離れている私をいろんなところに連れていくことを楽しんでくれて、ありがたいことに可愛がってくれた。


本の話から仕事の話から家族の話、恋愛の話、地元の話。

何時間でも話していられた。



中でも、本については深い。


「あの本のあのシーンに出てくるあの人の仕草がさー」

こんな感じだ。


「あの仕草は、こういう気持ちなのかと思いました。」

「あーなるほどね、私はこう思ったんだよねー」

と真面目に話し合ったりもする。


「この1行がたまらないよねー。」先輩との話は面白い。


正直、本についてここまで語り合えるのは先輩しかいない。



私たちの関係は、ふたりとも図書館を辞めても続いた。

ワインを片手にのんびりをおしゃべりを楽しむ。

最高の時間だ。




あれからどれくらい時間が経っただろう。


世の中がホームステイになってから、一度も先輩に会っていない。


会えなくなってすぐはLINEをしたり、絵葉書を送り合ったりした。


でも、思った以上にホームステイ期間が長くなり、なかなか連絡をするタイミングを失っている。



次はいつ会えるだろう。

先輩は元気だろうか。


また一緒にワインを飲めるだろうか。



考え出すと、夜が止まらない。



終。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る