第8話 森の日日是好日
視力が良くなった。
きっと緑が理由だろう。
「緑を見なさい。」小さい頃言われていたことはあながち間違っていないかもしれない。
私は北海道に引っ越してから、よく散歩をするようになった。
以前の私は、素敵なハイヒールを履いてコツコツと歩くのが好きだった。
今も好きだが、ハイヒールを履いていくところがない。(家の周りは森)
一日中歩いているような生活をしていたが、常に左腕の腕時計を見ながら、目的地が決まっていて、いかに早くつけるかと歩いていた。
最近は、目的地がなくたって、理由がなくたっていいじゃないと思うようになり、ふらふらと外を散歩するのが習慣になった。
腕時計もつけず、帰りたくなったら帰る。そんな散歩の時間がどんなに素敵かを知った。
自然の中をひとり歩いているといろんなことに気がつく。
空の青の濃さ。雲の流れる速度。雨が降った後の土の匂い。
自然には時計もなければ、カレンダーもない。アラームもない。
なのにちゃんと暖かくなればその季節の花が咲いて、夏の暑さでも枯れない花がちゃんとあって。
ちょっと涼しくなるとどこから来たのか赤トンボがそこら中飛んでいる。
しかも、彼岸花は名前のごとく、ちゃんと日にちを外すことなく毎年お彼岸に咲いている。
寒くなるとちゃんと木の葉は落ちて。
みんな誰にも教えてもらってないのに、なんて偉いんだ。
人間は、アラームが鳴って朝だと起きて
時計を見てはご飯の時間だと何かを食べる。
カレンダーを見て衣替えをして
天気予報の温度を見て上着を着ていく。
それはそれはとても便利で快適だけど。
私もそうだけど。
自然ってすごいなってただただ尊敬する。
私たちの生活はいろんなことが数字で動いているんだなぁと改めて感じる。
晴れの日の散歩は、文句なしに気持ちがいい。
曇りの日は、動物たちに会えることが多いからそれがいい。
雨の日は、葉っぱが美味しそうに水を飲んでいる水滴が綺麗でそれがいい。
雪の日は、空気が痛いくらい温度を感じられていい。
まさに日日是好日というやつだ。
木の葉が風に吹かれて、川の水面に着地する瞬間を見届けながら、私はそんなことを考えて今日も歩いた。
終。
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