第6話 子どもたちのさようなら

「じゃあねー!」「またねー!」

「また遊ぼうねー!」「うん、バイバイー!」


子どもたちの声が響き渡る夕方。



私は夫の仕事場の、いわゆる社宅というところに住んでいる。

数分歩けば森の中のような自然に囲まれている。

でも自転車で行ける範囲にスーパーやコンビニがあるのは助かる。



そんな自然いっぱいの社宅は、団地のような5階建ての建物が13棟並んでいる。

そして私は、そのひとつの2階にすんでいる。



ベランダから見えるところに、朝の9時半に幼稚園のバスが迎えに来て、3時半に帰ってくる。

あまりにも時間に正確なので、「帰ってきたから3時半だな」とバスの音で時間が分かるくらいだ。


3時を過ぎると、小学生たちがいっせいに帰って来るので家の周りは賑やかになる。

そして夕飯の時間までは毎日、外で楽しそうに遊んでいる声が聞こえる。


いやー、何とも平和だ。



そこから始まるのが、子どもたちの別れの挨拶だ。


子どもの声ってとおるし、響くねー。部屋の中にいても声が聞き取れる。

しかも2重窓でもだ。(北海道の為、窓ガラスは2重になっている)



「じゃあねー」「またねー」「バイバイー」「また遊ぼうねー」

もう、これでもかってくらい別れの挨拶の時間がある。


それほど、名残惜しい時間という事だ。



それにしても、聞いていて思わず微笑んでしまうくらい。

彼らは、永遠の別れのように。次いつ会えるか分からないかのように。


大きな声で別れを惜しんで、隣の棟に帰っていく。(となり・・・!)



明日も学校で会うだろうに。

いけないいけない。大人のわるいところ。


明日も必ず会える保証なんてないものね。

毎日でも毎回、ちゃんと別れを惜しんで挨拶をしないとね。



あーなんて、彼らの心は素敵なんだろう。


かつて子どもだった私もそうだったのだろうか。


彼らの友情が続くことを願う。

明日の午後もきっと、一緒に遊んでいるだろう。



外から聞こえてくる彼らのピュアな、切ない「バイバイ」の声を何度も聞きながら、私は洗濯ものをたたんだ。



終。


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