第2話 たかが旧姓 されど旧姓

結婚して名前が変わった。

新しい名前に全く慣れない。

全くしっくりこない。

そんなもんなんだろうと思っている。

他の人はどうなんだろう。友達とはそういう話題になったことがない。


結婚する前は、苗字が変わることにそこまでの抵抗はなかった。

絶対にお婿さんがいいってわけでもなかったし、でも出来れば苗字を変えたくないなと思っていた。


日本でも夫婦別姓という制度ができた。

でも実際は、現実的にまだまだ社会的には変わっていないと感じる。


私のまわりでも、どちらの苗字を継ぐか、その問題で別れる決断をした人たちが何組もいる。



私は、結婚し苗字が変わった。

何か変な感じ、それが実のところ最初の感想だ。


苗字が変わるとやることがたくさんある。


銀行の通帳、クレジットカード、免許証、パスポート、保険証、資格証、診察券、ハンコ、仕事の書類、給料の手続き、ネットで登録したもろもろのもの。


いろんな手続きに追われる。


この何とも言えない気持ちは、きっと結婚して苗字が変わった人にしか共感できないだろう。


名前が変わるって思っているより、

何倍も寂しい。



先日、免許書の更新に行った。

旧姓併記が出来るようになったので、更新のタイミングでその手続きをした。


久しぶりに旧姓の名前を手書きで書いた。

その瞬間、なんだか嬉しかった。

そうだ、私の名前は変わったのだ。もう一度改めて思った。


この気持ちをひとりで抱えていることに孤独を感じる。


「名前が変わるのって大変だよね。」

「慣れるのに時間がかかるよね。」


大変だよね、慣れないよね、

ただ、そんな寄り添った言葉が欲しかったんだと思う。


そんな夫の言葉があったら少しは寂しさがなくなるのだろうか。


名前ひとつに、こんなにも自分という軸が揺れるんだと気付いた。



二つの名前が並んだ新しい免許書。

まだ誰にも見せていない。


旧姓の名前が何か公的なものに書かれている。それを持っている。

小さなことなんだけど。

誰かにとってはどうでもいいことかもしれないけど。


私にとっては、体の奥のほうにある引き出しのひとつにある安心、、、

なのかもしれない。


たかが旧姓。

されど旧姓。


終。




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