第31話 趣味を探してたらバニーが出てきた。前編

「そういえばさ、りっちゃんって趣味あるの?」


 学校の放課後、俺たちは帰る前に教室で一息ついていた。


 俺はサブミッションを筆頭に色々と言ってるけど、付き合いの長いりっちゃんの趣味に関してはあまり聞いたことがない気がする。


 料理……は趣味というより生活の一部って感じだし。

 今ひとつ、例えばスポーツなんかにハマってるビジョンは想像できない。


「そうだね、罪滅ぼしかな?」


 もの凄く重たい答えが返ってきた。

 しかもそれ趣味じゃないでしょ。


「そういうのはいいから。スポーツとかレジャーとか読書とか芸術とか、たくさん選択肢ってあるでしょ?」


「…………料理?」


「料理以外で。それもアリと言えばアリだけど、俺に聞くってことは自分でも疑問を感じてるってことなんじゃない?」


「そう言われると…………部活動にも入ってないし……いて言うならナオくんが趣味……?」


「いや俺が趣味ってどういうこと? ああ、もしかして──」


 部活動に入ってないのも、特別な趣味がパッと思い浮かばないのも、過去のトラウマからなのかも。


 確か昔、女子仲間から『勝負にならないからつまらない』みたいなこと言われてヘコんでたし。


 今だったらそのハイスペックは世間から賞賛されるんだろうけど……りっちゃんだからなあ。


「……? 急に考え込んで、どうしたの?」


「いや、ちょっとね。そうだ、りっちゃんのお友達には部活に入ってる子、いるよね?」


「うん、みんな大体はどこかに入ってるけど……」


「よかったら見学に行かない? 俺さ、転校してきたからこの学校の部活動ってよく知らないんだよね。あ、ここって見学アリなのかな」


 まあ転校前から部活には入ってないし、ここでも入る気はないけど。

 あわよくば、りっちゃんの現在の趣向のリサーチができるかもしれない。


「見学はいつでも大丈夫だったと思うよ。私、案内しようか? 罪滅ぼし兼、奴隷活動の一環にもなりそうだし」


「うん、そうしてくれると助かるね、友人として。あと絶対、学校で奴隷関連のワードはNGね?」


 もはや『奴隷活動』とかいうパワーワードにはツッコまないぞ。


「! そうだった。私ったら……最初はカミングアウトしたいって言っちゃったけど、今はナオくんと二人だけの秘密なのにね?」


『自分としたことがウッカリ!』という感じの返事が返ってきた。今日も彼女は相変わらずのようだ。


「ちょっとりっちゃんが何を言ってるのか分からないな」


 カミングアウトはジョークと処理して防いだのは覚えてるんだけど……二人だけの秘密?


 この子の中で今、俺らの位置づけってどうなってるんだろう。

 今度、機会を見つけて問いただしてみるか。



 そうして、俺はりっちゃんに案内される形で各部活を巡ることになった。


 屋外から校内ということになり、まずはサッカー部。


「あれ? 走ってる部員の中に、何か知ってるような人が……」


「あの真ん中の人? 西園寺さんの息子さんだね。サッカー部のエースらしいよ」


「ああ、メシ友の人か。道理で。でもすごいんだね、そういえば自信満々だったし……りっちゃんはああいうタイプのイケメンってどうなの?」


「どうって……?」


「いや、顔が良くてスポーツができるって一種のステータスじゃん? 勉強の方は知らないけど、あの自信から見るに、出来ないってことはないだろうし。女の子目線でいうとどうなのかなって」


「すてーたす……よくわからないけど、それってすごいの?」


 ……メシ友の人よ、彼女は君にもサッカーにも興味がないらしい。生きろ。


「じゃ、次行こうか」


 しかし、別に彼は友達というわけでもないので、声もかけずに俺たちはサッカーグラウンドを後にした。



 それから屋外スポーツを見て回るが、どうも彼女は野球その他にも興味はないらしい。


 ということで、屋内へと移動する。


 まず訪れたのは道場だった。


 ここは一区画を柔道部、もう一区画を空手部が使っている。

 剣道部は二階らしい。


 恐らくりっちゃんは格闘系にも興味がないと思うが、ここに訪れたのは理由があった。



「お、尚哉か! まさか空手部に入部──するわけねぇよな」


 友人であるノブが、実は空手部なのである。

 先ほどの理由とは、せっかくなので挨拶がてら友人に顔を出すことだ。


「俺、打撃系は禁止されてるからね」


「空手……ハッ! もしかして、それってナオくんの関節技に勝てるの!?」


 なぜかりっちゃんが話に食いつくが、特に空手自体には興味がなさそうな様子。

 というか、初めてそれらしいセリフを耳にした気がする。


「いや。俺、いまでもコイツのサブミッションは全く破れねぇよ。尚哉はな──はやすぎるんだ」


「それはまぁ……昔、足の遅さで痛い目を見たから、必死で鍛えてたんだよ」


「お前の飛び関節、マジでヤバいからな。目で追えないっていうか──気づいた瞬間にはめられてるってなんなんだよ……大体それ、柔道関係の関節技なんじゃねぇの……? 空手家相手に成立させてんじゃねぇよ……」


 俺が見た痛い目とは紛れもなくあの時のこと──りっちゃんに追いつけなかった件である。


 それからスピードを鍛えまくった結果、副次効果として俺の技は飛躍的に速さを増していた。


 そう、今のノブ相手なら瞬殺できるくらいに。


 ちなみに飛び関節は俺の封じ手の一つである。

 実際の柔道競技でも反則だったかな。

 ノブはそういうが、こいつって実はかなり鍛えてあるから問題ない。


 封じ手か……。

 その単語で、俺の中にある過去の出来事が頭をぎった。


 ◇


『尚哉よ。今日はとうとう【紳士道サブミッション】……その中でも、とある名の──いわゆる最終奥義をお前に授けようと思う』


『え、すでにサブミッションって全部名前あるでしょ? そもそも【紳士道サブミッション】なんて単語、初めて聞くんだけど。というか奥義って』


『そこはツッコむな。でだ、その奥義の名だが──【萬絶ばんぜつ】という』


『萬、絶…………』


『うむ、その反応……最近のお前にしては素直じゃないか。いかにも強そうな名前だと思うだろう。この父も同感、至極しごくもっともな感想だ』


『いや。その技名、少年漫画か何かからネーミングしたのかなと。なんならサブミッション的な名前でもなさそうだし』


『貴ッ様アアァァァ!!』


 そして俺は【萬絶】をめられた。


 ◇


 しまった、どうでもいい過去を思い出してしまった。


 ともあれ、彼女はアクティブな部活道関連、全般に対して反応が薄い。


 やはりここは本命の文化系だな。


 そう思い校舎の中へ突入し、各部を回ってみるが──


(主にりっちゃんが)歓迎こそされるものの、文芸も音楽も美術も……軒並みアウトだった。


 だが……あくまで俺の中でだが、もしかしたら少しは興味を引けるんじゃないかという部が一つ残っている。


 そうして俺たちは最後となる見学場所へ向かうのだった──

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