第7話 罪人の私は彼に説教される。
昼食後。
お昼ご飯を振る舞った私は、ナオくんの部屋で正座させられていた。
なぜならメシマズだったから? いいえ、違います。ご飯は美味しかったハズ。
発端は私が罪の意識についての発言────
『私ね──ナオくんに許されるなら、もうその後は地獄に落ちてもいいと思ってたの』
その言葉がキッカケだったのだから。
「え。地獄って、死んだ後に悪い事した人が行く地獄? 『地獄のような環境に』とか比喩じゃなく、ガチな方の?」
「うん、その地獄。私みたいな悪人はそういう末路がお似合いだなって」
「は? まぁ……『りっちゃんは悪くない』って言った事をまだ飲み込めてないのは仕方がないね。自罰的な性分っていうのもあるし。それはそれとして……地獄、なめてんの? とりあえず正座」
どうやら私は彼の中の地雷を踏み抜いてしまったようだ。正座は喜んでやりますけれどね。とりあえず正座体勢に移行しつつ、神妙に聞き返す。
「えっと、決してなめてるつもりはないんだけど……当然の報いじゃないかな?」
「──どうやら、りっちゃんには【八大地獄】の説明からしないといけないようだね。そうだ、さっきはオムライスごちそうさま。じゃあ、手始めに【
あっ、ナオくんの目、
そして。
「うぅう、ごめんなさい、今後は軽い気持ちで地獄に落ちてもいいなんて言いません。【
私は半泣きになりながら、『地獄を甘く見ていた』と反省するのだった。
しかし、ナオくんの実況を交えたかのような、あまりにも悲惨な語り口調。まるで地獄巡りを経験してきたみたいな臨場感だった。正座までさせて……ナオくんは地獄の回し者か何かなの?
「わかってくれれば良いんだよ。怖がらせてごめんね。でも、せっかく俺が大事にしようと思ってる人──その当人が自ら苦しみを望むだなんて、耐えられないんだ」
ナオくん、優しい……。もっと
「ううん、私を思ってくれてのことだし……
「は? 『せいぜい、拷問くらい』? りっちゃん……拷問なめてんの? モノにもよるけど、普通の神経じゃ拷問なんて耐えられないから。【
あ、またナオ君の地雷、踏み抜いちゃった。でも、このお説教は親愛の情ゆえにだろう。
そして。
「うぅう、もう絶対に軽い気持ちで、『拷問くらい』だなんて言いません。【ファラリス】怖いぃい!」
私は半泣きになりながら、『拷問を甘く見ていた』と反省するのだった。
しかし、ナオくんの哀しみすら交えたような、あまりにも凄惨な語り口調。まるで自分自身が拷問を受けたことがあるかのような臨場感だった。ナオくん、拷問に嫌な思い出でもあるの?
「わかってくれれば良いんだよ。怖がらせてごめんね。でも、せっかく俺が大事にしようと思ってる人──その当人が自ら苦しみを望むだなんて、耐えられないんだ」
ナオくん、優しい……。なんなら今すぐ抱きつきたいくらい。でもそのセリフ、一言一句さっきと同じじゃない?
「ううん、私を思ってくれてのことだし……あの、ところで。ナオくん的にはどの程度までの表現なら許されるの?」
「そうだね……ポンポン痛くなるとか、タンスの角に小指ぶつけるくらいなら。それはともかく、りっちゃんってば美少女な上にスタイル良し、料理上手とくれば、これはもう隙が無いね。話は戻るけど、腹痛も
「うん……さすがにタンスの角は、ささやかすぎる表現な気もするけど。とにかく過剰表現にならないように気をつけるね。それとは別に、私からも言っていい?」
「ん?」
「あの、お説教するか褒めるかメリハリを付けてください。もちろん褒めてくれるのは嬉しいよ? でも、さっきからお説教の最中にちょくちょく賞賛を挟むから、反省と喜び、どっちを優先すべきか凄く混乱しちゃって」
「ああ、言われてみれば確かに。語る最中、フッと感謝と感動の念が湧いてきちゃって、その場で言わずにはいられなかったんだ。うん、これからは──【会話にビックリ水】をしないよう、気をつけるよ。それから、足はどうぞ崩して。というか調子に乗って正座なんてさせてごめん」
「正座はいいよ、逆にいくらでも命令して欲しいくらいだし。それよりなんで中途半端に料理用語使ってきたの? なまじ言いたいことが分かる分、全否定できないというか。まださっきのオムライスが尾を引いてるの? お口に合ったのは嬉しい限りだけど、普通に『内容に水を差す』で良いんじゃない?」
「おっと、俺としたことが。溢れる料理愛のあまり、つい」
「あ、愛!? ナオくんってそんなに料理好きだったっけ……?」
「俺自身は料理が上手いわけじゃないよ。得意なものも偏ってるし、愛は言い過ぎたかな。大げさに言っちゃったけど──炒飯なんかを作るために大事に大事に育てていた鍋を、何も知らない父さんが洗剤でゴシゴシ洗った時にガチギレしたエピソードがあるくらいだよ。ちなみに反抗期に突入したのはソレのせい。自分でこう言うのもなんだけど、普段はあんまり本気で怒る方じゃないんだよ?」
「そういえばナオくんって本気で怒るイメージがない……。お説教はともかくとして。え、でも育ててた鍋って中華鍋だよね? それってかなりディープな話なんじゃ……」
「りっちゃんこそ、中華鍋の事だって分かったんだ?」
「うん。だってお母さんから、十年単位で育て上げてる中華鍋を『嫁入り道具の一つにする』って言われたし」
「りっちゃん俺と結婚しよう」
「!? はい、ふつつか者ですが──じゃなくて! それだと中華鍋が目的みたいだから、さすがに嫌だよ!!」
中華鍋一つのために即結婚を申し込む人なんている!? まあ、変じn──少し変わった所のあるナオくんだしなあ。
顔を赤くして動揺しながら断ったものの、危うく勢いでオーケーするところだった。
が、後になって『理由なんて何でもいいから、やっぱり受けておけばよかった』と後悔する私だった。
くたばれ私の乙女心。
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