冒険者パーティ登録作業
「んで、依頼ってやつはどこで受注できるんだ?」
受注場所は知っていた方がいい。俺は隣を歩くお荷物第二号に話しかける。ちなみに、第一号はフランネル。二号はメルフィナだ。
また厄介な人ができてしまった。ほんの少しの罪悪感が、やるべき思考の邪魔をする。まずは依頼をクリア。これが前提条件。
ロムはフランネルと笑顔を交わし。レネルとブライダは店をハシゴしている。買う気はなさそうで助かっているが……。
「ブライダさん。これ面白くないっすか?」
「レネルくん、こっちは美味しそうな食べ物いっぱいありやすよ?」
「いくら試食できても、食べ過ぎっすよ?」
「へ? そうでやすか? てっきり食べ放題かと……」
「二人ともそれくらいにしろ」
(そう簡単に責任取れるわけねぇよ……。まったく、どいつもこいつも迷惑かけまくりやがって……)
試食は食べ放題ではないのに、ブライダの食欲は止まらない。片っ端からへずりまくっている。
本当のことを言えば、俺も腹が減っている状態。しかし、試食で満たすのは論外だ。他の人を困らせるわけにはいかない。
唯一普通なのは、ロムくらいだ。彼はフランネルが迷子にならないよう、しっかり相手をしている。
「んで、メルフィ。受注場所は?」
「もう少しで着くわよ。ここは受付嬢がいないから……。そういえば、冒険者パーティのクラス登録はしているかしら?」
「クラス登録ってなんだ?」
「ってことは、まだやっていないのね。依頼の受注は〝クラス登録〟が必須だから。登録するところから始めましょ」
******
――『バレン様は、出場権を差し上げても良さそうですな。いかがなさいますか?』
――『そりゃ、令嬢が俺達と行動したいってんだから。出てやるよ。条件付きでな』
******
(初めて冒険者パーティ組んだから、めんどくせぇ……。あん時拒否すりゃ良かった……)
今更すぎる失敗。何事も素早く終わらせたい俺には、最悪なシチュエーションだ。メルフィは迷うことなくギルドの案内所へ。
きっと署名は必要になってくる。わざわざフルネームを書くわけにはいかない。昔の俺はいないのだから。けど、昔ながらの能力は残っている。
能力や実力は隠せない。隠したくても、必ずどこかでボロが出る。絶対にバラしてはいけない。護衛決定戦だけでは、あまり広まっていないはず……。
「もしかしてアンタ。名前で悩んでる? 安心してちょうだい。
「本当か?」
「あたしが嘘を言うとでも? まだ信用しきれていないようね」
「できるもなにも。俺はロムとレネルしか信用してねぇよ……。ったく……。ま、有力な情報をくれたことは感謝する。ありがとな」
入ってすぐのギルド受付。ここにはしっかり受付嬢がいた。外とは別でこの場所にも掲示板が置かれ、大量の紙で覆っている。
依頼の多さは一目瞭然。登録後の体力消費は激しいものになるだろう。
俺よりもロム達が心配だ。登録が終わったら、まずは腹ごしらえ優先で予定を組む。
「マスター。今大丈夫かしら?」
『これは、メルフィナ嬢様。なにか用事でしょうか? クエストが増える一方でねぇ……』
「たしかにそうね。で、あたしから嬉しいお知らせがあるのだけれど、聴いてもらえるかしら?」
『ほうほう、嬉しいお知らせでしたか……。よく見ると見慣れない顔触れが……』
「ええ、気づいたようね。この人達。冒険者パーティと言ってるのに、まだ未登録なの。だから申請に来たわ」
相当付き合いが長いのだろうか。メルフィナとマスターの会話が、トントン拍子に進んでいく。俺が出る間でもない。いや、俺達は関係ない。
『ではでは、登録書類に記入してもらえるかな? 先にパーティリーダーから』
「えっ? アタチから書いていいの? アタチがリーダーだもん‼ 書かせて書かせて‼ しょるいに書かせて‼ アタチが書くから、誰か抱っこして‼」
『これは……。彼女がリーダーでよろしいのでしょうか?』
(こうなると思ったぜ……。令嬢の食いつき具合はやりたい放題だ……)
絶好調でテンションが高いフランネル。冒険者パーティといえば、戦闘は付き物。それを知っているのかいないのか……。ただただ、やってみたいだけなのか……。
これにはみんなタジタジだ。俺はフランネルを抱き上げ、筆を持たせる。登録書類の枠からはみ出た文字は、とても可愛らしい。
〈パーティリーダー フランネル〉
書類の一番上に令嬢の名前が記入される。ここから下は、メンバーの氏名。メルフィの供述の通り、
俺にとっては好都合だ。次に筆を取ったのはロム。レネル、ブライダ、メルフィナ、執事と続き。俺の番。
「まずは……。やっぱ本名を書いた方がいいか?」
『そうですね……。姓があるならば、書いてもらえると助かりますが……』
「わかった。けど、大声は出さないでくれ」
〈メンバー バレン・アレストロ〉
〈
これで全員書き終わった。全部で七人分。メルフィもパーティメンバーになってくれたのは、少し不安が残る。
アレストロの令嬢といい。水の都〝シュトラウト〟の令嬢といい。大人しく部屋に
それよりも、俺が記入してからギルド内の空気が変わった。やはり俺の名は知名度が高いのだろうか……。
『バレン・アレストロ……。かの一件で亡くなったと聞いたが……。本人で間違いないか? 証明できるものがあれば……』
「証明できるもの……か。そうだなぁー。まずは、卸したばかりのメリナ通貨。次に聖剣……。本物かどうかは、触れればわかる」
『なるほど、では、早速……』
「呪いに気をつけろよ。っていうより。こうした方が手っ取り早いか……」
俺は聖剣を手にすると、自分の皮膚を切る。滲み出す紫の血。やはり、王族の血は薄い。簡単にその血をふるいにかけ、二色に分ける。
血の色は嘘をつかない。純血に近い平民ならば、混じり気のない赤色だ。混じった分だけ色が変わる。けど、まだ情報が不足している気がしてしまう。
俺のせいで、余計に時間がかかってしまった。立っているのがつらい。加えて眠くなってきている。さすがに昨日の夜更かしは、キツいものがあったようだ。
「バレン、大丈夫?」
はしゃぐ令嬢を一人で押さえるロムが、俺に問いかける。決していいコンディションではない。昨日から最悪な気分だ。
通常なら約十一時間の睡眠が、令嬢とあそんでいたせいで、その半分しか寝ていない。まあ、よく寝すぎと言われるが……。
半分しか寝ていない分、戦闘での疲労が
(デビュー戦だけは持ち堪えて…………)
――バタンッ…………。
◇◇◇ロム目線◇◇◇
「ば、バレン? 寝てる…………」
僕はフランネルをブライダに預け、受付前で横たわるバレンを見る。気持ち良さそうにいびきをかき、寝顔はこちらまで眠くさせていく。
思えば、彼は一日の半分を寝て過ごしていた。とても寝ている時間が長い。僕にはできない長時間睡眠だ。
「ロムくん、どうしやすか? 自分が控え室に連れて行きやすが……」
「わかった。ありがとうブライダさん。誰か近くの控え室を教えてもらえませんか?」
「ちょっと、あたしを忘れないでもらえるかしら? 案内するわ」
ブライダがバレンを抱きかかえて、メルフィナの後に続く。着いたのは、奥に窓が一つと、左右にベッドが二つ置かれた部屋。
ギルドの控え室はとてもキレイに整理されていて、ベッドのシーツは白く輝いている。
メルフィナにお礼を言うと、バレンを向かって右側のベッドへ。頭を窓側にして横にさせる。
これでしばらくは起きないだろう。いつの間にか、フランネルも横になって、一つのベッドで二人仲良く眠っていた。
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