水の都の令嬢
『大変だ‼ 大変だ‼ 魔物が現れたそ‼ 動ける兵士は守りに着け‼』
「バレン、来たばっかりなのに騒がしいね」
「だな」
『急げ急げ‼ 都周辺が囲まれている‼』
砂漠を進み到着した水の都。しかし、水というものはどこにもない。完全に枯れ果てて、水が流れていただろう場所は、水路の形をした堀だ。
まず最初に僕達は、水の都の長に会うために手続きを行う。執事のおかげですんなり入ると、バレンの案内で都の城へ。
バレンから聞いた話では、街や都には城があり、それぞれの王が管理しているとのこと。城だらけでよくわからない。
『今すぐ守りを固めろ‼ 襲われているぞ‼』
「マジかよ。みんな令嬢を頼む‼ 令嬢、お前は俺の言うことを聞いてくれ」
「うん‼ わかった。戻ってくるよね?」
「もちろんだ。あとは任せた」
バレンが一人で都の外へ出る。聖剣を持って、僕達に背を向けてスタスタと。そんな彼だけだと心配になる僕。
彼の欠点を知っているからなのだろうか? 僕も一緒に行きたい。きっと、僕とバレンには、多分なにかがあるはず。
気付かぬうちに駆け出す僕の足。だけど、なんだか足が重い。よく確認すると、フランネル令嬢がくっついていた。
「フランネル、ここは危ないからみんなのところに行ってて」
「嫌。アタチもやっぱりたたかうのぉ‼」
「バレンも言ってたよね? 小さい子には、武器を持たせるわけにはいかない、って」
令嬢を戦場には連れて行けない。でも、令嬢は駄々をこねる。甘えん坊なのか、好奇心旺盛なのか、怖いもの知らずなのか、ただワガママなだけなのか。
「それでも行くのぉ‼ 行くの‼ 行くの‼ 行くの行くの行くの、行くの行くの行くの行くの、行くのぉー‼」
令嬢の主張は止まらない。どうすればいいのだろうか? バレンならどうするんだろう? でも、このまま機嫌悪くさせるわけにも……。
「それじゃあ、大人しく見てる?」
「え⁉ 行っていいの?」
「大人しくしてくれたらね」
「ロムおにいたん、ありがと‼ だーーーーーいしゅき‼」
「アハハ……」
やむを得ず僕は令嬢を連れて戦場へ。怪我をさせれば、大変なことになるけど、令嬢の気持ちにも応えないと、違う意味で大変だ。
まだ小さいから、子供の面倒も見ないと責任問題になってしまう。心配で仕方ない。大丈夫なのかわからない。
砂漠の戦場。深い砂で足が持っていかれる。周りには大量の狼。砂漠だからデザートウルフだろうか?
割合としては敵の方が多く、水の都の兵士が押され始めている。僕も戦いに入ろうとしても、令嬢の護衛が優先。というより、戦闘は嫌いなのでやめてほしい。
『そこの人‼ 今すぐどきなさい‼』
「⁉」
『小さい子は特に‼ 当たっても知らないわよ‼』
後ろから聞こえた女性の声。僕が令嬢を連れて横にずれると、一人の女性が通り過ぎて行った。
サファイアブルーの鮮やかな髪をなびかせて……。
◇◇◇バレン目線◇◇◇
敵に囲まれた水の都。まさかこんなことになるとは思ってなかった。戦場を埋めつくすデザートウルフ。
俺一人では手が回らない。大規模な
最善策を考える。敵の攻撃範囲を計算して上手く回避。それに合わせて、呼び出した聖剣を振るう。
「これじゃあ、キリがねぇ。数年前はもっと穏やかな……。はずだったのに、っと、危なっかしいことになってるじゃねぇか……」
ボヤきながら攻撃を避け。ボヤきながら剣で斬り裂く。ボヤきながら蹴りを浴びせて。ボヤきながら過去を語る。
俺ができる範囲で、一掃したい気持ちを抑えて剣戦だけでやり過ごす。そんなすぐには数が減ったりしない。
(とにかく今は……)
――ザシュッ‼
「ッ⁉」
俺の身体から血が飛び散る。短時間で完治するので、気にしていない。攻撃してきた主を探すために前を見ると、細身の長身女性が立っていた。
髪はサファイアブルー。細い髪の毛が風に揺れる。
「あらごめんなさいね。つい手が滑ってしまったわ」
「フン……。それにしては、わざとらしいな。ま、俺には関係ないが……。先に名乗るのが礼儀じゃねぇのか?」
「ふふっ、よく知ってるわね。では、どちらから名乗りましょう?」
「好きにしろ」
「冷たいわね。そういう男は好きなタイプよ。じゃあ、先にさせてもらうわ。あたしはメルフィナ。水の都の令嬢で騎士団長。次はアンタの番……。と思ったけど……。よく見たら、アレストロ街王城の第二王子じゃない」
アレストロ街というのは、俺達が住んでいた街。そして、そのアレストロ街王城第二王子という言葉。
たしかに間違ってはいないが、第二王子としての俺はもう死んでいる。八年前の一件で、焼死扱いにされたのだから。
「人違い……。と言いたいところだが。肯定だけはしておくか。けどな。今の俺には姓がない。身を潜めるために捨てた。今はただの平民だ」
「なるほどね……。ということは。今はただのバレン……ってことかしら? アンタが名乗る前に呼んでしまったわ。失礼だけど、アンタはここで終わりに……」
「させるかよ。ってか、まずは住民の安全確保が先だろうが‼ メルフィナ騎士団長」
「メルフィでいいわ。長ったるいのは苦手でしょ?」
「相当調べ尽くされてるな。まあいい、続きは後にするとして、さっさと終わらせるぞ‼」
いつの間にかデザートウルフに囲まれ、俺とメルフィは背中合わせに立つ。互いの剣が触れ合う。俺は当たらないように。
メルフィは嫌がらせなのか、短剣を俺の身体に突き刺している。別にどうでもいい。殺されようが生かされようが、どっちに転んでも関係ない。
一斉に敵陣へ突っ込む。俺は長剣で激しく速く。メルフィは短剣で小刻みに。しかし、減る様子が全くしてこない。
「どんだけいるんだよ⁉」
「知らないわよ。それよりアンタ、手加減しているわよね?」
「ちッ。バレバレのお見通しかよ」
――
メルフィに指摘され、エクスキャリオンの能力を解放する。発声と共に爆音が響き、周囲を消し去ったが、敵は減らない。
次から次へと押し寄せるデザートウルフ。早く終わらせたい。こんな長期戦は嫌いだ。上級精霊を呼び出したい。
だけど、心配をかけるのが怖い。迷惑をかけてまで片付けることは、避けたい。仲間のために死ぬ。
ずっとそのままでいい。でも、見捨てる事だけは絶対にしたくない。それだけ俺は優しすぎるのだろうか?
「元第二王子‼ 何固まっているのよ‼ 早く終わらせるんじゃなかったの?」
「そっちこそ、俺はもう第二王子じゃねぇんだから、〝元〟までつけてまでそう呼ぶなよ。ま、考え事していた俺が悪いんだ。手を貸してくれ‼」
「あたしと付き合ってもらえるなら、いいわよ。この交換条件。どうかしら?」
「ん?」
「あまり乗る気はなさそうね……。だったら無理やり付き合ってもらうわ。令嬢としての指令よ。もちろん、アンタの秘密は全て隠蔽してあげる」
(勝手なやつばっかだな……。けど、従えば協力してくれるんだ……。興味は全くないが……)
メルフィが言ってる意味は知らなくていい。別に俺はどうでもいいんだ。きっとメルフィも、俺にいなくなってほしいはず。
死んでもいい。手っ取り早い方法も知っている。ただ、心配なやつが多いせいで、その気なれないだけ。
(俺の命なんか、天秤にすら乗らな……)
「交渉無しで成立ね。アンタには私のために生きてもらうわ。それも無期限で付き合い続ける。あたしに捕まった以上、覚悟しなさい。どこそこの死にたがり屋王子様」
「お前も、かか、勝手に……」
「あたしの自由なんだから。拒否権はないわよ」
(コイツもワガママかよ)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます