アタチにも武器貸して‼
「おにいたん、どこ行くの?」
「そういえば、向かう場所決めてなかったね……」
夜の出来事を思い出していた僕は、フランネルに声をかけられ、ふと我に返る。たしかに楽しかった。でも、今は街の外。
行き先もわからないまま、方角もわからないまま、広い平原を歩く。まるで、行き場のない渡り鳥のように、道に迷いながら……。
先頭を進むバレン。いつの間にか、フランネルをおんぶしている。どんなことでも優しすぎて、フランネルは彼の妹のようだ。
「それで、バレン。目的地は決まってるんだよね?」
「決めないで歩くわけねぇだろ。ちゃんと目星つけてるよ」
「よかった……。で、どこに?」
「水の都。ちょっと街で噂を聞いてさ。最近雨が降らなくて、枯れ果てているみたいなんだ」
「バレンおにいたん。みずのみやこ……って。おみずいっぱいあるの? ねぇどれくらい? どれくらい?」
フランネル令嬢の知りたい病。なんか嫌な予感しかしない。それよりも、水の都か……。初めて聞いた名前に、僕は想像を巡らせる。
もし水が溢れていたら、きっと魚がたくさんいるのではと。水も美味しいだろうし、海に囲まれていたりとか。
考えているだけで、とても楽しい。
「あれぇ? あっちの方になんかたくさんいるよ?」
「ん?」
「ほら、あっちあっち‼ あ、近づいてきたぁ‼」
フランネル令嬢が指さす場所を見る。迫ってくるなにか。四足で全力疾走して、僕達との距離が近くなっていく。手には武器を持ち……。
「執事、令嬢を頼む」
「かしこまりました。お嬢様、わたくしの方へ」
「えぇ~、おにいたんから離れたくないからいぃやぁ……」
「アハハ…………」
「さて、どうしましょうか……」
相当バレンのことが気に入ったのか、執事の方へ行かない令嬢様。これでは、バレンが戦えない。僕はバトルが苦手だし。
レネルとブライダは、全く気づいていない様子。どちらにしろ、今は僕しか動けない。
下手なブーメランを投げれば、取りに向かう途中で襲われるだろうし。接近戦の槍だと、攻撃を受けるのが怖いし。
恐怖しか感じられない。いや、一度冷静に考え直す。槍に乗れば、怖くないのではないかと。手持ちから槍を探す。
けれども、見当たらない。
「もしかして僕の槍。公爵家に置いてきていたりして……」
「おいロム、マジかよ。ちゃんと荷物確認したのか?」
「ごめんバレン……」
「まあいい。呼び出してやる」
――
「ついでに覚えとけよ」
バレンの詠唱で、街の方から僕の槍が飛んでくる。僕はタイミングよく飛び乗ると、迫る敵に矛先を向けて一直線に低空飛行。
体勢を低くして加速すると、敵にぶつかるタイミングでジャンプ回避。貫いたあとの槍に着地する。
「ロム大丈夫かー?」
「まあ、なんとか……。時間かかりそうだけど……」
「そうか。レネル、ブライダ。お前らも少しは手伝えよ。それに令嬢も」
「いやだ、アタチは
「わぁーたって。なら、魔法で戦うしかないか……。今なら大サービスで肩車だ」
「かたぐるま? やってやってぇ‼」
令嬢の扱いが上手すぎるバレン。子供好きというより、フランネルが妹同然と言わんばかりの、優しい兄の顔をしている。生き生きとしていて、とてもかっこいい。
そして、バレンの空いた手に、紅い光が出現する。それも大量に。生成された光は敵へと吸い込まれ、一瞬で焼き払った。
「バレン。それって……」
「下級魔法のファイヤーボール。知ってて当然の基本魔法だ」
「なるほど……」
「俺なら氷漬けも楽勝だな。ま、今までずっと隠していたわけだが……」
「そんなことないよ。実は僕、八年前のこと全て見ていたから……。最初から知ってたよ。王族ってこと」
「〝見ないでくれ〟と言ったのに……。まあ、仕方ねぇよな。ロム、さっさと終わらせるぞ‼」
「わかった」
――
僕は未だに謎の記憶から、槍の力を解放させる。今回は暴風。しかも氷が混ざった風だ。荒れ狂う雹が敵を巻き込む。
風が冷たい。肌を凍らせる。寒さに負けじと槍に纏わせ、恐怖を抑えながら強行突破。凍てつく槍で敵を
片っ端から凍結させて、片っ端から壊していく。ちょっと可哀想だけど、身を守らないと意味がない。
「バレン。そっちの方は?」
「問題ねぇ……。っておい⁉ 令嬢、重心変えんなよ‼」
「高いたかーい‼ しんちょういくつ?」
「178、ってそういう問題じゃねぇよ。重心戻せ‼」
ただの見物にさせる予定だった令嬢は、バレンの肩の上ではしゃいでる。たしかに、バレンの身長は高いし、口調はあれだが、人柄も良い。
「わぁーい、たかーい‼ へいげん広いねぇー。キレイだねぇー。もっと高くしてぇー」
「聞いてねぇし。やってやるからもう少し待て」
「むぅ……。それじゃあ、武器貸して?」
「危ないからやめておけ」
「なんで危ないの?」
「怪我をするからだ」
「いぃやや‼ いぃややぁ‼ アタチもたたかうのぉ‼」
たしかにその通り。何歳なのか知らないけど、小さい子に武器は持たせることはできない。
だけど、令嬢様はご機嫌ななめで、駄々をこねてばかり。まさか、武器に手を出すとは思ってなかった。
これでは、バトルもままならない。僕は一人で敵を倒していく。まだ能力展開が不慣れだからなのか、疲れやすくて力が弱まる。
「武器貸してぇよぉー。おにぃいたぁん‼ 貸して‼ 貸して‼ か、し、てぇ‼」
「ダメだ‼」
「……どうして、どうしてぇ‼」
「ダメなものは、ダメなんだ‼」
バレンは危険を避けるために、フランネル令嬢を説得する。だけど、令嬢様は言うことを聞こうとしない。
イヤイヤ期絶頂なのだろうか? 知りたがり病が爆発している真っ最中。
「アタチがリーダーなんだよ? それでもダメ?」
「もちろんだ」
「武器ほしい。みんなかっこいいから、真似したい。戦いごっこして遊びたい」
「怪我したら、大変なことになるぞ?」
「大変なことってなぁーに? むぅ……。でもやっぱり武器ほしい‼ 貸して‼ 貸して‼」
このやり取りは、いつまで続くのだろうか? 戦いながらのバレンも、完全に呆れ始めている。僕は仲介に入れない。執事もバレンにお任せ状態だ。
「ったく、何回言えばわかるんだよ……」
「武器ほしい。貸して‼ お願いぃ‼ おーねーがーいー‼」
「ダメって言ってるだろ‼」
「おーねーがーいー‼ バレンおにいたん‼ たたかうのぉ‼ アタチもみんなとたたかうのぉ‼」
「一つ聞くが、お前、何歳なんだ?」
「七歳‼」
「なおさらじゃねぇか」
「うぅ……。ぐすん……」
(令嬢様泣いちゃった……)
なんかバレンが、フランネル令嬢のお父さんに見えてきた。どんどんバレンの印象が良くなっていく。僕は槍を振り回しながら、二人を見ているだけ。
思えば、レネルとブライダの姿がない。どうかしたのだろうか? 辺りを見回す。彼らの影すらない。
執事は僕達を見守っている。心配そうな表情で……。
『今戻ったでやす!』
「ブライダ‼」
『オイラもいるっすよ』
「二人ともどこ行ってたの?」
「ちょっと二人でウ○コに……」
「聞かなかったことにしよう」
探していた二人が帰ってきた。これで一安心だ。襲ってきた敵も全滅し、水の都へと移動を再開する。
だけど、どうして水は枯れてしまったのだろうか? これにもしっかりした理由があると思う。バレンは、令嬢様を肩車したまま剣に乗り、上下移動で遊び相手中。
だんだん、平原から緑がなくなり、一面が砂漠へ変化していく。蒸し暑い。水の都が近くにあるなら、緑がもっとあってもいいのに……。
「これは、〝ナンバー・ストーン〟が関係しているかもな……」
「それって……」
「簡単に言うと、上級精霊の石のことだ。昨日使った〝イフリート〟は
補足すると、リヴァイアスは、リヴァイアサンを呼びやすくしただけらしい。ということは、その
僕達は、暑苦しい砂漠を歩く。日差しが強い。水分も持っていかれる。バレンは手持ちから水を取り出すと、みんなに渡し始めた。でも、バレンは飲もうとしない。
理由がわからない。質問しても教えてくれなかった。
「よし、もうすぐで着くぞ‼」
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