第7話・恩人ならぬ恩ドラゴンの人には言えない悩み

 「こっちから声が聞こえたぞっ!」


 ふていのやから、ってのを追い払って安心したのも束の間。

 抱き合って泣きじゃくるお嬢さまとネアスちゃんをどーやって宥めようかと悩むわたしの耳に、どう考えてもお嬢さまたちを探している人の声が入ってくる。えらい緊迫感溢れる声が聞こえてきた。

 これがどっちなのか。子どもの声を聞きつけて助けに来た正義の味方か、さっき逃げてったチンピラの同類か。

 どっちにしても、わたしは二人を守らないと、との決意と共に火を吹く準備だけした時だった。


 「いたぞ!」


 薄暗い中でもまだしも道幅が広くて明るい方から、完全武装の兵隊さんが姿を現した。

 顔だけだとよく分かんないけど、割と若くて動作もキビキビしてるし、マジメな人っぽい印象はあった。

 なので、一応立ちはだかって警戒はしたけれど、兵隊さんはわたしをチラッと一回見ただけで特には構わず、泣いてた二人に駆け寄って「大丈夫か?もう心配しなくていいよ」などと優しく声をかけていた。

 まあそんな感じだったのでわたしもちょっと安心して場所を空けようとしたんだけれど。


 「こるせあっ!まもってくれてありがとう!」

 「こるせあさんっ、あなたはだいじょうぶですかっ?!」


 むぎっ。

 駆け付けた兵隊さんに構わず、その二人に左右から挟まれるよーに、抱きしめられてしまった。

 そんな光景に兵隊さん、目を丸くしてる。

 えーと、助けに来てくれて助かりましたありがとうございます、的な視線で見上げたら、わたしが助けを求めてるみたく思われたのか、今度はわたしを挟みながら泣き出した二人を宥めてどうにかわたしは解放されたのだった。


 「殿下、こちらです!」


 そんな風にドタバタしてたら、今度は急きながらも落ち着いた物腰の声と共に、もう一人兵隊さんがやってくる。つか、「殿下」?また面倒なことになりそうな予感…。いや待て、こんな場所に「殿下」呼ばわりされてるひと連れてくんじゃねーわよっ!……という文句は、シナリオライターの人にぜひ伝えたい。だって、屋敷の外に出てしまったお嬢さまとネアスちゃんが悪漢に絡まれて助けられる、ってゲームの展開のままなんだもん。ちょっと違うのは、その登場によって助けられるはずだった二人が、お嬢さまのペットドラゴンたるわたしによって守られていた、ってことなんだけど。


 「さあ、もう安心だ。ブリガーナ家の令嬢が街中を何やら駆け回っているところをたまたま見つけたのが我々で良かった」


 説明的な台詞ありがとーございます。


 「ブリガーナは国家の柱石だ。その家族に何も無くてよかった。アイナハッフェ嬢、ケガはないか?」


 そして兵隊さんに護衛されつつ姿を現したのが、バッフェル・クルト・ロディソン。「ラインファメルの乙女たち」の舞台である青銅帝国の第三皇子、その人でした。

 ちなみに攻略対象の一人。そのルートではうちのお嬢さまと婚約した後、なんやかんやあってネアスちゃんとくっついてなんやかんやある人。


 …ここんとこの話を始めるとややこしくなるんだけど、幼少期ルートの結末如何に関わらず、お嬢さまとは婚約する運びになるのよね。

 で、幼少期ルートの終わる時にお嬢さまとネアスちゃんの関係がどーなってるかによって、バッフェル殿下ルートの流れが変わってくるとゆー。

 特に、ファンの間では「対立ルート」と呼ばれる、二人の関係がケンアクな状況だとお嬢さまの結末は悲惨そのもの。主人公にとってグッドエンドだとお嬢さまは国外追放、バッドエンドだと処刑。どっちにしても破滅する。

 これがいわゆる「親友ルート」だと、まあグッドエンドではお嬢さまは涙ながらに元婚約者と親友の幸せを涙ながらに祈りつつ退場、バッドエンドだと……えーと、確かここのルート回収してないから分かんないけど、他の「親友ルート」での各バッドエンドでの扱いから想像するに、あんまりありがたい結末では無いと思う。家が没落したとか。ああそういえば、二周目が親友ルートのバッフェルバッドエンドだったのかもしれない。国外追放されてたもんね。

 なんにしても、「親友ルート」のバッドエンドはいずれも、主人公目線でも親友の行く末としては後味悪かった覚えがあるのだ。


 それにしても、わたしにとっての一周目も二周目も、お嬢さまはろくな目に遭ってない。いやそこに至る経緯を思うと確かにお嬢さまにも落ち度はあったんだけど。

 そしてその末にこーして繰り返しを強いられている、というのであれば、やっぱり基本方針としてはお嬢さまが酷い目に遭わずにゲーム世界でのシナリオを完走出来るかどうかなんじゃないかな、って気はする。

 どこの誰だか知らないどなた様かの思惑にのっかってしまうのは面白くないけれど、まあわたしとしてもそこそこお嬢さまには情が移ってしまってる。

 だったら、そのお嬢さまが無残な最後を迎えてしまうのを避けようとがんばったって、別におかしなことじゃない。


 そういう風に決心して、わたしは第三皇子の前に、立った。


 少なからず、お嬢さまを破滅に追いやる可能性のある攻略対象とは、少しばかり距離を取っておいた方がいいかも、と。

 何せ、この危難を救ってくれた第三皇子にお嬢さまはベタ惚れし、なんやかんやと大人の思惑もあって婚約するとゆー流れになってしまうんだからね。


 ……って、思ってたんだけど。


 「こるせあっ!わたしたちをたすけてくれてたのは、あなたなのよ!」


 ……どーも、第三皇子の立場とゆーものをわたしが奪ってしまう格好になりそーな予感。

 そんな風に考えながら、後ろからぎゅーって抱きしめられたわたしは、困惑するばかりなのだった。

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