第6話 初めての家庭教師

 俺は渥盛拓哉、大学生だ。今日の講義が終わり教室で身支度の片付けをしていると後ろから声をかけられた。

「渥盛君、ちょっと話いいかな」

 後ろから女の子が声をかけてきた。振り向くと眼鏡をかけた女の子が立っていた。こんな子いたっけ?と思いつつも、俺は女の子の名前を必死に思い出す。大学の生徒は多いし、同じクラスでもよほどのことなない限りほとんど知らない。黙考していた。

「えっと。同じクラスの茅ヶ崎悠里だっけ?間違ってたらごめん」

 俺は謝る前提で名前を聞いたのだが意外に合ってたようでほっと胸を撫でおろす。俺すげぇと自身でも驚いていた。

「えっ!覚えててくれたんですか」

 茅ヶ崎さんは俺が覚えてたことが嬉しかったらしく、笑顔ではしゃいでいた。何か可愛いなこの子。

「全然喋ったことなかったけど、同じ講義で確か先生と話してた時、たまたま名前聞いてたから、たぶんと思って。合ってて良かったよ」

 俺は茅ヶ崎さんの事を名前が珍しいと覚えていた。

「私、このクラスに友達いないので、相談を聞いてもらおうと思って・・・いいですか?」

 茅ヶ崎さんは俺に相談したいことがあるらしい。お、これは恋の相談か?と思ったが俺は警戒した。前、大学を入学したての頃。ある女子生徒が俺に話しかけてきたことを思い出した。その娘が結構可愛くて言われる通りほいほい着いていってしまった。喫茶店で話すことになったんだけど、マルチ商法の勧誘でその店が3時間ほど話を聞かされた。ホント洗脳だよ。その勧誘を断るのは大変だったのを思い出す。

「大学の食堂で話でもいい?」

 大体、こういう勧誘は人のいるとこを賑わっている所を嫌がると言う事をネットに書いていたのを思い出し、茅ヶ崎さんに権勢をかける。ネットの情報も半信半疑だけど。

「それでいいですよ」

 茅ヶ崎さんは意外にもあっさり了承してくれたので、俺は肩透かしを食らう感じで学食へと向かう。

 ここの大学の学食は昼以外はパン、ジュースの自動販売機での販売になっている。昼休みは人で賑わっているが学食のテーブルは人はまばらに座っている感じだった。

 俺は自動販売機に向かい、茅ヶ崎さんの分と自分のコーヒーを買って、テーブルに持って行った。

「で、相談って何です?」

 俺は席に座る茅ヶ崎さんの前と自分の前にコーヒーを置いた。俺はコーヒーを。

「実はですね。渥盛さん、私のバイト代わってやっていただけないかと思いまして?」

 俺はドキドキしながら、言葉を待っていたが

「何のバイトですか?」

「家庭教師のバイトです」

「俺でいいですか?家庭教師やるの」

 俺は家庭教師のバイトをやったことは無い。今まで居酒屋の接客したことしか無いからどういうのかわからなかった。茅ヶ崎さん曰く、高校生の授業みたいな感じでやってくれればいいと言っていた。

「私がその日に家庭教師やるつもりでしたが、大学のサークル活動のボランティアをしないといけないんです。そのレポートを提出することで単位が貰えるのでしないといけないんですよ。最初はその日以外でやらせてほしいと頼んだんですがその日の翌日がテストなのでその日でないといけないと言われまして・・・で、私の知り合いでもいいからと懇願されてしまって、断り切れなかったんです」

「それはお気の毒に・・・なんで俺なんですか?」

「いや・・・・・頼みやすそうだったんで」

 それって、俺が頼みごとを簡単に受けてくれるチョロそうな男に見えたって事?とがっかりする。

『そう、気を落とすな、拓よ』

 俺に銀が話しかける。あそこに慰められるのも段々慣れてきた。俺は茅ヶ崎さんのお願いを明日までに返事をするから考えさせてくれと頼んで、今日は別れた。

 茅ヶ崎さんは帰り際に「報酬はよい値なので安心してください」と太鼓判を押していた。

 

 その日の夜


 俺はいつもの居酒屋のバイトを終わるとアパートに帰り自分の晩御飯をテレビを見ながら遅い夕飯を食べている時だった。スマホの着信が鳴り出す。こんな時間に誰だと思いスマホの相手の名前を見て、またかよと思ってしまった名前だった。着信元の名前は阿澄亜沙子と表示されていた。阿澄さんはひょんなことから出会ったOL。何故か、可愛い人なのによくフラれる残念な美人というやつだ。

『阿澄殿からよくかかってくるな、気に入られたか?拓よ』

 銀の揶揄を聞き流しながら、俺はスマホの通話ボタン押し会話を始める。

「もしもし、どうしたんですか?こんな時間に?」

「あー、ごめんごめん。今週の日曜日、暇?私、暇になったから買い物行こうよ。お姉さん奢るよー」

 阿澄さんの電話の声は上機嫌だ。何かその機嫌がいいのが俺は怖かった。

「今週の日曜日ですか?バイトなんですよ。お誘いはありがたいんですけど」

「何のバイト?」

「知り合いから頼まれてその日、高校生の家庭教師のバイトです。初めてですけど」

 俺は阿澄さんのお誘いを丁重に断る。最初は給料良くても家庭教師は辞めようと思っていたが阿澄さんのお誘いを断るいい材料だと思い、その場で家庭教師をやることを決心する。

「なら、私も一緒に行ってあげるよ」

「何でそうなるんですか」

 俺は阿澄さんのいきなりの提案に困惑した。しかし、阿澄さんは大学生の時に家庭教師のバイトをしたことあるらしく、俺のサポートで一緒について行くという提案だった。嬉しい提案だけど困ってしまった。茅ヶ崎さんに聞いてみない事にはこの提案は通るか分からない。俺は一旦、阿澄さんの通話を切り、茅ヶ崎さんにメールは聞いていたので阿澄さんの提案を確認してみた。

 茅ヶ崎さんから返事は意外にもあっさりOKが出たので安心した。先方に確認してくれたみたいで、二人でも大丈夫ですよと返事も返ってきた。その返事を阿澄さんに報告する。

「よし。私頑張って教えちゃうね」

 電話の向こうは鼻歌まじりで楽しそうな阿澄さんの声が聞こえてきた。通話を切ると俺は茅ヶ崎さんが送ってきた住所を阿澄さんに送る。家庭教師をやる前にこんなに疲れるなんて思わなかった。当日は現地で落ち合いましょうと連絡を入れてその日は終了した。


 日曜日


「何だよ。ここ・・・」

「凄いわね」

 俺はつい見上げてしまう。茅ヶ崎さんに送ってもらった住所に来ているのだが、立派な門構えに驚くというかビビる。それもそのはず、その門の表札には犬神組と書かれていた。俺は茅ヶ崎さんに送ってもらった住所を二度見する。でも住所は合っていた。あれ、ここってもしかして・・・

「ここって、もしかしてやくざ屋さん?」

 俺が言おうとした言葉を阿澄さんが先に言ってくれた。阿澄さんの今日の格好は伊達メガネをかけスーツ姿でいかにも勉強できますって感じを醸し出していた。妙にエロさも滲み出ていて童貞の俺には刺激が少し強く感じた。

「そうみたいですね。帰りましょうか?」

「入らないわけにはいかないでしょ。仕事しない方が殺されるんじゃない。分かんないけど、どうする?」

 俺は入らないという提案をしたのだが、阿澄さんの言葉を聞いて、顔が青ざめる。阿澄さん、怖い事言わないで下さいよと心の中で思った。俺は貧乏な学生だ。金の為なら家庭教師やるしかないと思い、インターホンを押した。心臓はバクバクだ。

「今日、家庭教師にやってきた渥盛と言います」

「あ、お嬢の家庭教師さんですか。お待ちしておりました。今開けますぜ」

 スピーカーの向こうの声は声が野太い男性の声だった。

 その後、門が重苦しい音を出して、開いてきた。そこには組員と思われる人たちが石畳横に立ち頭を下げ、「お疲れ様です」と声を張り上げる。異様な光景に俺と阿澄さんは圧倒されて引く。歩いて玄関に向かうまで俺は頭を下げながら歩いていたが阿澄さんはのほほんと歩いて、俺たちは何とか玄関にたどり着く。阿澄さん、神経太すぎないですか。玄関に着くまで俺は気疲れしてしまった。

 俺が玄関を開けるとそこにはサングラスをかけた厳つい顔をしたスーツ姿の男性が正座で座っていた。

「ようこそお越しくださいました。お嬢が首を長くしてお待ちしておりやした。渥盛様、阿澄様。あっしは鈍八と申します」

 鈍八さんは頭を下げ、一礼をした。

「頭を上げてください」

 俺は鈍八さんに頭を上げてもらうようお願いした。一つ一つの動作が心臓に悪いよ。阿澄さんは特に何もせず玄関を見渡していた。玄関周りの装いや置物はザ・和風で固められていた。

「中も凄いわね」

 阿澄さんは玄関の置物を眺め感心していた。

「上がって下さい。お嬢があちらの部屋でお待ちしております」

 俺たちは鈍八さんの案内でお嬢さんの部屋に案内された。案内された部屋のドアには【メイ】と書いてある可愛らしい名札がかけられていた。

「お嬢、家庭教師さんを連れて参りました」

「どうぞ入ってください」

 鈍八さんが俺と阿澄さんに部屋に入るように促された。俺たちはドアを開けると部屋に入る。

 そこには黒の長髪で椅子に座ってこちらを見ていた少女がいた。顔だちも整っていて日本人形みたいに綺麗だった。

「茅ヶ崎さんの代わりの方ですよね?私は犬神愛衣と言います」

「はい、茅ヶ崎さんの代わりにきた渥盛拓哉です。こっちは僕のサポートで阿澄亜沙子さんと言います。よろしくお願いします」

「私は阿澄です。この子の付き添い。よろしくね」

 愛衣さんは自己紹介した。俺もそれに応えるために自分の自己紹介と阿澄さんの紹介する。阿澄さんは俺の後ろから愛衣さんに軽い挨拶をしていた。

 鈍八さんは俺たちを案内し終わると「あっしはこれで」と去っていった。鈍八さんが出ていくのを確認すると愛衣さんは口を開いた。

「私は国語は得意な方なんですが、数学がどうも苦手で」

 愛衣さんは恥ずかしそうに言い出す。本棚を眺めると有名どころ、小説やエッセイが並んでいた。

「私、文系の大学に方に進みたいんです。でも、高校は全体的に成績良くないと推薦も難しいと先生に言われました」

「そうなんですね」

 俺は愛衣さんの言葉に同意し、頷く。

「もうすぐ、学期末テストがあります。だから、数学を教えて欲しいんです。お願いします」

 愛衣さんは俺に頭を下げた。俺は茅ヶ崎さんに教える学科の情報を教えてもらっていたから、高校数学を復習してきた。久しぶりに読み直し、自分なりにおさらいしたが昔の俺はよくこんな問題解いてたなと感心してしまった。

「じゃぁ、勉強やりましょうか」

「はい。お願いします」

「じゃあ、私もやる」

 俺が数学の勉強をやる音頭を取ると阿澄さんもやる気を出していた。

 俺が愛衣さん数学で解らない所があると答えの導き方を教えた。阿澄さんも自分が分かるところになると愛衣さんに率先してくれていた。家庭教師のバイトをしていただけあって愛衣さんも頷き理解していた。

 そんなこんなで2時間ほど勉強に集中しているとドアが鳴る音に全員で振り向く。

「お嬢、少し休憩してください。お茶とお菓子を大広間に用意してあります」

「ありがとう、鈍八さん」

 俺は集中していたから、休憩という言葉に緊張の糸が途切れる。中々、人に教えるという行為がこんなに難しいとは思わなかった。阿澄さんがいなかったらてんぱっていた。その阿澄さんはと言うと「お菓子、お菓子」とルンルンだった。

 俺は大広間に着くとまたびっくりしてしまう。

「本当に凄いな。これは」

 俺の見た光景はだだっ広い広間に畳が敷き詰められ、その中央に座敷テーブルが置かれ、その上に鈍八さんの言ってたお茶とお菓子が置いてある状態だった。障子や襖もまさに和風、襖の柄も一般家庭では見たことない柄で特注品なのだろう。まぁ、今の家庭は襖を設置してある家は少なくなってきている。俺も母さんの実家に帰省した時に襖がちょこっとあったのを思い出した。

「お茶、冷めるよ。早くこっちに来なよ」

「美味しい。脳の疲れには甘いものですね」

 二人は俺より先に行ってしまい、すでに休憩を開始して寛いでいた。阿澄さんはお茶を飲みながら俺を呼んでいた。愛衣さんは黙々とお菓子を食べていた。

 俺も二人の所に行きお菓子を食べながら、三人で談笑していた。

 その時だった。

 がばっ!と襖が勢いよく開いた音に俺たちは反応し、音のした方向を見る。

「愛衣、勉強頑張ってるか」

「皆さんのお邪魔をしては駄目ですぜ、叔父貴」

 鈍八さんに止められる形で叔父貴と言われてる男性が一升瓶とグラスを持って豪快に登場した。何だこの人は。額には刀傷が見え、白髪で紋付き袴でビシッ決めていた。凄い威圧感だ。俺はその姿に怖気ついてしまう。

「おじいちゃん、ここには来ないでって言ったでしょ」

「いやぁ、すまん。家庭教師来とると聞いたから合ってみたくてな」

「会うだけなのに何でお酒持ってるのよっ!」

 愛衣さんはお菓子を口に放り投げると明後日の方を向き、怒っているようだった。

「愛衣さん、こちらはどなたですか?」

「わしは犬神強三。ここ、犬神組の三代目組長じゃ」

 その後、強三さんは老人特有の長い世間話が始まった。奥さんは早々と亡くなってしまい、娘二人との生活になった。長女は婿養子を取って家に入ってくれたのはいいが如何せん世間の目は厳しい。婿に継いでもらうように長女に頼んだらしいのだが、継がせないと断られてしまった。次女は早々と嫁に行ってしまった。だから、4代目探しに苦労していると言っていた。そして長女の娘がここにいる愛衣さんだと言う事も。

 強三さんは寂しそうに語っていた。

「誰か、酒に付き合ってくれる人はおらんかのぉ」

 強三さんは泣き出す。

「私が相手しましょうか?」

 阿澄さんがお菓子を頬張りながら強三さんの提案に手を上げる。

「おじいちゃんの相手なんかしなくていいです」

 愛衣さんは阿澄さんに相手をしないようにお願いしていた。何でも、長女や孫の愛衣さんが相手をあまりしていないから、家に来た人を片っ端に泣きで相手をしてもらうよう頼んでいるらしい。だから、相手をすると面倒くさい事になるとも言っていた。それを聞いても阿澄さんは首を横に振らなかった。

「私、お酒強いから大丈夫」

 阿澄さんは愛衣さんに自信満々に答える。それ嘘でしょ、あんた、タダ酒飲みたいだけだろうと俺は内心思っていた。本当に大丈夫かよ。俺は心配でしょうがなかった。


 二十分後


「おじいちゃん、もっとお酒持ってきて」

「いい飲みっぷりだ、お嬢さん。もっと持ってこよう」

 阿澄さんはのどをぐいぐい言わせながらグラスの日本酒を飲み干す。強三さんは

阿澄さんの酒の飲みっぷりに実に楽しそうに飲んでいた。てか、酒強すぎだろ、阿澄さん。

 俺と愛衣さんはその横で勉強する。阿澄さんが粗相しないか心配で俺は愛衣さんにお願いし、この大広間で勉強している。最初の2時間で俺は家庭教師の要領を覚え、数学を愛衣さんに教えていた。

「おっ、渥盛君。勉強捗ってる?」

「うわっ!何ですか。」

「ちゃんと教えてるかなと思って、邪魔しに来た。えへへ」

 阿澄さんは俺の後ろに回り込み、手を肩にかけ話してきた。口から出る息が臭い。折角、かっこいい感じだったのに、いつもの飲みの阿澄さんだ。

「ちょっと今、愛衣さんに教えてるんで絡まないで下さい。うぁっ、酒臭い」

「だって、今飲んでるんだもん。ねー、おじいちゃん。愛衣ちゃんも頑張れー」

 阿澄さんはお昼から飲んでいて最高と言わんばかりの笑顔だった。

「そうだの。実に今日は楽しい。がはは」

 強三さんも上機嫌だった。愛衣さんも慣れているようで勉強に集中し、一切話しかけていなかった。愛衣さんは相当、今回のテストにかけているようで頑張っているように俺は見えた。俺もその光景にひとまず安心する。

 その時だ。


 ガシャーーーン


 玄関の方から大きな音が聞こえた。その音に気付いた組員が玄関の方に向かって行くのが見える。俺は何かあったのか?と音の方が気になっていた。鈍八さんもその音で玄関に向かって行った。俺も流石に気になり、愛衣さんに聞いてみる。

「どうかしたんですかね」

「大丈夫です。気にしないで下さい」

 愛衣さんは数学の教科書に向かって言ってきた。

 俺は「そうですか」と納得してみる。いや、気にするなと言われると余計に気になるよ。

 阿澄さんと強三さんはその音はそっちのけで飲んでいた。もう飲みすぎだろ。俺は二人の体が心配になってきた。大丈夫かこの人たち。

 その後、鈍八さんが血相を変えて俺たちがいる大広間にやってきた。

「大変です、叔父貴っ‼猿渡組のカチコミです」

「何っ!」

 強三さんの目つきが代わる。目つき怖いよ、強三さん。絶対、あんた何人か殺してるだろう。

「わしが行く」

 強三さんがそう言うと立ち上がろうとした時、足がもつれて倒れてしまった。

「叔父貴。大丈夫ですか」

「久々に良い酒で酔っちまったみたいだ」

 鈍八さんが抱き上げる。強三さんは転倒しただけでケガはないようだ。

「じゃあ、私が猿渡組のカチコミ成敗してきます」

 阿澄さんは強三さんに敬礼すると走って玄関の方に行ってしまった。やっぱり、酔ってんじゃねーか。俺は唖然とする。まじで殺されるぞ。

『おい、拓よ。阿澄殿を追いかけないとまずいぞ』

 今まで寝ていたのかいきなり銀が俺に話しかけてきた。

「あぁ、わかってる」

「渥盛さん、どうしたんですか?」

「愛衣さんはここで自習しててね。俺、ちょっと阿澄さん連れ帰ってくるからさ」

「はい、自習してますし。ここから動きませんよ。こんなこと良くありますから」

 愛衣さんは笑顔で言ってくる。どんだけ肝っ玉座ってるんだ、この女子高生は。こんなことよくあってたまるかよ。

「じゃぁ、ちょっと行ってきます。強三さんはここにいて下さい」

 俺は強三さんに伝えると玄関の方に向かった。

 玄関には驚きの光景が広がっていた。任侠映画の世界かよ。

『おぉ、これは壮観な』

 銀が俺より先に呟く。玄関はトラックをバックで突っ込ませぐしゃぐしゃになっていた。質量の暴力。猿渡組の組員はトラックの荷台のウイングが開き組員が15人ほど出てきた。もう、無茶苦茶だな。

 犬神組、猿渡組の組員がた互いにらみを利かせる形で罵詈雑言。すぐにでも一触即発状態。犬神組の先頭には阿澄さんが睨んで仁王立ち。おいおい、あんた無茶過ぎるよ。

俺、あそこに突っ込んでいくのかよ。

「あんた達、何してんの、ここ犬神組ってわかっててやってんの、あぁ」

「何だ。そこの、女。犬神組にこんな奴いたか」

 阿澄さんがドスのきいた声で圧倒すると猿渡組の組員が動揺していた。あなた組員じゃないですよね。何でそんなに馴染んでんのよ。

 俺は出るに出れず襖の影から見ているだけだった。ていうか、この状況で出るの怖いよ。俺の股間から声がする。

『大丈夫だ。私に任せろ。拓よ』

「ホントに、ホントか。・・・・・よし、行こう」

『心得た』

 銀はやる気満々だ。俺は半信半疑ではあるけど、銀を信じてみることにした。

 二組の睨み合いの中、俺はなるようになれだと思い中央に突っ込み仲裁を試みる。

「誰だてめーは」

「渥盛くん?」

 俺は阿澄さんの前に出ると銀の台詞に合わせて口パクをした。

『えーい、この喧嘩。待った。待ったーーー。この喧嘩この私が買わせてもらう』

「舐めたこと言ってんじゃねーよ」

 猿渡組の組員はスーツの内側から拳銃を取り出し、俺に向けてきた。おいおい、マジかよ。ここ、日本ですよね。ここはドスとかじゃねーのかよ。やっぱり怖い。

「本当に大丈夫か?」

『阿澄殿に目を閉じて、耳を塞ぐよう指示をするんだ』

 俺は銀と話し、阿澄さんにお願いする。

「阿澄さん、目を閉じて、耳を塞いで下さい」

「はーい、解りました」

 阿澄さんは酔うと物分かりがよくなるのが助かる。阿澄さんは目を閉じ、耳を塞いだ。これでヨシ。

「これでどうすればいいんだ、銀」

『拓はチャックを開け、私を出すんだ』

「えっ?」

 俺は小声で銀に話しかけると銀から帰ってきた言葉に吹き出しそうになる。この緊迫した状態でか。数秒考え、決心する。

 旅の恥は搔き捨てだの心で俺はチャックを開けた。もうここの敷居ところか殺されても仕方無いと思った。

「こ、こいつ頭おかしいぞ」

「いかれてるぜ。薬でもきめてんのか」

「何、やってんだあいつは」

 その現場を見ていた両陣営は動揺し、俺の事を馬鹿にしていた。ですよねー、うん知ってた。

 ボロン

 俺の息子(銀)がこんにちわをしていた。

『えーい。皆の者、特と見よ。この印籠が目に入らんか。ここにおらせられるのは天下の副将軍、水戸光圀公であらせられるぞ。図が高い』

 と銀は自信満々に言って見せた。

「あれ、どう見てもそれ竿だろ」

「それやるなら、それやるなら肛門見せるだろ」

 組員さんは凄く冷静な判断を笑っていた。まさか、やくざの前でこんなものを出す事になるなんて、一生の恥。お婿にいけねーよ。まぁ、阿澄さんに見られていないことが唯一の救いか。

 そして、銀がまばゆい光を放ち、その場にいる全員に目くらましをした。

「うわ、何だ」

「目くらましか。やっちまえ」

 猿渡組の組員は自分たちが持っている拳銃のトリガを引き、発砲する。

 その瞬間。俺の息子(銀)が肥大し、ゴム状に伸びて銃弾を受け止め、阿澄さんと犬神組の組員を守った。てか、俺の息子もう人間じゃない。その銃撃は2分ほど続く

全て俺の息子(銀)によって受け止められ、銃弾はパラパラとその場に落下していた。

「何だこりゃ」

 猿渡組の組員がその光景に驚く。 

『次はこちらの版ですね。銀さん懲らしめてやりなさい』

 と俺の息子(銀)が今度は人の上半身の形状に変えた。俺の息子(銀)がふんふん言いながら殴りかかる。猿渡組の組員が宙を舞い、ぼこぼこに打ちのめされていた。

とりあえず、俺の息子(銀)は相手の戦意が無くなる迄、タコ殴り状態だった。俺はちょっと可哀そうになってきた。その数分後。

 猿渡組の組員は顔をパンパンにはらしながら、参りましたと土下座してきた。

『いやー。天晴、天晴。これにて一見落着ーー』

 俺の息子(銀)は上機嫌だ。てか、一人二役かよ。

 俺は「阿澄さんに目を開けていいですよ」と言うと阿澄さんは目を開けた。

「どうなってんのこれ。てか、火薬臭い・・うっ」

 俺は阿澄さんの声で嫌な予感がした。

「ま、まさか」

「ぎもち悪い、うわ」

 予想通りだった。俺は阿澄さんの前に立ち守る形で阿澄さんの嘔吐物をもろに被る。命守ったのにこの仕打ち、俺は泣けてきた。


 その後、意外にも早く警察が到着し、猿渡組の組員を連行していった。このカチコミは猿渡組の組長が愛犬ブルドックの散歩をしていた時、犬神組の若い組員がその犬を馬鹿にしていたらしく、組長が悲しんで帰ってきたらしくそれに怒りを覚えた猿渡組の組員はカチコミに来たと警察は言っていた。そんなことで抗争になるのかと思ったが犬神組、猿渡組は昔から仲が悪い。警察も組の抗争には一般人を巻き込まないように神経を過敏にしていたらしい。事情徴収で聞いた一部始終。口は禍の元、犬を馬鹿にしていた犬神組の組員はこってり絞られたそうだ。

 愛衣さんはその後も勉強をしていて、翌日のテストも出来が良かったらしく、電話で茅ヶ崎さんに俺を紹介してくれてありがとうございますと連絡があったらしい。その事で茅ヶ崎さんもありがとうございますと何度も頭を下げていた。家庭教師の報酬と例の事件で助けてもらったと追加ボーナスが入っていた給料袋を貰い、俺は嬉しかった。

 阿澄さんの場合は嘔吐をした後、気持ちよくなりその場で眠ってしまった。俺は鈍八さんに着替えを借り、家庭教師の業務が終わると阿澄さんを背負って送り帰した。

送り帰した後、いつものごとく阿澄さんの怒涛の謝りに俺は許すというパターンが出来ていた。

 銀は銀で今回のやくざの一件は楽しかったと大喜びだった。

 俺は思った。

 もう、家庭教師のバイトは懲り懲りだと。

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俺のち〇こは宇宙人 穴一 @gavagaba

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