第1章 第一の大陸
第5話 はじまりの街
俺は今ゲーム内の街にいる。
ゲームにログインすると最初にワープさせられる、【はじまりの街】の広場だ。
全員ログインするときにはここにワープさせられるため、周りを見渡すとひっきりなしにいろんなプレーヤーがゲームに出入りしている。
会話で賑わう広場に佇みながら、俺は父さんの最後の言葉を思い出していた。
「あのゲームには……が……足りない……でも……お前なら……」
父さんはあのとき確かにそう言った。
その何かが聞き取れなかったが、何か重要なことを伝えようとしたと思われる。
「父さんは俺に何を伝えたかったんだろう……」
手紙の真意も結局はわからなかった。
俺に一番にクリアして欲しいだなんて。
一体宝ってのはなんなんだろう。
そんなに重要なものなのだろうか。わからないことだらけだ。
「仕方ねえ。まずは装備を整えにいくか」
ベータ版をやっていたから、初期に出てくるモンスターの強さは大体わかる。
多少は強さの調整が入ったりもしているかもしれないが、
ベータテストの経験から考えると、今持っている初期装備では太刀打ちできない。
一番弱いモンスターにも倒される可能性がある。だからまずは最初に与えられた3,000クロンを使って、この初期装備よりも少し強い装備を買うのが定石だ。
広場から街の店々が並ぶ商店街の方へと迷わず向かう。
石のタイルでできた地面を多くの人が行き交う。
ほとんどがプレイヤーだろう。
みんな世界最先端のゲームを前に、楽しそうに会話をしている。
「あのお店に並んでるりんご、本物みたいだったね!」
「ねー! お店の作り自体もヨーロッパにありそうなデザインそのものだったし、
店員もNPC(Non Player Chatacter)だろうけど、
コンピューターとは思えないほどリアルな喋り方をしてた!
これがゲームの中だなんて、信じられないよね」
「ゲームの進化もすさまじいね」
などと称賛の声が上がっている。
つい、自分の父親のことを褒められたようで嬉しく感じ、「これ俺の父さんが作ったんだぜ!」と話しかけたい気持ちもあるが、
そこは押さえて1人勝手に笑顔になりながら、道を歩いていく。
武器のロゴを見つけ、武器屋に入る。
「へい、いらっしゃい! 何をご所望だ?」
恰幅のいい髭の生えたおじさんが話しかけてきた。武器屋のNPCだ。
すると、この店で売っている武器のメニューが目の前の空中に表示される。
「この、銀の
「あいよ!」
迷わず、武器と防具を選択した。
ベータ版の時の初期モンスターの強さを考えるとこの装備が最適だ。
「よし、これでフィールドに出よう」
「おい、あんた。ちょっと聞いてもいいか」
振り返ると、顎にちょび髭の生えた青年が立っていた。
20代前半と言った見た目だ。まあアバターだから本人の顔と一致しないとは思うが。
「あ、ああ。なんだ?」
少し人見知りを発動しながらも、返事をする。
「あんた、もしかしてベータテスト経験者か?
普通は一番安い木の剣(ウッドソード)と木の鎧(ウッドメイル)を買うだろ?
でもあんたは迷わず、その上の装備を選んだんだ。
もしかしたらそうかなと思ってよ」
そう答えた彼はニッコリと笑って話を続けた。
人見知りの俺にとっては、心の距離の詰めかたが早いなと感じ、少し身構えたが、不思議と悪い気はしなかった。
「ああ。よくわかったな。そうだよ。
一番最初に出てくるモンスターなら木の装備でも倒せるが、もう少し先に進むとこの装備じゃないときつかったからな。
それを見越して買っておいたのさ。
またこっちまで戻ってくるのめんどくさいからな」
「そういうことだったのか。すまねぇ、急に話しかけちまって。迷いのない行動だったから思わず気になってよ。俺、キョウって言うんだ」
「俺はカイト」
「カイトか。よろしく」
それから、戦闘方法や操作方法について教えてくれないか、と言われたので、草原に出てレクチャーすることにした。
普段は人見知りを超発動して、初めて会った人と長く会話をすることすらないのだが、キョウの人懐っこさと勢いに負けてしまった。
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