第4話 父の手紙
翌日、父さんの葬儀が行われた。
母さんはずっと泣いていたが、俺は不思議と涙が出なかった。
不謹慎かもしれないが、俺にとって父親はいたようでいなかったような存在だったのだ。
いることは分かっていてもまともに話したことはほとんどなかったし、一緒に幸せな思い出を作った記憶もない。
だからその父がいなくなったとしても、悲しいという感覚をあまり感じなかった。
葬儀が一通り終わり、帰路に着こうと言う時に、母さんが話しかけてきた。
「お父さんが死ぬ前にあなたと話がしたいと言っていたけど、何か言われなかった?」
「うん。初めて父さんが自分のことを話してくれたよ……」
「そう……あの人のことを悪く思わないでね。あなたとの時間をなかなか作れなかったのは、自分を表現するのが苦手な人だったから……」
母さんは少し悲しそうに俯いて、申し訳なさそうに言った。
「そんなことないよ……俺にとっては母さんがいてくれるだけで幸せだよ。
それに俺だって父さんに影響を受けて育ってる。
『ゲーム』は父さんが唯一与えてくれた俺の人生の最大の楽しみの一つさ」
「そう。それはよかったわ……仕事のことしか頭にない人だったからね……
それだけ一つのことに情熱を注ぎ込めるところに魅力を感じたから結婚したのだけれど……
ゲームのことを話しているあの人はそれはそれは楽しそうだったわ。
他のことだと無口なのに、ゲームのことになると人が変わったように何時間も語り続けるんだもの」
「変わり者だったんだね」
父のことを語る母は笑顔で楽しそうだった。
「そういえば、父さんが気になることを言い残したよ」
「へぇ。なんて言ってたの?」
「『デイブレイク・オンライン』には足りないものがあるって」
そう言うと、俯いていた母さんがピクリと反応し、俺の顔を見た。
「あれだけクオリティーが高いゲームだから、足りないものなんてないほど完璧だと俺は思うんだけど……」
「そう……やっぱりそうなのね……」
母さんは何か知っているかのように、考え事をしながら話しているようだ。
「やっぱりって? なにか知っているの?」
「ええ。お父さんはあなたに何かを伝えたくて、あのゲームを残したんだと思うわ」
「え⁉︎」
突然の発言に驚きが隠せない。
「お父さんから、もし自分に何かあったらあなたに渡すよう、預かっているものがあるの。それを渡すわね」
ごそごそとカバンの中を漁って取り出したのは、1つの手紙の封筒だった。
「これは……?」
「私も中を見ていないからわからないけど、きっと今後あのゲームをプレイするときに大事になることが書いてあるんだと思うの。読んでみて」
「わかった。ありがとう」
受け取った俺は、早速中を開いてみた。
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Dear 海人
この手紙を読んでいると言うことは、もうすでに私はこの世にはいないだろう。
そしてきっと私が作ったゲーム、「デイブレイク・オンライン」の発売日の直前だろう。
あのゲームは、私が人生をかけて作った最高のゲームだ。ぜひ楽しんでいってくれ。
寝る間も惜しんで何十年も考えて開発した自信作だ。
今までのゲームの概念を超えていく傑作ができたつもりだ。
この手紙を書いた理由は、もちろんそのゲームについてだ。
「デイブレイク・オンライン」は、夜明けを意味する「DAY BREAK」という単語をタイトルに入れたゲームで、
その名の通り、『この頃売れ行きが伸びずに荒んでいるゲーム業界を夜明けへと導き、ゲームの概念を変えて新しい世界を作りたい』というメッセージを込めてある。
その言葉の通り、世界最新の技術を費やし、今までのゲームの歴史を塗り替えるような最高のものを作ったつもりだ。
しかし、私はこのゲームの完成の出来に正直、満足ができなかった。
「デイブレイク・オンライン」は、未完成のゲームだ。
私が思い描いていた理想のゲームはもっと先にある、もっとすごいものだ。
しかし、いろんな理由があって、それは実現が不可能だったのだ。
それを実現できなかった心残りがある。
そこでお前に頼みたいことがある。
このゲームを世界で1番にクリアしてくれ。
私はこのゲームの中に、宝を残した。
それは、世界中のゲーム好きや技術者たちが喉から手が出るほどに欲しがる超貴重なものだ。
金額にすれば数十億はくだらないほどの価値があるだろう。
この宝は「デイブレイク・オンライン」を初めてクリアした者に与えられる。
2人目以降にクリアした者には、手に入らない一度きりの代物だ。
ぜひお前にそれを受け取ってもらいたい。それが私の願いだ。
なお、この宝の存在はゲーム発売の前日に世界中に拡散される。
きっと世界中のプレイヤーが死に物狂いで一番最初にクリアしようと、攻略を進めるだろう。
きっとお前ならできるだろう。楽しみに天国から見ているよ。待っている。
拓人
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