第2話 復讐するサイキッカー

  数か月前――



――超能力者。


 争いは多少あれど平穏が包む世界に突如として現れた敵――Photonフォトン。近代兵器が効果的ではない未知数な人類の天敵。


 それと呼応するかのように超能力者が現れた。


 瞬く間にPhotonを蹴散らす彼ら彼女らは、時が進むにつれ次第に呼称が変わり、Psychicerサイキッカー、通称PSYサイと呼ばれるようになる。


 技術進歩が目まぐるしく成長するはずだったけど、Photonの出現に停滞し、発展は緩やかなものとなった。


 人類の九割がサイキッカーとなる頃には、Photonの対策もしっかりとしたものとなり、僕も大腕を振ってサイキッカーとして人類を守っている。


 だけど今は――


「許さない」


 ――復讐心に囚われている。


「絶対に殺す」


 目に焼き付き脳裏から離れない光景。それは僕の大切な人たちの無残な姿。


「もう僕は手加減なんてしない」


 データをメガネに映しながら胸の内を呟いた。


「もうお前らを迎える準備はできてるんだよカスが……」


 現地点の孤島を中心にチェックしていく。Photonクソを殲滅するための重火器とドローンは万全だ。


「……」


 全チェックを完了した。これで復讐できる。


「ッハハ」


 思わず笑ってしまった。こんなに気分がいい日はそうそうない。胸が高まる。


 その高揚感を感じていると、泡が上がっていく音を耳にする。気持ちが落ち着き、目を画面から離す。


創造クリエイト


 テーブルの一角に目を向け、僕のPSYサイが発動する。初めからそこにあったかのように小さな柱が浮き出て、内側から溢れ出る様にパーツが構築され組み立てられる。そして中心にある半透明のボタンが点灯、駆動音が低く響くと完成する。


 そっと腕を伸ばし、震える指先でスイッチの表面を撫でる。ゆっくり、ぐるりと一周してから押し込んだ。


『おはようナッシュ。ちゃんと寝てるか? 目の下に隈ができてるぞ』


 ――僕のPSYはとても都合の良い能力だ。


 MachineCreate《マシン・クリエイト》 そう呼ばれている。


 声に出しても念じても発動する、僕の想像を都合よく機械的に可能にする能力だ。例えばそう、瞬時にPhotonを探知できる装置を創ったり、現地にワープできる装置も創れる。そして僕が実際に聞いたボイス集も……。


『例の仕事も程々にして、今日こそちゃんと寝ろよ。じゃあな』

「……」


 思わず椅子から立ち上がった。椅子をテーブルに戻さず、近くにあるメディカルカプセルの前へ立った。


「ちゃんと回復してよかったよ……ほんと」


 優しく語り掛け熱い視線を送り、カプセルを撫でながら呟く。


「すぐにでもお目覚めは可能だけど、もう少し待ってほしいんだ」


 声が震える。


「ちょっとした計画があってね、詳しい事情は後でゆっくり話すとするよ」


 喋り終わると同時に警戒アラートが鳴り響く。部屋の壁を帯状にWARNINGの文字が連なって流れ、比較的目にやさしい色が部屋を包む。


 いったい今の僕はどんな顔をしているのだろうか。焦り、不安、恐怖。普段なら後ずさる状況だが、そんな状況を臆する事無く行動する。


「予測よりも早いじゃないか……」


 カプセルに背を向け少し前へ歩き、宙に半透明の操作盤を出現させる。慣れた手つきで操作し、周りにいくつもの半透明の画面をだす。

 映し出す画面には無数のPhotonがこちらへと進撃している。獣型に爬虫類型、虫型に人型、多種多様なPhotonの登場だ。


「襲撃してると思っているだろぉ? なあ? そうだろなあ?」


 空間の上部に映しているここを中心としている全体マップに、敵を表す赤色のPhoton、青色の武器とドローンが囲うように現れる。同時に他画面では豊富な重火器が所狭しと並んでいる。


「クッ……ククッ! スゥッ――」


 息をいっぱいに吸い込んで――


「誘いこんだんだよぉおおバァアアアカァ!!」


 奏でるサウンドから重い銃撃音と爆発音が部屋を反響して響き渡る。多画面には光の粒子をまき散らすPhoton達。ダメージ、消滅が見て取れる。それもそのはず、重火器からこの施設まで、その全てがPSYによって創られたものだ。


「テメェらクソ共がよお!! 誰に手ぇ出したかわかってんのかあ゛あ゛!」


 金切声をあげる重火器とは別に、Photon達のダブるような悲鳴が聞こえてくる。撃ち続ける銃弾と爆薬には数という制限はない。だが放つ重火器はそうはいかない。画面に映る敵影は、すでにこちらを上回っている。


「消えろ! 消えろ消えろ!! 光になって消えてしまえええ!」


 空に消えていく光子のカーテンの奥から絶え間なくPhotonが襲ってくる。


「上上ぇ!!」


 一部の火器が空中のPhoton攻撃。


「下下ぁぁ!!」


 側面にある大型火器が地上のPhotonを爆ぜさせる。


「左右左右いいい!!」


 左右にある画面を見て迎撃する。


「バーーカ! クソったれ!!」


 Photonがことごとく消えていく様は無双状態を思わせる。非常に気分がいい。


「……ッ」


 当然だ。当然なんだ、僕のPSYが蹂躙していくのは。だが……予想より数が多すぎる。


「ッチィ!」


 拠点となるベースを孤島に選んで本当に良かった。街中だったらと思うと冷や汗が出る。オートモードへ切り替え、迎撃し続ける画面から別の画面へと目を移す。映し出されているのは楕円状に広がる空間。そこから続々とPhotonが出現している。


「二つ三つはゲートが開くと読んでいたけど、どんだけよ……」


 ゲートの詳しい説明は不要だろう、この状況のままの意味だ。奴らはアレを通ってやってくる。


「……アハ、ハハハ」


 思わず笑いが出た。四方八方にゲートが開いていると驚愕していると、中から顔を覗かせた。


 タイタン級。それぞれの型で存在し無骨で巨大、そして純粋に、強い。強靭巨躯な体躯は鈍いイメージとは違い、素早い。並みのPSYならまず命はない。こいつを斃せるのは大国の先鋭だけだ。……僕を除いては。


「ふぅ。やっぱりね、睨んだとおりだ」


 即席の椅子を創造し腰を落ち着かせ、画面から目を離さずにそう呟いた。

 今も尚ハッキリしていない事がある。Photonは何故人間を襲うのか、だ。人類滅亡が目的ならとっくに成功しているだろう。現に今見たく雁首揃えてワイワイ来れば簡単だ。奴らの目的の討論は現実的なものから飛躍しすぎる論まである。__まぁ自分の目で確かめて改めたよ。


「やっぱりターゲットが狙いか」


 メディカルカプセルにちらりと目を移す。液に満たされた髪が漂い、時折でる泡が裸体を撫でている。――僕の親友だ。


 類を見ない程の大展開されたPhotonの大群。たった一人の人間を殺すには余りにも……


「未覚醒なんだけどなあ。Photonに好かれてどうすんだよ、お陰様で露払いに一苦労だ。……さてと」


 一般人の親友家族が襲われ、今に至っている。親友だけがこうしてカプセルに入っているのは……そういう事だ。長年知らない中じゃない家族だ。流す涙はもう枯れた。心に空いた穴は復讐心が満ち、そっちのけだったPhotonの全滅、――いや、不可逆的全滅へと本気マジ で動く事になった。


「タイタン級を並べればビビると踏んでいたら大間違いだタマ無しがあ!」


 立ち上がり新たな操作盤を出現させる。


「マジになった僕の恐ろしさ! 身をもって味わえクソ共! ――発動!!」


 半透明な操作盤がシンプルな内容へと変わり、STANDBYの文字が中央に出る。


「サテライトF○ckフ○ック ! キャノンモード!」


 音声認識で発動したモノは、僕が宇宙空間に創り上げた対Photon攻撃衛星だ。創った衛星は他にもあるけど、こいつは今日この時のためだけに創ったお気に入りだ。居住スペースもあるし名前もイカシテル!


「さぁてぇ……いかほどの威力なんだぁ?」


 衛星から砲身が構築されている映像を見ながら手もみする。撃った事はもちろんない。僕のHotでF○ckな感情だけで創り上げた威力が、ザコ達やタイタン級が跋扈しているここ・・ を撃つなんて最高に勃起もんだ……!


「チャージ開始! 5……10……20――」


 衛星本体の縫い目から砲身へとエネルギーが流れ、溜っていくにつれエネルギーの余波が先端から零れている。


「90……100っ120%チャージぃ!」


 放射範囲がこの孤島とゲート、広い範囲をターゲットにしているのを確認した。そして――


「……はっしゃ」


 息を止めながらそっと呟いた。別の衛星から映しているサテライトの画面が白に染まり、ほんの一息つく間に全画面とここも白に染まる。視界は色を無くし、自分が息をしているかさえ分からないほど。悲鳴や慟哭、鼓動さえも無音が続く。


「――?」


 杞憂、気のせい、見間違い。この時の記憶は実に曖昧なものだった――

 ふと、何気なくカプセルの方に顔を向ける――

 この色のない世界で、抗うかの如く――

 半目に開いた瞳に虹を見た――

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