饅頭無創 ~饅頭になった親友がF○CK! F○CK! 言いながら創造している件。俺は饅頭にサイボーグにされて無双する!~

亮亮

第1話 マリオンと饅頭

「ッ?」


 寝ぼけているせいか、ベットから起き上がった姿勢で固まる。……視界がぼやける。長い間、ずっと寝ていた様に頭が冴えない。


「……ぅん?」


 視界がクリアになって思った。ここはどこだ、と。首が動く範囲を見ると、どうやら木造、まるでログハウスの一室だ。小さな机の上には小花が飾ってある。一周するように見渡すと、俺の隣に誰かいる様だ。……? ……誰かいるっ!?


「!?!?」


 冴えない頭が一気に晴れる。恐る恐る、シーツ越しの脚から見ていく。足、太もも、腰……明らかに女性の体つき。恥ずかしさからか唾を飲み込んだと同時に、後ろを向いていた女性が寝返りをうった。


「ッ!?」


 男のサガだろうか……。情けないが、女性の顔を確認したと同時に揺れた乳房に目を奪われた。しかも裸というおまけ付き。非常に目に毒なので、瞼を閉じながら下を向いた。


「……」


 やはりと言うか、この一瞬の間に思った事が成立してしまう。瞼を開けると俺は裸だ。そして隣の女性も裸。……もう言い逃れできない。


「ッ~~~」


 最悪だ。間違いを起こしてしまった。本当に情けない……。


「はぁ……」


 ため息が出る。俺は清く正しい人間だと思っていたのに、これでは立つすべがない。……俗世に染まったと逃げずに受け止めるべきだろうな。


「……?」


 だが何故だろう。彼女と夜を過ごした記憶はおろか、自分の最後の記憶が思い出せない。酒を飲める歳だが、今までは酔い潰れたことは無い。……いや、今回は違う。記憶が欠落するほど酒に呑まれたのだろう。


「……よし」


 はだけている胸を、恥ずかしながらシーツで隠す。小声で確認し、周囲を見渡す。近くに服が脱ぎ散らかっているはずだ。だが探せども床には布の類が見受けられない。心のどこかで一抹の不安が過る。


「――んん」

「!」


 隣から声がした。瞬間的にそちらへ意識が向けられ、彼女を凝視する。


「……あら、お目覚めね。おはよう」

「お、おはよう、ございます……」


 腕を伸ばされ、顔を撫でられながら挨拶をした。頬から指先が離れるのを感じると、顔が赤くなる。予想だにしない行動で体が固まった。


「起きてる姿も素敵よ、マリオン」

「え……ぇ……」


 俺の名前を知っている……。吸い込まれそうな瞳を見ながらそう思った。呆然としている姿を可笑しく思ったのか、彼女がクスリと笑う。


「落ち着いてちょうだい。ゆっくりでいいから、その固まった顔をほぐして。――んんっ」


 シーツを退かし裸のまま体を伸ばした。小刻みに震える体と共に特徴的な胸が震えている。……本当に目に毒だ。


「ふぅ」


 薄い紫色の長い髪、端麗な顔に長いまつげ。語弊があるが、非常に恵まれた体つきだ。世の中の男はまず放っておかないだろう。


「……?」


 見てはいけないのだがそれでもよく見ると、彼女の下腹部に薄いタトゥーの様な模様が描かれている。まるでハートの模様を潰し、中を描いたような。

 そしてよく確認すると、俺の下腹部にも薄く模様が入っていた。こっちはハートではなく、矢じりのようだ。……最悪だ


「おまじないよ」

「おまじない?」


 酔いすぎだろと思った俺が黙っていると、彼女が言葉をかけてきた。


「そう。幸せを呼ぶ大切なおまじない。お互いに初めて繋がって、魂の相性が良かったら現れるの。……この意味、わかる?」

「いや……わから……ない」


 説明しながら眼前まで近づいてきた。急な出来事に体が硬直する。彼女の瞳から目を離せず、お互いの吐息を感じる程に近い。


「運命の人ってこと。――ん」

「――!」


 目を見開きながら唇に意識が行く。うるさく聞こえる鼓動、ゆっくりと優しく啄まれる感触。ほんのりと下腹部が温かい。

 数秒、唇を重ねた。微笑みを浮かべる彼女に対して、俺は恥ずかしさに苛まれ、思わず目を反らした。


「ふふ、かわいい」

「勘弁してくれ……」


 恥ずかしさで本当にどうにかなりそうだ。名前も知らない彼女に好き放題されている。しかも運命の人だと言われた。

 ……もしかすると見た目とは裏腹に頭がハッピーな人なのかもしれない。まぁ個人的、一男いち、おとこ として運命の人であってほしいが。――あ。


「すまない。ホントに悪いんだが、その、酔いすぎて君の名前もここの場所も、あの、ッ行為をした記憶がないんだ。ホント、ごめん」


 だんだんか細くなっていく声が出た。


「ふ~ん」


 やめてくれ。「ふ~ん」はやめてくれ。小さくなっている今の俺は、何を言われても呟かれても罪悪感にしか感じない。

 そもそもだ。よくよく考えると俺の初めては俺が認知しないまま捧げられた。悲しむべきなのか、罪悪感に浸るべきか、それとも両方か。


「ふふ、本当にかわいいわね。食べちゃいたい」


 食べられたんだが。


「ガブリエラよ。よろしくね、マリオン」

「ッ! もちろんだガブリエラ」


 名前を知れて思わず頬が緩んだ。俺もつくづく男なんだろう。行為までした女性の名前を知れてここまで喜んでしまう。


「ガブリエラ、一つ頼めるか」

「なにかしら」


 ?はてな を浮かべるガブリエラ。先ほどの妖艶な雰囲気とは違い、首をかしげる姿はどこか可愛らしい。俺と歳は近いように思う。


「目に毒なんだ。さっそくで悪いが服を着てくれ」

「え? 昨日の続きじゃ――」

「服を着てくれ。あと俺の服はどこなんだ?」


 理性が持つうちに促す。本人はやる気満々の様だが、そんなの関係ない。現代人らしく服を着て日常を過ごそう。


「おかしな事言うのね」

「……え? それはどういう」

「最初から裸だったわよ」

「……」


 ホントに勘弁してほしい。酔い過ぎでも酔いかたがある。どうやら俺はしばらく禁酒をしなければいけない。


「ああ、人として自分を疑うよ……」


 それからというもの、着替えながらも露骨に挑発してくるのをなんとかスルーし、ここはガブリエラの家とわかった。服も貸してもらい、寝室をでる。


 そして奇妙なものを見た。


「……?」


 なんというか、鬼気迫る表情をしている顔が机の上に置かれている。そう、首がない顔が置かれていた。造りは凄く精密で、今でも唾が飛んできそうだ。だが明らかに作り物だとわかる。リアル寄りではなく、アニメ調というか、コミカル寄りの造形だ。


「ふむ?」


 初めて見る顔だが、どこか既視感を覚える。ぼさぼさな髪に、青いフレームのメガネ。そして泣き黒子。――そんな、もしかして。


「あっ、忘れてた」


 ガブリエラの素であろう反応と共にフィンガースナップがなる。反響する音と同時に顔が動き出した。


「あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁ……ぁぁ……ぁ?」

「……ナッシュなのか?」

「ぁ、ぁああ! マリオン!! 目覚めたのか! うわあああ!!」


 ナッシュであろう何かが大粒の涙を流しながら飛び込んできた。バレーボール程の大きさがあるナッシュの様な何か。それを勢い任せに抱き寄せる。


「起きて良かっだ! ホンドによがった!!」

「お、おい。お前、ホントにナッシュか」

「そうだよ! 正真正銘僕だよ!」


 ナッシュ(?) を持ち上げ、目の高さに合わせる。涙を流す姿は俺の知るナッシュと酷似している。……見つめ合っても仕方ない、率直な意見を聞こう。


「ナッシュ。体はどうしたんだ」

「え゛? グスッ、飛んだ」

「……なんか動画であるアレみたいな――」

「それを言うな!!」

「……」


 俺の理解を超えている。範疇を超えている。もしかして俺はまだ夢でも見ているのか。

 そう困っていると、ナッシュ(?) がガブリエラを目撃し、凄い形相へと一変、一瞬にして涙は消えた。


「すぐにあいつから離れろマリオン!!」

「ど、どうしたんだ」

「こんの強姦魔! レイプ魔! メス豚みたいに粋がりやがって!! マリオンを犯した犯罪者! 僕が馴染めず動けないでいたために!! クソ! 僕はお前を許さない! 絶対に――」


 普段のナッシュからは想像もつかない罵詈雑言が発せられた。それなのにガブリエラは何知らぬ顔をしている。もう俺はどうしていいかわからず、うるさいナッシュの口を塞いだ。


「フガフガ!!」

「落ち着いてくれナッシュ」

「フガ! ……ンン゛」

「いいかナッシュ、手をどけるから騒ぐなよ? 」


 火が付いたように怒るナッシュが、顔を縦に振り一言で落ち着いてくれた。顔だけなのに器用に動くものだな。


「っぷはぁ。ごめんよマリオン」

「わかってくれればいい。とりあえず落ち着いて話そう」

「そうだね。いろいろと伝えなきゃいけない事があるんだ……」


 俺が今一番知りたいのは謎の生物と化したナッシュだ。なぜに顔だけ? それに凄いもち肌だ。


「落ち着いたなら座ってちょうだい。紅茶を用意したわ」


 俺たちのやり取りをスルーしたガブリエラは、机の上にティーセットを用意して座っている。カップは三つ、中の紅茶から薄く湯気が出ている。

 感謝の言葉を送り、席につく前に一瞬悩んだ。


 ナッシュはどうしたらいいんだ? と。


 如何せん顔だから椅子に座らせる? のは違うだろう。……テーブルの上だな。紅茶があるし。


「毒とか入ってないだろうな!」

「入れてるわけ無いだろナッシュ」

「そんな姑息なマネしないわよ」


 小さく唸りながらガブリエラを睨みつけるナッシュ。俺がカップを傾けるのをナッシュが見ると、気難しい顔で紅茶傾ける。……本当に器用だな。


 一息入れた事だし、とりあえず家に連絡を入れよう。……それにどう報告すればいいんだ。酔い潰れて身に着けていたもの全部無くした、ついでに貞操も無くした、と素直に言えばいいのか? ああ、なんだかみんなの呆れた顔が予想できる。


「すまないが端末を貸してほしいんだ、家族に連絡を取りたい」

「……端末?」

「酔って全部無くしたなんて言ったら怒られるだろうがな、ハハハ」

「……」

「まっ端末の機種変更をついでにやっておこうかな」

「……」


 なぜだろうか、軽い冗談を言ったはずなのに空気が重い。ガブリエラはキッチンに行くと言って席を去り、ナッシュは俯いている。


「ど、どうしたんだナッシュ? いつもらしくないぞ」


 らしくないのはナッシュそのものだが。


「……っ」

「お、おい……!」


 歯を食いしばり、涙を溜めて何かを我慢している。


「なんでかなぁ……」

「どうしたんだよホントに」

「涙はもうぅ゛、枯れたと思ったのに……」


 俯いた顔が俺に向いたと思ったら、ダムが崩れたように涙が噴出した。


「マリオン゛ッ! 君を見ていたらッ!  胸が締め付けられそうになるッ! 君を見ていたらぁ゛ッ! 涙が止まらないよ゛!! うわあああ!!」

「なっ泣くな泣くな! 落ち着けって! な!」


 止まらない親友を宥めるのに必死だったが、落ち着きを取り戻したナッシュから伝えられる。受け入れがたい現実、絶望。理解していく度に震えを止められない。

 ナッシュは嘘をつかない。だが、心のどこかで絵空事、他人事と思っていた。


「ハ、ハハ……」

「グスッ」


 気が付くとナッシュを胸に抱えていた。いや、抱えていたいんだ。


「マリオン」

「あ、ああ。すまないな、こんな事になって」


 ガブリエラが優しく語り掛けてきた。だが、どこか愁いを帯びた表情をしている。


「解き放ってあげるわ、あなたの記憶を、心を」

「なにを――」


 するんだ。そう言葉は出なかった。後ろから腕を回し、ガブリエラが抱き着いてきた。何かあたたかいものが入ってくる。


「ぁぁ――」


 そして湧き出る光景。受け入れられなずに脳が封印した記憶。


「ッッグ――」


 断片的に映る、散らばったソレ。


「ぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛!!」


 心のままに、ただ心のままに、涙を流し解き放った。

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