第4話*召喚は突然に

 時間は少し遡る。


 ログインして身をアバターに移すと、空中都市に接岸されている飛空挺内部の自室からスタートする。

 ログアウト時は飛空挺(拠点)のベッドにアバターを転がしている手前、ログインすると自然とベッドから起き上がる状態から始まるようになっていた。

 銀髪に深い碧眼の色彩を持つ青年、ヨミの帰還である。

 あくびをしながらソファにかけてあった上着を取り上げ、部屋を出ながら軽く肩にひっかけて羽織る。

 廊下を伝って操舵室に入ると、この飛空挺の管理を任せている友人のイツキが振り返った。

「おはよう、ヨミ」

「ああ…イツキ、しばらく仕事に集中してたから電池切れを起こしてたよ」

 自分が。

「あんま無茶すんなよ。疲れてんなら、こっちに来る必要ないからな」

「こっちが息抜きなんだよ僕には」

 さて、とヨミは腕を組んだ。

「長期連休前に大型アプデが発表されてたけど、何か動きは?」

「これといって特には。静かなもんだよ」

「…おかしいな、すでに実装されてるはずなんだろう?」

「そのはずだが、コミュニティサイトでも情報がはっきりしない。新規アイテムとドラゴンが実装されたってことだけは確かみたいだけどな」

 公式がそのアイテムのイラストを公開している。オーレリアンの名を冠する超希少アクセサリーシリーズ。

「効力については公表されてない。それに、ガチャで排出されるのか、特定のイベント消化やモンスターを倒す必要があるのか、詳細は不明だ。公式の告知詐欺、ブラフじゃないかって話までで出してるぞ」

「………ああ、それなら」

 ヨミはイツキの前に手を差し出す。

「そのオーレリアンの名前を冠するアクセサリーのひとつは、たぶんこれだよ」

 イツキが目を落とすと、ヨミの右手の人差し指に指輪がはまっている。豪華な作りで、台座の中央に青緑の石が収まっている。これは、蝶光石か。

「オーレリアンの指輪、と書いてあった」

「どうしてお前が持ってんだ?」

 ぎょっとする友人に、彼は肩をすくめる。

「いや…さっきログインしたときに、女神が現れて僕に言ったんだよ。『おめでとうございます、ヨミ様。あなたは兄に選ばれました』ってね。何がめでたいのかまったくわからなかったけど……この指輪が関係してるのかな」

「お前……さらっと言ってるけどとんでもないことだぞ。女神が、というか公式が直々に接触してきた上に、アイテム与えられたって。ルール違反だろ。いいのか、そんなことがあって」

「チートになるほどの物じゃないんだろうさ。むしろ、逆なんじゃないかな」

「どういうことだ?」

「外せないんだよ、これ」

「は?」

「えーっと、アイテム説明によると……この指輪は売却も廃棄も譲渡も剥奪もできないらしい。コストはゼロ。そして、時と場合を選ばず『妹』に召喚されるらしい」

「……はぁ?妹?」

 まったく意味不明である。

「そのアイテム、ものすごく厄介そうだな」

「はは、公式お得意の希少なレジェンドとは名ばかりの、足を引っ張る呪いのアイテムに違いないよ。まあ、でも想定外のことが起こるなら、それはそれで楽しみかな」

 薄笑みを浮かべるヨミにイツキはやれやれと息をつく。

「……本当にお前、呑気っていうか、余裕に満ちてるっていうか…」

「ってあれ?」

「?どうした」

「……指輪、赤く光り始めたんだけど、何事かな」

 青緑の石が、今は嘘のように赤く光りを放っている。

「……早速厄介なことが起こる前兆だろ、これ」

 オーレリアン・オンラインお得意の唐突なるイベント突入の予感にイツキは眉を寄せる。と、ヨミの足元に魔法陣が現れる。

「おい、ヨミ!それ!」

「………このルーンは、召喚魔法、かな」

 冷静につぶやくヨミはその瞬間、肩にかけていた上着だけを残して綺麗さっぱり姿を消した。


 そのようにして、彼はアヤの元にやってきたのである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る