第2話 彼女

彼女は他の嬢とは違いました。多くの嬢との会話の始まりは


「初めまして〇といいます。よろしくね!!」


みたいな自己紹介から始まるのがセオリーだと僕は思っていました。彼女が僕の席についての最初の一言は僕の常識を大きく変えました。


「ちょっと席の近くを通った時にたまたま聞こえたんだけど旅行好きなんだって?」


そんな瞬間的に聞こえる内容であったのだろうか?

確かに僕は大の旅行好きで自転車で北海道一周やバイクで国内のいろいろなところに行ってました。ある程度時間がたって話のネタがなくなりかけたときに使う話題でした。最初に席についてくれていた嬢が交代時間になる頃にその話をしてました。


「あたしも旅行に行くのが好きなんだよね!!あたしは海外に行くほうが多いけど行った時の写真をみしてあげるよ!どう?すごいきれいでしょ!!ここは、、、、、、」


あまりの勢いに僕はたじろぐばかり。


「おおぉ。すごい。きれい。」


と全く語彙力のない返事しか返せてない僕の事を彼女は全く意に介さず、止まることを知らず、どんどん会話を進めていく。


「あたしはダイビングもするんだけど、〇国の海はマンタがいて一緒に泳ぐこともできるんだよ。そしてここで食べた、、、、、、」


僕は何を聞かされているんだろう。


彼女は決して僕のタイプとかではなかった。僕の好みは巨乳で身長は高めが好きだ。顔は狐目のようなきりっとした目じりがあって鼻は高くて髪はショートがいいな。外国人の特にウクライナ人みたいな白人で日本人じゃない要素が好きです。

彼女は身長は高いけどそこ以外僕の好みに当てはまるところがないんです。目は二重でパッチリ。髪はかなり長い。腰ぐらいまである。女性には失礼だが胸もない。それなのに、なぜか楽しそうに自分の事を話している彼女を見るのは悪くはなかったのです。


呆気にとられながらリアクションを取れないでいる僕を関係なしにめちゃめちゃ楽しそうに話す彼女の笑顔は妙に愛くるしい感じでありました。笑うとパッチリとした大きい目が無くなるくなるくらいにクシャっとなるのです。


「ふぅ、話してたら疲れた。ドリンクもらうね!!」


先ほどの話す勢いそのままにボーイを呼び出しドリンクを頼みだしました。ドリンクが到着するとすぐに乾杯みたいなことはしましたが、僕を気にせずに一気に飲み干すと


「たのしいねー!!こんなに旅行の話を分かってくれる人がいたのは久しぶりだよ!!連絡先交換しよ!!」


と、彼女は僕の返事も待たずにすぐに連絡先をスマホで送る準備をしていました。僕は彼女にされるがままに連絡先を交換しました。連絡先の交換をすますや否やボーイからセット時間の終了の案内がきました。


タイミングが良すぎることに不自然さも感じましたが、今までのどのキャバクラよりも楽しめていた気がしたのでさほど気にはしませんでした。

先輩も満足したらしく帰ると言っていたので僕も一緒に帰ることにしました。

お店の外までお見送りに来た彼女から別れ際にこう言われました。


「あ。そういえば名前教えてなかったね。〇です。これからもよろしくね!!」


自己紹介をお店を出たところでされました。そういえば聞いてなかったし聞くタイミングもなかったな。


先輩とお店の前で解散して一人帰路につきました。お店の中ではあんなに騒がしかったのに外に出た瞬間に静かになる感じ。一人暮らしの家に着きに何もない部屋を見渡しているとふと思い返してしまいました。


「彼女は本当にうるさかったんだな」


妙に面白くて笑ってしまいました。

また、明日からの仕事にがんばれそうだ。

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