第三話 秘密
10月10日
「紗季、また来たのか、来るなって言ったろ」
「へへ、一真さんに会いたいんだもん」
「そっか、でも一人で居たいんだ」
「うん、分かってるよ、でも―――」
「紗季を大事にしろ」
「紗季を思いやれ」
「紗季に感謝しろ」「紗季——――紗季――紗季」
――――――
「紗季!!」
早朝の病院に俺の声が響き渡った。顔には大量の汗がにじみ出ていて、息は荒れていた。
奇妙な夢で朝を迎えた。悪夢というやつだ。紗季と話していると真っ黒な影に紗季の事をどうのこうの言われたのだ。
「一真、大丈夫か?」
「爺ちゃん、大丈夫だよ、気にすんな」
叫んでしまったせいか、直ぐ爺ちゃんが病室に来た。しかし、どこか、恥ずかしかったので、そっぽを向いてまた横になる。
「一真、紗季ちゃんを遠ざけてから、いつもそんな感じじゃないか。いいかげん、病院にも迷惑だから辞めてくれんかのお?」
「知ったこっちゃないよ、見たくもないのに、悪夢ばっか見るんだ」
「一真、意地ばっか張ってないで、今日ぐらい紗季ちゃん呼んだらどうだ?」
「―――」
黙り込む。
「一真、知らんぞ、後悔しても、時間は有限だ、無駄にはせんほうがええ」
「分かってんよ、いいからさっさとどっか行ってくれ」
「いい加減にしろ、一真!くっ、――」
爺ちゃんは何か言いかけてやめた、気にはなったが、別に聞き返すことはなかった。もうどうでもいいんだ、何もかも。
テレビをつける。いつも見ている、天気予報の後の占いを見る。
「残念ながら12位のいて座の方、今日は時間にルーズで大事なことを無駄にしてしまうかも、時間を意識して過ごしましょう!」
チッ、なんなんだよ。
「一真さん、今日も体温図りますよ、具合悪いところないですか?」
いつもやたら元気な看護師にももう慣れた。
「一真さん、聞いてくださいよ、昨日、彼氏と別れちゃって」
「うん、それはご愁傷様」
「なんか、一方的に振ってきて、お前に使った時間無駄やんって、返せよって思いますー、一真さんは無駄にしないようにあの美人な奥さん大事にしてくださいよー」
なんなんだよ、なんだよ、、、
「黙れ、黙れ黙れ黙れ」
「え、一真さん?どうしたんですか」
「どいつもこいつも、時間無駄にするなとか、そんな事ばっか言いやがって、分かってんだよ」
「ご、ごめんなさい、失礼しますううう」
なんなんだよ、当てつけみたいに、おんなじことばっか言いやがって、いいんだよもう、紗季には会わないで、終わりにするんだ。
――――数時間後
「一真、ほんとにいいんだな、もう二度と会えないかもしれんのだぞ」
「気にすんなよ、爺さん、もう覚悟決めてんだ」
「そうか、じゃあ、手術に向かうからな」
そうして、手術のために眠りにつく。
なんだろう、ほんとによかったのだろうか。今になって思うところはある。まぁしょうがない事か。紗季、許してくれ。
いつだって、一真さんは、優しくて、私を守ってくれる、私はそんな一真さんが大好きだ。
でも、初めて私は、一真さんに怒られた、一人にしてくれって、ほんとはずっとそばに居たかった、けど、今はわがままも言ってられないなって、だから、言うことは聞いたけど、結局言う事を聞けなかった私を知ったら、怒るのかな。
私は、あの日からも毎日、夜に特別に病室に入れてもらって見守ってたの。寝てたから気付いてないと思うけど。きっとバレたら怒られるよね。
でも、今日もきちゃった、久しぶりに夜じゃなくて、まだ夕方だけど。
手術が終わるのを、ずっと待っていた。数時間にも及ぶもので、結局真夜中になっていた。
「紗季ちゃん、手術の結果なんだけど」
「はい、どうでしたか」
「それが――」
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