第一話 悪夢
夕陽が沈み切る前、燃え盛る太陽が最後の光を放ち、一日の終わりを告げようとする。
俺は、握られた手の温かさで目を覚ます。
「あなた……」
握っていたのは妻の紗季だった、いつもは笑っている紗季のめったに見ない悲しそうな顔を浮かべていた。
「紗季、どうした?こんな時間まで寝てたから、怒ってんのか?」
俺は、起き上がって妻に向き合うように胡坐をかいて座る。
「ううん、違うの、あなたが、余りにも苦しそうな顔をして寝てたから心配で」
どうやら、俺は、お昼寝をしていたつもりがきっと悪夢に魘されてでもいたのだろう。そういえば、そんな夢を見た気もするが、よく思い出せない。
「そっか、ごめんな、心配させて、ぜんっぜん大丈夫!元気元気!」
「それなら、いいんだけど、じゃあ、早く準備していこう」
ん?準備?なんのことだっけ、思い出せない。
「お祭り行くんでしょ、私はもう準備万端、浴衣姿褒めてくれないんだー」
紗季は、鮮やかな水色の浴衣に朝顔の模様の見ているだけで涼しくなってくるような爽やかな浴衣に身を包んでいる、紗季は基本常に着物を着ているから気付くのが遅れてしまった。
祭りか、だからやけに外が騒がしいのか。
「ごめんごめん、いつも通りに、いや、いつも以上に綺麗だよ」
「適当言わないで、早くあなたも着替えないと」
紗季は、拗ねたように口を膨らませながらも、丁寧に着付けをしてくれた。
「よし!完璧、いつも通りに、いやいつも以上にかっこいいよ」
「真似すんな、恥ずくなる」
「いいじゃーん、いつものことだよ」
紗季は、ニコッと笑い楽しそうに話す。ついつい、俺も笑顔をこぼしてしまう、紗季の笑顔はずるい。
——―――——―――――
「じゃあ、そろそろいくよ」
「おう、あんま急がなくたって大丈夫だから、ゆっくり行こうぜ」
「そんなにゆっくりもしてられないよ」
紗季は、長い廊下をそそくさと走り抜けて、玄関に向かってしまった。マイペースな彼女はきっとこの後なにかハプニングを起こす、今に悲鳴が。
「ぎゃああああああああああああ」
ほらね、とにかく、急いで悲鳴のある方へ向かう。
「どうしたー、何があった」
ここからは、予想だが、きっと、急いでいた紗季は、廊下を最速で駆け抜け、玄関の段差で躓き、転んだ拍子におでこを地面に強打した。と、まぁ、こんな感じだろう、床に座り込む紗季のおでこからは血が流れ、目からはうっすら涙が流れていた、涙目な目で俺を見上げて何かを訴える。
「どうした、大丈夫か?せっかく可愛くおめかししたのに、怪我とか涙とかもったいねーだろ」
紗季の傍にしゃがんで、慰めるように、頭を撫でた。いつもなら、ここらで笑顔に戻るのだが、何故か今日はずっと、涙目で、どこか何かに怯えているようだった。
「なぁ、なんか怖いもんでも見た?でっかい虫とか」
紗季は、首を振る、虫ではないらしい。
「うーん、お化けとか?」
これにも、少し反応したが、直ぐ首を振った。
「え、まさか、不審者?」
これには、首を縦に振った。不審者が、居たというのか。不審者がいて、紗季が怪我。不審者に何かされたのか。俺は、紗季が不審者に何かされたと思い、怒りがこみ上げる。しかし、紗季がそれに気づいて少し悩んで、
「あなた、もしかして、不審者に何かされたと思ってる?違うよ、なにか、変な人影が、ドアの前にあったから、ビビッて転んだだけ」
「ほんとうか?不審者に何かされたわけではないのか?」
「うん、大丈夫、もういないし、それより、ありがとね、心配してくれて、もう大丈夫だから、さぁ行こう―!」
紗季は、さっきまで、怯えてたのが嘘のように元気に立ち上がった、まったくマイペースにもほどがある、まぁ、これでやっと、祭りに迎えるようだ、今度は怪我させないように、俺は、紗季の手を握って家を出た
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