第27話 文化祭 No.1
「はぁ〜文化祭は土日だから、朝起きるのがきつい」
文化祭当日の朝、いつもなら寝てる時間に起きた為欠伸をしながら支度をしていた。
「奏風、元気にしてたかー?お姉ちゃん、ただ今戻ってきたよ〜」
ドアを勢いよく開けて入って来たのは、一ヶ月ぶりの菫姉だった。
そして入って来たタイミングで俺はズボンを履こうとしたので、パンツ姿を菫姉に見られたことになる。
「菫姉!?今まで何してたんだよ。それより着替え中だから、一旦出て行ってくれ」
「姉相手に何恥ずかしがってるんだよ。昔なんか、お姉ちゃんと一緒にお風呂入る〜って言っては———」
「昔の事はいいから、下で待ってて!!」
「分かったわよ〜」
菫姉は少し残念そうな顔をしながら、部屋を出て下に降りて行った。
一言だけこの場で言いたい事があるとすれば、全開にした扉を閉めて行ってほしかった。
制服に着替え終わった俺は、菫姉の待つ下に降りていく。
降りて行ったら、机の上にバターを塗った食パンとお茶が朝食として準備されていた。
そして降りて来た俺に気づいた様で、菫姉が話しかけて来た。
「おっ!来たな奏風。朝食準備しといたから食べながらこの一ヶ月の話をしよう」
「十分で話終わらせてな。こっちも時間に余裕がないからさ」
そう時間がないのだ。
登校時間が八時二十分、現在の時刻が七時四十分そして食べた後も少し用意がある。逆算しても、十分が限度だった。
そしてお互いに朝食を食べながら、菫姉は話し出した。
「この一ヶ月で実は仕事を二つやってました。一つ目が派遣社員、二つ目が和菓子屋で弟子入りしてました」
「うん。ちょっと待って…情報が追いつかない。えっと、派遣社員の時の仕事はどうしたのかな?」
「それはもちろん、クビになったわ」
サムズアップしながら、菫姉は笑顔で言ってきた。流石にその話を聞いて、俺は呆れてしまう。
「クビになった原因は?」
「わからない。急にクビ宣告されて途方に迷ってたら、二つ目の和菓子屋に拾ってもらった」
「それで、その和菓子屋も辞めたと?」
「辞めたっていうか、基本をマスターしたから卒業した的な?」
菫姉が和菓子屋の技をマスターしただと!?
それはそれで凄いとは思う。だけど、一番聞かないといけないのは、卒業した後は何をするかだな。
「菫姉はこれから何をするの?」
「まぁ数ヶ月分のお金は一応あるから、その期間にまた新しい仕事を探すわ」
真面目な質問をしたのに、菫姉は簡単に答えた。
一生定職につかないのかと思いながら、時間が迫って来ていたのでここで切り上げることにした。
「とりあえず、菫姉がまたこの家に数ヶ月いる事が分かった。もう少し話を聞きたかったけど、時間的に出ないとまずいからこれで一旦終わりな」
「はいはい。後で文化祭行くからよろしくー!」
「マジか…」
笑顔で手を振っている菫姉を背中にして、俺は準備を終わらせて学校へ向かった。
◇
学校へ着くなり、俺は大雅のそばに来ていた。
「大雅、朝とんでもない事があってさ」
「何があったのか分からないけど、奏風の事を見てれば何かあった事くらい分かるよ」
そんなに顔に出ているのかな…と思いながら、俺は話を続けた。
「菫姉が一ヶ月ぶり帰ってきて、これまでの話を十分で聞いたんだけど、許容範囲外すぎてキャパオーバーした」
「そ、そうか。それは大変だったな。しかも、文化祭当日に帰ってくるなんてタイミングもいいし」
「そうなんだよ…文化祭見に来るんだって」
「かのんちゃん喜びそうだな」
「だな」
溜息を吐きながら、俺は大雅の机に置いていた手の中に
「とりあえず、元気になってもらう為に飴をあげよう」
「なんで飴なんか持っているんだよ」
と言いながらも、有り難く飴は貰う。
飴の袋にはいちごミルク味と書いてあるが、果たしてどうなのかと思いながら食べる。
「あっ、美味しい」
「だろ!最近のお気に入りだから、鞄に常備してるんだよ。ただ杏奈には食べ過ぎて虫歯にはならないでねって念を押されてるんだけど、つい食べ過ぎてしまうんだよな〜」
大雅は楠山さんの子供かなと思わせるやり取りだが、それがなかったらほんとに虫歯が出来るほど食べるんだろうなと考えてしまった。
「まぁ、その、ありがとうな。元気が出るわ」
「おう!」
すると前の扉から先生が入ってきた。
「みんな、その場で出席取るから返事してな」
先生が教室に入って来て、出席確認をする。
そして確認が終わると皆それぞれ、準備を始める。
いよいよ文化祭が始まる。
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