第25話 楠山杏奈の学校へ 後編
「うわ〜!どれも美味しそうで迷っちゃう!!」
「本当にレパートリーが豊富だな」
俺とかのんは今、二階の被服室の前にいた。
被服室ではPTAの方々による、料理が振る舞われていた。
メニューは「カレーライス」「メロンパン」「たこ焼き」「うどん」などだ。
この中で一番人気はやはりカレーライスらしい。
「かのんはどれにするか決めたか?俺は人気一位のカレーライスにしようと思うんだが」
「そうですね〜私はこの冷たいかけうどんにしようと思います」
「冷たいの食べてお腹壊さないか〜?」
「そんな子供みたいな言い方酷くないですか!!それに、私はお腹強いので!」
少し冗談まじりでニヤニヤしながら、かのんに聞いた。
それを聞いたかのんは頬を膨らませて反論した。
「そうか、ごめんな変な事言って。それじゃあ、中に入ろうか」
「話逸らしましたね。まぁ、お腹空いてるのでここは寛大な心で許してあげます」
これ以上、この話をするとまた俺が何かしそうだったので中に入る事を促した。
最初は少し気に入らない表情をしていたが、かのんもお腹空いていたので寛大な心に許された。
「次の方どうぞ〜。チケットを拝見します」
中に入ると店員のPTAの方がいて、商品名が書かれたチケットを渡した。
注文をしたら、隣の人に伝えて一番前で受け取る仕様になっている。
お金は最初の段階で払っている。
それぞれ食事を受け取り、空いていた席に座った。
カレーライスを一口食べると、ふんわり香るスパイスに中辛の辛さでとても食べやすく美味しかった。他にも野菜がよく煮込まれていて、柔らかく食べやすくカレーの中にも味が染み込んでいる気がした。
かのんもかけうどんを啜っていた。
上品にうどんを食べていたので、服にも机にもつゆが飛んでいなかった。
「食べ終わったらどこに行こうか?」
もうすぐで食べ終わりそうになったので、次の候補を決める事にした。
お昼の時間だから少し混んではいたけど、まだ余裕がある事が確認できたので食べながら聞くことにした。
「一旦、杏奈ちゃんのクラスを見に行きたいですね〜」
「そーいえば、行ってなかったな。もしかしたら、午後から一緒に回れるかもしれないから覗きに行くとするか」
次に行く場所を決めたので、俺とかのんは残りをすぐさま食べ終えて部屋を出た。
楠山さんの教室は二階にあるので、このまま直行した。
教室にあと少しで着く所でかのんが何かに気がついた。
「奏風先輩あそこに見えるの大雅先輩じゃないですか?」
「うん?………あっ、ほんとだ。大雅のやつ何してるんだ」
俺は指さされた方を目を凝らして見ると、そこには教室の前に立っている大雅がいた。
流石に気がついてしまったし、楠山さんのクラスの前にいるので無視もできずに話しかける事にした。
「大雅ここで何してるんだ?」
「うぉ…なんだ奏風とかのんちゃんか。俺は杏奈が来るのを待っているんだよ」
「なるほど。俺達はお昼も食べ終えたから楠山さんに会いに行こうかって話になったからここに来た感じ」
「いつの間にお昼食べたんだよ」
「そんな事言われてもお腹空いてたからな。かのん?」
「そうですね。お腹ぺこぺこで大変でしたよ〜」
そう言って、かのんはお腹を円を描くように回している。
「てことは、結構楽しんでたんだな。何かやったのか?」
「犯人探しをやった。それだけだよ」
「なんだそれだけかよー。もっといろんな事やらないと!」
「犯人探しやばいぞ」
「なにが?」
俺の言い方が悪かったのか、大雅の頭にはきっといくつもの〝?〟が浮かんでいるんだろう。
仕方がない、もう少し詳しく話すか。
「犯人が見つからなくて、思ったより時間が掛かった。以上」
「簡潔にまとめてくれたみたいだけど、分からなかった。かのんちゃんどーゆうこと?」
「そのまんまの意味です。犯人、隠れてた、見つからない、時間がかかるです」
「カタコトに言われて更に分からなかったわ。まあ、犯人が隠れるのが上手だったってことか?」
「なんだ、分かってるじゃないか」
「二人の会話からこの答えを導き出したのだ」
髪を手で弾いて、キメ顔をしてきた大雅。
だけど、それをやられても何も思わないぞと考えながら、かのんを見ると少し引いていた。
それから、また話しかけようとしたら楠山さんがやってきた。
「やあ、皆さんお集まりなようで。で、かのんちゃん楽しんでる?」
「楽しんでますよー!犯人探しは疲れましたけど」
「あれは中々難しいって聞いたよ。でも、三人見つけてクリアーもしたんだってね!流石だね」
いやいや、どこでクリアーした事を聞いたんだ?
楠山さんってほとんど動いてないよね。
情報網はどこからだ…などと不思議そうな顔をしてたら楠山さんが答えてくれた。
「私の情報網を舐めないでよね!どこからでも入ってくるんだから!」
「実質、この学校支配してますよね」
「してないから!!偶々、皆んなに好かれるキャラだったの!!!」
もう何も言えなくなり、とりあえず苦笑いしといた。
その後は四人で回る事になった。
「かのんちゃんに私のクラスの見て欲しいけど、そこまで目立ってないからオススメできないなぁー」
「えっーと、黒板アートですか?」
楠山さんの台詞を聞いたかのんは持っていたパンフレットを開いて、楠山さんのクラスを探した。
見つけると、そこには黒板アートと書かれていた。
「そっ!黒板に絵が描いてあってその位置に着くと映えな写真を撮れるんだよ」
「それは目立つのでは?」
「それが、あまり人が入ってなくてね。それに黒板アートってイマイチでしょ?」
「そんな事はありません!!私見たいです」
かのんの勢いのある台詞に楠山さんは押し負けた。
実際、話していた所は楠山さんのクラスの前なので少し見えていた。イマイチどころか、凄いんですけどって感想が言いたくなる程の絵が見える。
「じゃあ、中へどうぞ」
中へと案内された俺とかのんと大雅は辺りを最初見回した。
後ろの黒板にはアニメキャラの絵が描かれていて、凄い力作だった。
前の黒板には風船と羽が描かれていた。
これは何かなと思い、楠山さんに聞くと所定の位置に立ってポーズを決めると羽が生えたように見えて、更に風船を掴んでいる様にもなるらしい。
そして、楠山さんは俺とかのんにその場所に立つように促されて二人で立つ。
楠山さんはかのんから携帯を借りて、俺達の位置を調整しながらカメラを構えた。
「ハイ、チーズ」
パシャという音がする前にポーズを決める。そして、出来上がった写真見た。
写真にはかのんの背中から羽が生えていて、俺に風船を渡している風景になっていた。
かのんもこの写真に満足したらしくずっとニヤニヤしながら眺めていた。
楠山さんの感謝の意味を込めて、大雅との写真を撮るよと伝えると、最初は遠慮しながらも大雅に言い負かされ渋々やっていた。
お互いに写真を撮り終えたので、クラスを後にして色んな場所を見て回る事になった。
「あっ!今の時間ならクッキング部のクッキーが売ってるかも!!」
そう言われて、俺達を引っ張って行く。
販売会場に着くと、まだ販売五分前だったが既に多く並んでいた。
もう一度、楠山さんの方を見るといつの間にか列に並んでいた。かのんもその後ろにいた。
俺はかのんの後ろに並び、大雅は楠山さんの後ろに並んだ。
「ここのクッキーが一袋百円なんだけど、すっごく美味しいの!去年食べてからもうどハマりして毎年の楽しみになっているんだ!」
嬉しそうにクッキーについて語る楠山さん。
その様子を見ると俺までそのクッキーを食べたくなってきた。
「それは楽しみだな」
「ですね!杏奈ちゃんのオススメなら買うしかありません」
「俺も買うとするか」
俺とかのんはノリノリで買う事にしたが、大雅は渋々に感じる…いや、気のせいだな。
そして、開店した。
「いらっしゃいませ。お一人様二つまでですがいくつにしますか?」
「それじゃあ、二つください」
「かしこまりました。お会計、二百円になります」
「はい」
お金を店員さんに渡すと、二枚のチケットを渡された。
どうやらクッキーは前の方で渡されるらしい。
そして、二つのクッキーを受け取り三人がいる場所へと駆け寄った。
「奏風くん一気に二つも買うなんてやるね〜」
「楠山さんのオススメなら外れはないと思って」
「あはは、最高だね奏風くん」
「よく分かりませんが、ありがとうございます」
俺も何故かよく分からないが感謝を述べた。
かのんはクッキーを一袋、大雅も一袋、楠山さんは言うまでもなく二袋を買っていた。
「それじゃあ、残り数時間は思い切り楽しんじゃおー!」
「「「おー」」」
楠山さんの掛け声に俺達も便乗したが、周りの視線が少し痛かった。
残り数時間で回れるものとしても、数は限られているので二個に絞った。
一つ目が茶道部で茶立てを見てそれをお茶菓子と共に飲む。
これは少々お茶が渋かったが、お茶菓子と共に食べるととても美味しかった。
二つ目が点字体験だ。
これは普段は使わない点字キットで点字を打ち込み、例題文書を書くのを体験した。
普段何気なく見ていた点字だが、自分で打つ事によって新たな発見などができた気がした。
そして、あっという間に時間は過ぎていき終了時間になった。
「杏奈ちゃん是非、私達の学校の文化祭にも来てください!私が案内しますから!」
「かのんちゃん!私絶対に行くよ!その時は案内よろしくね!でも、奏風くんと回るのも大事にしてね。そこの大雅がいれば案内は大丈夫なんだから」
「うぅ…恥ずかしいのあまり言わないでください。それと、案内は少しはしたいので」
「かのんちゃんの気持ちは分かった。なら、少しだけお願いしようかな。奏風くんもそれでいい?」
「俺は大丈夫ですよ。大雅と回ってますし」
「あっ、もう俺のは決定事項なんだ」
大雅はまた自分の意見を言わずに決まって行く事に不満があるが、何も言い返せずにいた。
そんな大雅を見て俺は肩に手を置いて、首を振った。
それで、更に落ち込む事になったんだけどね…
「それじゃあ、俺達は先に帰ります」
「またね、杏奈ちゃん!」
「かのんちゃんもまたね!」
挨拶を終えて、俺とかのんは帰ることにした。
帰り道は今日あったことの話題で盛り上がり、最寄り駅まであっという間に着いた。
そこで、かのんとまた少しだけ話をしてお互いに家へと帰って行った。
家に着くとメールが一件来た。
送り主は勿論、かのんだ。
『今日は楽しかったですね!思い出写真を送りますね!』
と、文章と一緒に黒板アートで撮った写真が送られてきた。
『ありがとう。俺達の学校の文化祭でも思い出作ろうな』
と返信をして、すぐに返信がきた。
『当たり前ですよ!』
その言葉にふと笑みを溢しながら、今日買ったクッキーを食べた。
「あっ…美味しい。オススメするだけはあるな」
そして、一袋はあっという間に無くなった。
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