第16話 海水浴⑥

「はーい、みんなここから好きなのを選んでね〜」


 菫姉が割れたスイカを紙皿に五人分に分けて、俺たちが好きなのを一つ選んだ。

 そして、大雅がスイカの種を飛ばして俺も真似したら、かのんと楠山さんに冷たい目線を向けられた。


「やはり、砂埋めをやらないといけないかも知れませんね」


「そうですね。あの二人には罰を…」


 そして、楠山さんとかのんの心に火が付いたらしく、一度無くなったはずの砂埋めの事をコソコソ話していたが、俺はスイカを食べながら聞き耳を立てていた。


 一方、大雅は呑気にスイカを食べている。

 菫姉は何も言ってこないが、「青春だね〜」って感じの顔をしながら頷いていた。


 そして、スイカを食べ終えると楠山さんが目の前に立ち話し始めた。


「えー、男子諸君…スイカは美味しかったですな。では、奏風くんはかのんちゃんの所へ大雅は私の所に来てください」


 楠山さんの口調がいつもと違う。

 上から目線の雰囲気はあるけど、どこか優しさを感じる…


 という訳で、俺はかのんの方へ来た。


「来たけど、何をするんだ?」


 一応やる事は何となく予想は出来るけど、何も知らない風に聞いてみた。


「とりあえず、奏風先輩はここに横になってください」


「ここ!?」


 指示された場所は砂の上。

 何もないブルーシートも引いてない所。

 かのんは目を輝かせて、指を指し続けている。

 

 俺は乗り気ではないが、かのんの為にその場に横になった。


「横になったぞ。これからどうするんだ?」


「奏風先輩はそのまま動かないで、じっとしてていいですよ。ここから先は私の仕事なので!」


「わかった…」


 かのんはそう言うと、どこからかスコップを持ってきて俺の体に砂をかけてきた。

 いや、ちょっと待て…

 ほんとにどこからスコップ持ってきたんだ?

 謎すぎる…


 そう思いながら、俺は首だけ横を向いて大雅の方を向いた。


「大雅さーん、どうですか?何か言いたい事ありますか〜?」


「えっ、いや…な、何も無いです…」


 隣は俺よりも作業が進んでいて、大雅の体の半分は砂に埋もれていた。


 あー、大雅よ…頑張って生きて帰ろうな…

 と思いながら、自分の方へと目を向けた。


 僅か十五分で首から下は砂で埋もれた。

 かのんはと言うと、やり切った顔をして手の甲で汗を拭いていた。


「杏奈ちゃん!こちらは準備できました」


「こっちも準備OKだよ!」


 かのんと楠山さんは目を合わせると、俺と大雅の間に入ってきた。


「これから何するんだ?」


 俺がそう聞くと…


「ふふふ…奏風先輩を女の子にさせます」


「簡単に説明すると、私とかのんちゃんで大雅と奏風くんの砂に悪戯すると言う事です」


 二人は不気味な笑みを浮かばせながら、砂の上にどんどん形を作っていく。

 言い返したかったが、大雅が諦めた顔をして遥か彼方の方を見ている気がしたので、俺も何も言わずに身を委ねた。


 二人はまず俺の方から作業を始めた。

 上半身——胸の所に二つの山を作った。そして形を整えて、大きい双丘となる。次にお腹周りを少し滑らかにして、くびれを作っていた。最後に下半身だが…中間の太さの太腿を作る。


 そんな感じで、作り終わったらしく——


「完成ですね!いい感じにできたと思います」


「うん!なんか、可愛い…」


「奏風先輩は私のですから渡しませんよ!」


「わ、私はそーゆう意味で可愛いって言ってないから安心して」


 二人で納得して上機嫌になりながら、かのんと楠山さんは言い合いしている。

 言い合いはしてないか、二人とも顔が笑っているから。


 そして俺の方が終わると、大雅の方へと向く。

 大雅も俺と同じ工程でいじられていた。


 そして、数分後———


「「二人とも完成!」」


 と同時に台詞を言い、携帯で写真を撮っていた。

 

「奏風先輩の全体像はこんな感じです!」


「ははは…これは、凄いな…」


 かのんが撮った写真を見せてくれた。

 その写真を見て、俺はその言葉しか出てこなかった。

 そして大雅の方も楠山さんに見せてもらったらしく、俺と似たような反応をしている。


「で、俺達はいつまでこうしてればいいんだ?」


 大雅が楠山さんに聞いた。

 

「まぁ、起きれるなら起きても構いませんよ?ね、かのんちゃん」


「はい!もう写真も撮れたので満足です!残り一時間遊びましょう!」


「そうだな」


 二人がそう話して俺は頷いた。

 そして俺の体に固まった砂を内側からくねくねして、空間を作り動きやすくなったら一気に上半身を起こした。


「奏風先輩、流石です!!」


「奏風くん凄いね〜」


 二人に褒められて少しニヤけてしまった。

 すると後ろから大雅が「俺を助けてくれ〜」と叫んでいたが、かのんに手を引っ張られて海へと向かった。


 後ろを振り向くと大雅はまだ砂に埋もれていてこっちを必死に睨んでいた。

 すまないと思いながら、かのんと残り時間を楽しむ事にしたんだが…楠山さんも一緒に着いてきた。


「あれ、楠山さん…大雅はいいのか?」


「あー、ほっといていいよ。お仕置きだから帰る直前まであのままだよ」


 その言葉を聞いて俺は苦笑いしかできなかった。



 あっという間に帰る時間になっていた。

 大雅は楠山さんに掘られて脱出に成功した。

 そして俺達はシャワーで砂を落として、着替えを済ました。


「よし、みんな揃ってるな。左から番号を言え!」


 車の前に着くなり、菫姉が号令を掛けてきた。

 いや、ここにいる時点で逸れた人いないんだからやる必要ないやろと思いながら、かのんから番号を言っていた。


「一」


「ニ」


「三」


「四」


「うむ。全員いるな。よし、乗り込め!」


 掛け声と共に車のドアが開き、皆んな乗り込んだ。


 帰りの車の中で俺と菫姉は起きていたが、後ろの三人は寝ていた。


「奏風、今日は楽しかったな」


「そうだね。皆んなで楽しめてよかったよ」


「かのんちゃんと、これからもちゃんと仲良くしてよね〜お気に入りだからさ」


「わかったよ」


 それから俺と菫姉は話す事はなく、家まで静かな時間が続いた。

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