Report 13 暗雲(5)

 賢治は感心していた。

 被害者であるにもかかわらず加害者を説き伏せ、人の道へ戻すために手を差し伸べる、その寛大さと聡明さに。

 自分だったら、まずできないことだった。


「……今日は、色々とありがとう。島嵜さんのお陰で、活動を辞める決心がついたよ」


 火村がそう言うと、島嵜はゆっくりと首を横に振った。


「あたしは何もしてないよー。謝りに来たのも、活動を辞めるのも、全部火村くんが決断したこと。誰かのせいにせず責任を果たそうと、自分で決めたことだべさ」


 それから深々と頭を下げて、火村は生徒会室を出て行った。

 そんな彼の後姿を見送りながら、賢治は考え込んでいた。迫害を受けるものが、別の迫害を受けているものを迫害するという、差別構造の複雑さに。


「それじゃあ、ボクたちもそろそろ失礼します……。アイスティー、ごちそうさまでした」

「いいえー。お静かに、ご油断なく」


 賢治が「へ?」と首をかしげる。


「ああ、ごめんねー。これ岩手の方言なんだべ。『お気をつけて』って意味なの」


 そして賢治たちもまた、その場を辞去することにした。




   ★


 トクマの付近の電柱の陰に隠れ、灯はずっと盗聴していた。

 ――生徒会室での会話の全てを。


 島嵜こと干は、スマホを通話中のままブレザーの胸ポケットに入れていたのだ。そうして島嵜は、生徒会室の様子を全て灯に伝えていたのである。


(何故、桐野たちがトクマに……。あの訊き方、まさか桐野たちは私のことをマガツの一員だと勘付いたんじゃ!?)


 だが灯は、即座にその疑念を振り払う。


(いや、まだそうと決まったわけじゃない……。それに、魔導警察関係者でもない彼らでは、決定的な証拠をつかむことなんてできやしないだろう。それよりも……)


 灯は頭のなかの話題を切り替える。

 火村が、島嵜に話した謝罪の内容についてであった。

 彼女は今、火村のけして恵まれているとは言えない境遇を聴いたいま、当初持っていた敵意が揺らぎつつあった。


(……いや。こんなもの、私たちが受けてきた迫害に比べれば何ということはない……。しかし、人の「つらみ」というのは、そんな単純に比較できるものではないのも事実。私は、どうすれば……)

「壬、聞いてるー? いま終ったよー」


 通話口から声がした。


「はい、干。聞いております。その……火村なんですが……」


「ああうん。予定通りやって」


 灯は耳を疑った。

 自分が今さっき優しく説き伏せたばかりの相手を、襲撃しろというのか。


「よろしいのですか……?」

「よろしいも何も、ターゲットの事情なんてウチらにはどうでもいいことでしょ? 『門』の保有者含むあの四人に見つからないよう、手際よくやってね。じゃ」


 プツッ。通話が終了した。

 灯は絶句した。

 余りにも冷徹に割り切る干の態度に。


(私たちは……、本当にあの女に従っていいのか……?)


 けれども、灯はブンブンと頭を振って迷いを振り切る。


(いや。松元も言ったが、革命とはそういうもの・・・・・・なのだ。情に絆されてはいけない。やるべきことをやる、ただそれだけだ……!)


 トクマの正門から、火村が出てきた。

 灯は、尾行を再開した。




   ★


 生徒会室に残された島嵜は、賢治たちが使ったコップなどの後片付けをしていた。廊下に設えられた水道で、丁寧に洗う。


「……」


 鏡に映る島嵜の顔からは、さっきまでの人を安心させる朗らかな笑みが完全に消え失せていた。マネキンのような、感情を感じさせない無機質な表情をしている。

 水道を止めて、布巾でコップを念入りに拭き取る。まるで使った痕跡・・・・・・・・を残したくない・・・・・・・かのように・・・・・

 四つの食器を手に生徒会室に戻る島嵜。

 すると窓の外の正門に、新たな来校者が近づいてくるのが目に入った。


「……!」


 その姿を見て、島嵜は自分が取るべき行動を即座に把握し、実行した。




   ★


(――はー。生徒会室にサイフを忘れていたことに今頃気づくなんて、どんだけうっかりしとるべ)


 女子生徒はそんなことを考えながら、正門脇の警備室に向かっていた。それから守衛に挨拶をして、門を開けてもらおうとした。


「守衛さん、こんにちはー」


 女子生徒は、朗らかな笑顔で挨拶をする。

 けれども守衛は挨拶を返さず、疑うような顔をした。


「あれ? 島ちゃん、いつの間に外へ出たの?」


「……へ?」


 女子生徒は首をかしげてしまった。


「いや。だって島ちゃん、さっき出ていった他校の生徒さんたちの相手をしていたじゃない」


 女子生徒――島嵜美生は、守衛が何を言っているのかがさっぱり理解できなかった。


「他校の生徒? あたし、いま来たばかりなんだけど……?」

「いやいや、そんなハズないでしょ。お昼前に来てからずっと、生徒会室にいたじゃないの!」

「ええ、でも……」


 そこで島嵜の頭の中に、ある考えが頭をよぎった。


 ……守衛さんの言っていることが正しいのなら……。いま生徒会室には、自分じゃない・・・・・・自分がいる・・・・・ということになる。


 無論、そんなことはありえない。

 そこにいるのは間違いなく、術か何らかの方法を使って自分になりすました、他人だということだ。

 島嵜は、ぞわっと鳥肌を立つのを感じた。


「――守衛さん、ちょっと一緒に来てくれますか?」


 守衛は首を縦に振った。

 二人は高等部の昇降口から、校舎内に入る。

 西日が差し込む廊下は静まり返っていて、島嵜と守衛の二人による足音だけが響く。

 二人は生徒会室の前に到着した。

 守衛は島嵜に「開けるよ」と確認を取る。島嵜は首肯する。

 ドアノブに手をかける守衛。しかし――


「鍵が、かかってる」


 守衛のおじさんが鍵束を取り出して、鍵穴に差し込む。解錠された。

 そして怖々、生徒会室の鉄の扉を開ける。

 ギィィィィ……。


「――」


 テーブルの上に散らばった書類。雑然としたパソコンデスク。ゴミ箱のゴミの量は、昨日と同じ。

 島嵜の視界には、いつもの生徒会室の風景が広がっていた。


「……ねえ。やっぱり、誰かと勘違いしていませんか?」


 島嵜は、守衛さんに問い質す。


「そんなワケないよ! 内線にも出たし、正門のところへ降りてきて来客の子たちと話していたじゃない!」

「ええ、そんなこと言われても……。来客って、どんな人たち?」

「えーと、背の低い高校生の男の子二人に、お下げの女子高生。それに小学生くらいの女の子。この四人と後は――ほら昨日、スピーカーで怒鳴ってたデモ隊の兄ちゃん。派手なワイン色のロン毛の。彼が謝りに来たんだよ。全員、アンタが応対したんじゃない!」


「……知らんべ、そんな子たち」


 島嵜は、震える唇で守衛に言う。

 自分以外の自分が、すぐ近くにいる。

 そんな不気味極まりない事態が起こっているという現実を、島嵜は受け止めきれずにいた。

 すると茫然とする脳の奥底から、昨日のある記憶が引き出された。


「……そういや、昨日もヘンなこと言われたべ……」

「え……どんな!?」

「あの騒ぎの後、あたしずっと職員棟の裏で掃除しつぉったんですよ。それなのに学校医の羽山先生が帰りがけに、『高等部前の片付けはもういいのか?』なんて言ってきて……」


 青ざめる二人。

 テーブルの上の書類が一枚、パラリと下に落ちた。




   ★


「¡Buenaブエナ(美味い)! やっぱりここに来たからには、フィッシュアンドチップスを頼まなきゃね!」

「イソマツ、おめー食い過ぎだぞ!! フィッシュは一人二つまでだろーが!」

「うむ! プディングに卵黄と肉汁がよく絡むのう!」

「現世、ミンスパイ頼む?」


 賢治たちはアイアンモール内の魔女の大窯ウィッチーズ・ケトルで、遅い昼食を摂っていた。

 各々がカテージパイやらサンドイッチやらの料理を頼み、シェア用の少し大きなフィッシュアンドチップスをつまんでいた。


「うむ! 食った食ったなのだ!」


 現世が太鼓腹をポンと叩いてそう言った。

 あらかた食べ終わった賢治は、おしぼりで手を綺麗に拭き、スマホを立ち上げていた。


(もう15時か……。ずいぶん遅くなってしまったな)


 そして何気なくブラウザを開き、googolのニュースのリンクに飛んだとき――賢治は括目した。


「……!」


 そして顔色を変え、スワイプする。


「み、みんな! これ見てくれ!!」


 そう言って桐野たちにもスマホを見せた。

 そこには、あるニュース記事が掲載されていた。


 27日午後2時ごろ、神奈川県円島自治区清丸町三丁目で、白銀衆の構成員の一人である少年(17)が、黒いパーカーを着た人物に襲われるという事件が発生した。少年は頭に軽い打撲、左腕を骨折するという、全治一ヶ月の重傷を負った。

 白銀衆の構成員の襲撃はこれまでに二回起きており、凶器はいずれも、小瓶から弾丸のように発射された水と見られている。いずれも目撃証言では、黒いパーカーを着こんだ人物であったという。

 また事件直後、前の二件の事件と同様に、反社会的術師結社「マガツ」の犯行声明と思しき書き込みが、魔導界ウェブの情報サービスWizperに投稿されており、魔導警察では関係性を調べているという。


「午後2時……。わたしたちがトクマを出たあとすぐだ!」


 桐野が言った。

 賢治は「クソッ!」と毒づいて立ち上がろうとした。


Esperaエスペラ(待ってよ). どこ行くの?」


 だがイソマツがとがめるように言った。


「現場に行くに決まっているだろ! そろそろボティスもまた召喚できるようになる時間だ!」

「召喚してどうするの? 陰陽保安士たちが張っているなかで?」


 冷やかにイソマツはそう言った。

 ネットニュースになっているくらいなんだから、もうとっくに行政の手で捜査が始まっているに決まっている。


「それとも何? さっき必死こいて逃げのびた努力を水の泡にする気かい?」

「くっ……」


 賢治は、悔しそうに歯噛みをしながらドスンと席に戻った。


「たしかに、火村さんは謝っても許されないことをした。貧困や障碍だって、被害者からしたら加害者の都合でしかない。ヘイト行為をしていい理由にはならないよ。……だけどこれじゃ、いつまで経っても暴力の連鎖が止まらないだけじゃないか!!」


 わなわなと震える拳をギュッと握り締めて賢治は言う。腹の底から激しい怒りが滾っていた。


「こんなことは止めなくちゃいけない……! マガツ、お前らは間違っている……!」




   ★


 灯は、アパートの自室にいた。

 余り物を購入する趣味がないため、この六畳の部屋には必要最低限の家具と電化製品しかない。

 彼女は慣れた手つきで、畳を裏返す。

 出てきた床下には、ぽっかりと大きな穴が空いていた。

 灯はスニーカーを履いて床下に降りる。穴の中には、あらかじめ設えておいた折りたたみはしごがある。彼女はそれに足をかけて、慎重に降りていく。多少の傾斜はあるし、三メートルにも満たない高さではあるが、万が一でも負傷したら厄介なことになる。

 穴を下り終えると洞穴があった。周囲は、梁としては心許ないボロボロの角材で固定されている。辺りには瀬戸物や木屑、もんぺの切れ端などが散乱していて、ここが昔に防空壕として使われていたことを物語っている。その先に進むと、道が二手に分かれていた。

 ここから、円島の巨大な地下迷宮へと通じているのだ。

 灯は洞窟を、東南東の方向へひたすら進む。通路は複雑だったが、灯は何度も使っているため道順は全て頭の中に入っていた。

 すると、外の光が差しこんでいる大穴が目に入った。

 灯は穴を抜ける。

 そこは、近代的なタイル張りに鉄筋コンクリートの空間であった。


 冠谷前駅跡である。


 ここは十干が何度もミーティングに使ってきたため、もはやお馴染みになってしまった。

 前を見ると自分以外の幹部は――逮捕されたきのとひのとつちのとみずのとを除いて――全員集合していた。


 髭をぼうぼうに生やした背の低い筋肉だるまと眉毛が立派な痩せ型の男は、ハリーとモードことかのえかのと兄弟。

 場にそぐわぬ袴姿の男は、フライハイこときのえ


 この三人はロマネスク時代から松元を信奉している古参兵だから、灯とも顔なじみだ。

 だが残る二人の十干は、灯も会うのが初めてであった。


 恐らく、己や癸にひけをとらないブロースカットの巨漢がつちのえで、紺色のフード付きパーカーを着こみパントマイマーがつけるような白い仮面をつけているのがひのえだろうと、灯は思った。


 以上の二人は、マガツ結成後に入ってきた構成員だ。


 そして、島嵜美生こと干。


 以上、六人の十干と彼らのまとめ役である干の、合計七人の幹部が揃ったというわけであった。


みずのえ、お疲れ様ー」


 いつも通りの朗らかな笑顔で干が言った。

 そこには、自分がさっきまで会話していた相手に危害を加えるよう命じた罪悪感などは、微塵みじんも感じられなかった。

 割り切りが良い、などという表現では言い表せない不気味さを、灯はこの干という女性に感じていた。


「さて……、ようやっと始むんばい」


 ハリーもとい庚が、興奮を隠し切れない様子で言った。


「んだね。明後日の午後3時40分、私たちはこの円島を戦場にするんべよー」


 そう言いながら干は、ノートパソコンを操作する。

 そして動画ファイルを開く。すると、ぐにょぐにょと動くCGの背景に浮かび上がる松元精輝が映った。

 この五年間、マガツの構成員たちはずっと干に送られてくるこの動画のなかの松元の指示に従って行動してきた。松元と直接通信できるのは、干だけである。


『……二十一世紀の日本に、妖怪が出る。魔導人民主義者という妖怪が……』


 動画のなかの松元が喋った。

 意味深な前置きをした上で『同志諸君、ついにこの日がやって来た。我々の悲願の第一歩を踏み出す、この日が』と続ける。


『2017年5月29日午後3時40分……。我々はかねてより計画してきた作戦を実行する。そこで各々の役割を、いま一度確認しておこう』


 すると灯は、線路の南側に目を向ける。その先には、月輪山から流れ出ている太七川たしちがわが横切っている。ここからじゃ見えないが、太七川の中流護岸のかたわらには、陰陽保安局東部支局の庁舎が建っているのだ。


『まずは壬。君が陰陽保安局に忍び込み、山吹光影を暗殺する。成功したらすぐに、干へ連絡を入れること……』


 灯は「同志松元、仰せのままに……」と、淡々とした口調で言った。


『そうしたら干、君は戊に合図を送るんだ。そして円島魔導警察署を強襲する』


 そう言われた戊は、背後を振り返る。

 その視線の先に、ヴェールで包まれた巨大なオブジェがあった。


(この男とはほとんど会話を交わしたことがないが、評判通りの腕の持ち主らしいな。限られた予算と時間で、あんなもの・・・・・を本当に作り上げてしまうとは)

『白銀衆の構成員の襲撃を続けていれば、かならず大物が動くはずだ……。そして機は熟した。山吹光影の暗殺および魔導警察への襲撃が成功すれば、退魔連合の脆弱性が顕わになる。それだけでなく、光影が陰陽保安局で保護されていることがわかれば、術師界行政府と退魔連合、そして差別主義者の癒着が確定的になり、世論は確実に退魔連合から離れる。退魔連合の威信は総崩れだ』


 灯は頭のなかでは(そんなに上手くいくものか)と思っていた。

 けれども頭のなかの理性的な判断とは裏腹に、心は昂ぶっていた。動画のなかの松元を見ていると、それだけで高揚感が漲ってしまうのだ。


『だが、これらのことはあくまでも陽動だ』


 少しばかり熱っぽく語っていた松元が、ここで水を差すように声のトーンを低めた。


『これまでの白銀衆襲撃の目的は、退魔連合を動揺させて「門」の保有者に割く労力を削ることにある。陰陽保安局と魔導警察への襲撃という混乱の最中――丙、君が青梅賢治を誘拐するのだ』


 この松元の指示を聞いた当初、灯は驚いた。

 丙はマガツのなかでも、SNSのコミュニティの管理やハッキングなどといった情報分野の活動など、バックアップの役割を担っていた。灯の知る限り、丙が現場に出てきたことはなかったはずだ。

 だがそんな彼(彼女?)が今回、最前線で作戦を遂行するという。

 それだけ自信があり、干からも信頼を置かれているのか。


 当の丙は「了解した」とだけ応えた。


 白いマスクには変声魔導機械が仕込まれているらしく、不愉快な声音が廃墟のホームに反響した。 


『そして同時刻、因幡現世を誘拐するのが庚と辛の兄弟二人だ。辛、君は円島マルティン教会に行って徳長涼二の代理人と偽るのだ。それでもし話がこじれたら庚、君が力づくで奪え』


「了解であります、同志松元! 詐欺師の腕の見せ所だぜ!」

「応! 任せてはいよ!!」


 庚と辛の二人が自信満々にそう言う。


『青梅賢治と因幡現世の二人をかどわかせば、確実に妖魔同盟の徳長涼二が動く。そこで甲、君が徳長涼二を討つのだ』


 松元がそう言うと、甲は力強く承服の言葉を口にした。


「不肖、甲!! 命に替えても、必ずや果たして見せましょう!!」


 こんなにも甲が感情的になるのは珍しいことだった。

 それは単に、難敵を打ち破る武者震いという以上の感情が感じられたが、話がそれるため灯は穿鑿せんさくしなかった。


「今、妖魔同盟をまとめているのは実質的に徳長涼二。彼を始末すれば、同盟に『門』の保有者を守る後ろ盾はなくなるべさー」


 干がいつも通りの緩い言葉づかいでそう補足した。 


『青梅賢治と因幡現世の二人を奪取したあと、丙と庚・辛兄弟は離浜港はなればまみなとへ向かえ。そこに、干が手配した船を停泊させて置く』


 離浜港は、円島南西部の港である。かつては工業港であったが、現在はほぼ廃港同然となっており、滅多に使われない倉庫があるのみだ。


『……本作戦を遂行する同志は皆、奇しくも「亜人」である。亜人はかつて日本では、「妖怪」もしくは「あやかし」と呼ばれていた。君たちに敬意を払い、この作戦をこう名付けよう……。


天に代わって、腐った術師界を妖怪が誅するという意味を込め、「妖誅ようちゅう」と。


――諸君らの、武運を祈る』


 動画の再生が終わった。


「妖怪が誅する……、俺たちにぴったりじゃねえか!!」

「よっしゃ、やってやると!! 特権にあぐらかいだヒトの術師どもの目にものを言わせてやるばい!!」

「「同志松元、万歳! マガツ、万歳!! 魔導人民主義、万歳!!」」


 辛と庚が「雹 Haggal」のルーン文字が刻まれた黄金のメダルを懐から取り出して天高く掲げ、大いに昂ぶってそう叫んだ。

 あれはマガツの幹部のみに配られるメダルだ。ロマネスクのときの幹部の証であるメダルとほぼ同じ形状なのだが、違う点は霊力増幅装置の機能があるという点だ。その原理については、十干でも限られた人間しか知らされていないほどの機密事項であった。


「……余り騒ぐな。官憲に見つかったらどうする。警察署と陰陽保安局、両方とも1キロと離れていないのだぞ」


 戊が釘を刺すように言った。

 しかし、他の面子も表情からは察しづらいが、何かしがの高揚感は抱いていることだろう。

 そして灯もまた、同じであった。

 明らかに偽りのそれ・・・・・・・・・だったとしても・・・・・・・


「んだば、明後日の決行までしっかり身体を休めてきてねー」


 干はあっさりとそう言って、ノートパソコンを閉じた。

 ホームの外は、今にも雷雨が来そうなくらい空が広がっていた。

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