オールラウンダーズ!! 転生したら幼女でした。家に居づらいのでおっさんと冒険に出ます/サエトミユウ


  <二十四羽の白い鳥を捕まえろ>



「逃げた二十羽の白い鳥を探してくれ。報酬は銀貨六枚だ」


 イースのギルドマスターから意味深な依頼があった。


          *


 私はインドラという名の冒険者だ。元は伯爵令嬢だったが、虐待による心労で五歳のときに病み倒れ、別世界の知識を得て覚醒し客観的に現状が把握できるようになったので、通りかかったおっさん冒険者に誘われて出奔した。

 誘ったおっさん冒険者の名はソードという。自称【偉い人】で、【迅雷白牙】という痛々しい二つ名を持っている。

 多少のいざこざがあった後、私たちはパーティを組み、【オールラウンダーズ】という名で活動することになった。冒険者なのであちこち旅に出るが、拠点はここイースの町だ。久しぶりに戻ってきた。

 ソードはなぜか、私がイースの冒険者ギルドについていくことを嫌がるし、なんなら一緒に魔物討伐に行くことはもっと嫌がるのだが、それでもついていく! ソードだけ冒険するなんてずるいやい! ソードにひっついて冒険者ギルドへ行ったら、イースのギルドマスターから冒頭の依頼を受けたのだ。

 ソードは眉根を寄せてギルドマスターを見つめた。


「……たかが鳥を捕まえるのに、俺を使うのかよ? しかも報酬が安すぎる。わりに合わねーな。お断りだ」


 ギルドマスターはソードの言葉を想定していたのだろう。慌てもせず気落ちもせず、私を見た。


「嬢ちゃんはどうする?」

「もちろん受けよう。だが、その鳥のことはよく知らないので詳しい特徴を教えてくれ」


 私、即答。ソードはますます眉根を寄せてギルドマスターをにらんだ。


「……おいサンガ。どういうつもりだよ?」


 名を呼び捨てにされたギルドマスターは、ソードとは対照的にニヤリと笑った。


「どういうつもりも何もねーだろ。どっちかっつーと俺は嬢ちゃんに頼みたかったんだ。逃げた鳥を捕まえるような依頼は、嬢ちゃんくらいじゃねーと無理だからな」


 ギルドマスターのセリフを聞き、私はふんぞり返った。


「さすがギルドマスターは見る目があるな! 私にかかれば、そんなもの造作でもないぞ!」

「ざけんな俺がやる。インドラ、お前はすっこんでろ。そもそもお前がウロウロしてたら鳥がおびえてさらに遠くに逃げちまうだろうが」


 ソードが急に掌を返して受けるとか言いだしたけど。


「いーやーだー! 私が受けたのだ! ギルドマスターは、私に、って言ったぞ!」


 私は暴れて抗議したが、ソードは不機嫌に拒む。


「お前じゃ無理だ。俺がやる」


 言い争っていると、ギルドマスターが私とソードの肩をたたいた。


「んじゃ、二人でやってくれ。【オールラウンダーズ】さんよ」


 …………。

 ソードと顔を見合わせた。うん。はめられたみたいだよ?


 なぜに逃げた鳥を捕まえることになったのか。

 その鳥、バンデッドバード物盗りだそうだ。金品や宝飾類を盗み、巣に持ち帰る。

 巣はさぞかしゴージャスなんだろうな、と思ったら、どうやら飼い主に貢ぐのだそうでして……。けなげな鳥らしい。

 被害総額はともかく、個々の被害金額が大したことなくて今までは見逃されていたそう。まぁね。鳥に持っていかれたとなれば、どうしようもないと諦めるよね。

 ……なのだが最近、被害金額が大きくなってきた上にその鳥の目撃情報が多数出たので、とうとう捕獲依頼が出たのだ。


「数までわかっているのはなんでだ?」

「飼育しているやつが吐いた」


 なんと。飼い主はすでに捕縛されているとは。


「その飼い主も、家に遊びにきた鳥に餌をやっていたらコインや小さな宝石を持ってくるから、礼のつもりだと思ったのが最初らしい。そのうち特性がわかってきて盗みを目的に飼い馴らすようになった。だが、テイマー魔物使いではないので鳥が捕まったら、罰金を支払えば釈放される。問題は、その鳥だ。まずはソイツを囮に捕まえようとしたんだが、勘付いた鳥が寄ってこなくなった」


 ふむふむ。放置していたらまた誰かが飼い主に選ばれてそいつに貢ぐというわけか。

 ソードが腑に落ちないような表情でギルドマスターに質問した。


「討伐じゃねーのか?」


 なんてかわいそうなことを言うのだ! そんなけなげな鳥を殺す気か!?

 ソードをキッ!とにらんだら、ギルドマスターが肩をすくめた。


「稀少種らしくてな。生態研究も兼ねてギルドで飼い馴らすことになった」


 そうなんだ。稀少種なら殺されないはずね。


          *


 私は可憐な容姿に見合った天才的頭脳を持っているので、独学で魔術と魔導具製作を研鑽し、ついには憧れの思考戦s……ではなく、ゴーレムを造った。蜘蛛型思考ゴーレム、その名もリョークだ!

 そのゴーレムをオトモに町を練り歩く。

 全身に宝飾類を身につけ、金貨をジャラジャラさせながら!

 ソードはそんな私を見て呆れている。


「…………お前、やりすぎだろ。俺がその白い鳥だったらむしろ引くわ」


 なんでだ。わかりやすいじゃないか。

 服を埋め尽くすように宝石のブローチをつけまくり、ネックレスやブレスレットは重ねづけしすぎて普通の女性なら重くて立ち上がれないほど。指なんて、指輪を全部の指に複数個つけてるからね。うまく指関節を曲げられないね。


「鳥も盗賊も群がるようなこの出で立ちに、なんの問題があるというのだ」


 くるくる回ってみせる。陽を受けてキンキラキーンと光り輝く私。

 ソードが嫌そうに目を細めた。


「まぶしいからじっとしてろっての。――寄ってきてはいるようだな」


 索敵スキルがあるんじゃないかっていうソードが、姿の見えない白い鳥の気配を察している。


「うーむ、いっそ金貨を思いっきり撒いたら一網打尽に出来るんじゃないか?」


 待つのが嫌いな私は、おびき寄せ作戦を提案した。


「銀貨六枚の報酬のために、金貨を使っておびき寄せるっつーのがわりに合わなすぎだから却下だ」


 ――ソードはトップのSランク冒険者で、その上独身の風来坊なのでお金持ち。私は屋敷を出るときに、今までの養育費と母親の宝飾類を執事からいただいてきたのでそこそこお金持ち。なので、金貨の撒き餌などという金にものを言わせた作戦が決行出来るのだけど、ソードにダメ出しされた。

 ……そうよね、冒険者たるもの、予算に見合う仕事をせねば!

 そう決心し、気合いを入れて鳥を探すために目をこらしたら、隣でソードが金貨を指で弾いて空に放り投げたぞ!

 とたんに飛んでくる白い鳥!

 一直線に飛んできて、金貨をくわえ……ポトリと落ちてきた。


「金貨に麻痺薬を塗っといた」


 何食わぬ顔で私に言う。


「そういう手があるなら、言えば良かっただろう!?」


 キーキー怒ったら、ソードが笑う。


「確信がないのにばら撒けるワケねーだろが。今のはお試しだっつーの」


 そう言いながら鳥を無造作に拾い上げるので、それを私は奪い、抱えてなでる。


「そんな持ち方ではかわいそうだろう? ……よしよし、真っ白でかわいいなー。魔物なのにさほど大きくないのもかわいらしいな」


 両腕で抱えるくらいの大きさではあるけどね。

 ……と、突然リョークが腕代わりの触肢についている魔素ワイヤーを飛ばし、飛んでいる鳥を捕まえた。


「捕まえましたよー。エッヘン!」


 ドヤァ! ってするリョーク。やだ、ラブリーすぎ!

 鳥はビックリしたようでバタバタ暴れている。これまたかわいそうなので私が受け取って抱っこすると、おとなしくなった。


「よしよし。うむ、おとなしい鳥だな。人に懐くのが早いのかもしれない。さすが人に貢ぐ鳥だけある」


 私がご満悦でなでていると、ソードが鳥を見ながらボソッと言った。


「単に、お前におびえてるんじゃねーか? カタカタ震えてるぞ」


 そんなことないもん!


 そんな調子で捕まえていくと、そのうち捕まえずとも鳥の方から周りの地面に降り立ってきた。


「ふむふむ? 私のこの出で立ちに誘われたのかな。やはり寄せ餌としては正解だったようだ」


 私が満足してうむうむとうなずくと、ソードが首を横に振った。


「どう見ても、お前にビビってるようにしか見えねーぞ。捕まえた連中を脅して従えまくったせいで、お前を主と認定したんじゃねーか?」


 ちょっと待てソード。私は脅して従えてなどいない。かわいがって抱っこしてなでただけじゃないか。

 抱っこしてなでた鳥たちは、私の足元でじっとしている。リョークのお尻部分に搭載されているポッドに入れておこうと思ったのだが真っ暗だし、飛び去ろうとしてもすぐ捕まえられるからと思い直して足元に下ろしたんだけど、ぜんぜん飛び立とうとしないね。まぁ、麻痺している子は動けないだろうけどさ。


「この鳥の特性として、抱っこしてなでられるとなでた人間を主認定する、とかあるのかな」

「コカトリスを思い出せ」


 私が推論を言ったらソードに切り返された。

 コカトリスとは頭がニワトリで尻尾がヘビの魔物で、以前ソードと旅をしている最中に隠れ住んでいたのを見つけたら、何もしていないのにめっちゃ脅えられたのだ。

 ……あの子はちょっと臆病だったんだもん! だから、出会い頭にプルプル震えてたんだもん!


 数えたら、二十プラス四羽いた。依頼数より多いが、まぁいいか。飼い主が数え間違えたか増えたのだろう。


「よし、凱旋だ!」


 私が意気揚々と歩くと、白い鳥はおとなしく私の後ろをついてきた。

 ソードは頭をバリバリとかくと、「確かにお前向きだったのかもな。一羽捕まえて脅せば、残りの鳥もおびえてお前に従うからな」とか言い出した。心外な!

 くるりと身体をひねってソードを見た。


「私はちっとも脅してなどいないのに、何を言っているのだ?」

「お前の存在自体におびえてんじゃねーか。魔物には強者がわかり、お前が歩けば魔物はおびえ逃げ惑うって、お前が言ったんだろが」


 そこまで言ってない!


「六枚の銀貨で、二十と四羽の白い鳥を従えた美幼女は~」


 歌いながら行進し、冒険者ギルドに着いた。

 出迎えたギルドマスターが、いばりくさった私と白い鳥を見比べた。ソードは肩をすくめる。


「サンガ、良かったな。お前の望み通り、インドラが解決したぜ。ただ、インドラが従えてるから、コイツの言うことしか聞かねーだろうな」


 ギルドマスターは困った顔をしたが、諦めたように頭をかいた。


「そううまくはいかねーと覚悟はしてたからな。まだマシな結果だろ」


 思惑通りにいかないことを想定して依頼料金が安かったのかな?

 ギルドマスターは再度私を見ると、苦笑した。


「嬢ちゃんなら、宝飾類を餌におびき寄せると思ったけどよ……想像以上にひどいな」


 え。それで私に頼もうと思ったの?

 おっしゃる通り、キンキラキーンに宝飾類を身につけたけども。

 せっかくなのでギルドマスターに見せびらかしたら「わかったわかった、まぶしいからやめてくれ」って言われてしまった。

 ギルドマスターは、真顔に戻ると私に尋ねる。


「全部捕まえたか?」

「恐らくな。ソードとリョークが捕まえていたのだが、そのうち鳥自らが舞い降りてきたし、私の後をついてくるので私を主認定していると思われる」


 ギルドマスターは鳥を数えて、顔をしかめた。


「二十羽より多いじゃねーか。……ヤロウ、数をごまかしやがったな?」


 あ、前の飼い主が数を少なく申告したってことね。そうすれば逃げ延びた鳥がまた貢いでくれるからかな。

……しかし、それにしては誤魔化した数がみみっちい。単に数え間違いじゃないの?


 まぁ、その辺はどうでもいいや。私の依頼はここまでだ。あとの処理はギルドマスターにお任せするよ。

 私、鳥を飼い馴らしてみたかったんだよねー、さっそく戯れよう……と振り向いたら、ソードとリョークが! 銀貨を投げて、鳥に取ってこさせて、腕にとまらせて(リョークは胴体のどこかにとまらせて)、ご褒美の餌をやる、という、うらやましいことをやっているんだけど!

『取ってこい』が出来る鳥なの!? ずるいー! 私もやりたい!

 そう思って一歩近付いたら、鳥が一気に舞い降りてきて、私の足元にかしこまる。ちょっと待ってよ、望んでいるのと違うんだけど。

 呆然として立ち尽くすと、背後からギルドマスターが諦めたような声音で言った。


「あー、うん。嬢ちゃんが鳥を完全に従えたのがわかったわ。こりゃ、ギルドで飼い馴らすのは無理だな。――そう通達しとくんで、盗みをさせないように訓練しといてくれるか? あと、餌やりよろしくな」


 うわぁあああん! かわいがったら従えたことになった!


          *


 結局。バンデッドバードはイースのギルド職員預りになった。

 だって! 私とは遊んでくれないんだもん! ソードやリョークばっかりずるい! となり、悔しいので「これからこの人に面倒をみてもらいなさい、ただし金品は貢がないように」と言い聞かせたらすぐに従った。

 ソードは肩をすくめて、


「飼い馴らしたら偵察に使えたり、アジトや巣から指定のものを取ってこさせたり出来たかもしんねーけどな。時間がかかりそうだし、ま、いっか」


 と、諦めた。


 私は六枚の銀貨を指で弾く。


「私も『取ってこい』がやりたかった!」



おわり

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