悪役令嬢になんかなりません。私は『普通』の公爵令嬢です!/明。
<緑の感謝祭>
祝うべきその日。私は、着々と準備を進めていた。そう、祭りである。これは、お祭りなのである。
私の名前はロザリンド=ローゼンベルク。とある乙女ゲームの悪役令嬢、ロザリア=ローゼンベルクと日本人である渡瀬凛が融合し、ロザリンドと名を改めた。私達の目的はただ一つ。死亡フラグを回避し、幸せなもふもふスローライフを送ることである。
とはいえ、常にピリピリして死亡フラグ回避のために何かしているかと言われればそんなことはない。
ある日、凛が大好きなゲームの感謝祭をする!! と突然言い出した。それがきっかけで秋の収穫祭にかこつけて個人的に祝うことにしたのだ。なんでも、そろそろ好きなゲームの周年記念なのだとか。日本と同じく三百六十五日があるこの世界、せっかくだから祝いたい! 流石に好きな作品はこの世界にない。だが、遠い異世界から祈ることはできる。
家の裏庭にある使われていない小屋をもらい、そこに手作りの祭壇を作った。簡素な祭壇に手を合わせ、祈りを捧げる。
ゲームの続きが、見たいです(切実に)。続編希望! ディルク様を今度こそ攻略させて‼
マジでどうにかならないだろうか。いつか、日本に行き来できたらいいなと思う。続きが見たいよう。漫画も欲しい。ディルク様を眺めたい。そんな切なる祈りを祭壇に捧げた。
翌日。祭壇が花で飾られていた。
もちろん、私は飾っていない。何故だ。なんとなくだが、緑を司る私の加護精霊であるスイ、アリサ、ゴラちゃんがやってくれたっぽい。すごく綺麗だったから、そのままにしておくことにした。お礼においしいおやつを捧げよう。
翌日、祭壇がさらに綺麗な石で飾られていた。よく見たら宝石だった。誰だ!? 該当者が二名ほど頭をよぎる。風がメインだが全ての属性を司る加護精霊であるハルと、土の加護精霊であるハク。これはおやつでは足りないなぁ……お礼を考えねばなるまい。
そして、そんなことを繰り返していたら、祭壇はなんかもう大変なことになった。なんか、神殿みたいになってしまったのだ。木製の質素な小屋だったのに、いつのまにか石造りの立派な聖堂になってしまっている。
いやもう、マジでどうしてこうなった!? いや、原因はわかっている。精霊さん達とお礼合戦していたら、婚約者と父も参加してしまい、さらには無駄に強力な精霊様である聖獣様と闇様までもが混ざって本気を出された結果が今である。いやもう、本当にどうしようコレ。収穫祭が終わったら撤去する予定だったのに、明らかに無理だ。
「おや、お嬢様は信心深いなぁ。収穫祭だからって、立派な聖堂までこしらえたのかい」
「SO☆RE☆DA!!」
庭師のトムじいさんがいい感じに勘違いしてくれた? それだ! もうそれしかない。他の人に聞かれたら、そう返事しよう! これは収穫祭のための小さな聖堂なのだ!
「??」
トムじいさんは首をかしげていたが、まあお嬢様だからなと納得して去っていった。解せぬ。今年の我が領地は大変豊作だったので、聖堂を造って感謝してもおかしくは……そこで唐突に気がついた。我が領地がやたら豊作だった理由である。
「なんてこった……祝うべき存在を忘れていた!」
とりあえずゲームの祭壇は自室にちんまりしたのを作るとして、聖堂と化してしまった祭壇のコンセプトを変えなくてはなるまい。飾ってくれた加護精霊、父、婚約者であるディルクに方針変更すると伝えて、許可をもらった。
そんな感じで頑張って作った聖堂は、我ながら素敵なものだった。我が領地が大変豊作だった理由……それは世界樹さんである。世界樹とは、大地のマナを吸い上げ、大地に緑の恵みをもたらす樹。それをめぐって戦争になったという話もある。
なんでそんなのがうちにあるかというと……いたずらっ子な緑の加護精霊であるスイのせい。スイのせいなんだ! 私はそれをうっかり成長させていまや立派なツリーハウス……! いや、過去を悔やんでも仕方がないので未来を見据えようではないか。世界樹さんにはとてもお世話になってるわけだし、あのまま鉢植えではかわいそうだったと思う。
そんなわけで、そもそも世界樹さんのおかげで豊作だったわけだし、お礼をかねてお祝いすることにした。世界樹さんの存在は一部にしか教えていないので、身内だけの会になるけど、こういうのは気持ちだと思うんだよね。皆いいんじゃないかって賛成してくれた。
そんなわけで、世界樹さんを連れてきたスイに好みを聞いてみた。
「ロザリンドが用意するものなら、なんでもいいと思うよ」
「なんでもいいが一番困ります」
なんでもいいを信じてはいけない。それを信じて進めば失敗待ったなしである。
他にも、好きな花なんかを聞いて、会場をセッティングしようとして……根本的な問題に直面した。
「スイ……」
「何?」
「世界樹さんって……動けるの?」
スイがちょっと考えてから返答した。
「多分、動けなくは……ない、けど……」
「けど?」
「結構大きくなってるから、根が抜けた所が地盤沈下起こすかも」
「よし! 会場は世界樹さんとこに決定!!」
危うく浅慮な思いつきで大災害を起こすところでしたよ! やっべえええ!! それから、やはり世界樹さん自身にも多少自我があるそうです。世界樹さんの好物ってなんだろう……肥料とか? ううう、難問すぎるんだけど!
そんなわけで、世界樹さんにはお客さんが来るからここでお祝いさせて欲しいとお願いした。多分了承してくれたので、世界樹さんに布でデコレーションを施した。クリスマスツリーのように色とりどりの布でデコレーションしてみたはいいが世界樹さん的にはどうなのだろうか。迷惑ではないかと不安に思ったが、嬉しいらしく花が咲き始めた。花はいい感じのアクセントにもなっている。
「ロザリンド、こんな感じでいいかな?」
私の婚約者、ディルクが頭上から声をかけてきた。とある乙女ゲームのサブキャラだった最推し、ディルク。人間の父と黒豹獣人の母の間に生まれた、素敵なマイダーリン様である。
「うん! お手伝いしてくれてありがとう!」
心優しい彼は、積極的にお手伝いしてくれた。私が木から落ちたら大変だし、スカートで木登りはやめてほしいらしく、デコレーションをほぼ一人でやってくれたのだ。私は下で指示する係。んー、楽チン。
そんな事を考えていたら、ディルクが世界樹さんから飛び降りた。猫のようにしなやかで、美しい。
「ふう」
「ああん、ディルク! 本当にありがとう! お礼にちゅー!」
「にゃにを!? はわわわわ……!?」
ディルクが好きすぎたので飛びついてちゅーをかましてやりました。満足です。
「ロザリンド、まだ作業あるんだから、遊ばない」
「はい」
「ルーいたの!?」
「いたよ」
兄(最初からいた)から絶対零度の微笑みいただきました。言い出しっぺですもの。全力で働かせていただきますとも。
そうして、パーティの準備は整った。屋敷から椅子やテーブルを持ち出して、たくさんの料理を並べる。サボさん達も手伝ってくれた。彼らも参加者なので、ネクタイやリボンで飾っている。マジで可愛い。
参加者は、両親と兄、ディルク、サボさん達と私の加護精霊達である。ディルクの礼服、大変尊い。いやいや、ディルクに魅了されている場合ではなかった。
皆がグラスを持ち、頷いた。それを合図に、私は世界樹さんに話しかける。
「世界樹さん。貴方達のおかげで、我が領地は今年豊作でした。ささやかながら、感謝と祝いの会を設けました。どうか楽しん……でええええ!??」
世界樹さんからなんか水が噴き出してるんですが!? これ大丈夫……じゃないわ!! なんか萎れてきてるううう!?
「ロザリンド! 水! いや、塩水!? それただの水なの!? しょっぱいの!?」
誰よりも早くパニックから立ち直った兄の声で我に返り、水を確認した。
「甘いです!」
「なら、とりあえず水で!!」
「そいやあああああああ!!」
魔法とは、イメージが大事である。
戦闘中であれば、集中の関係なのかそう失敗はないのだが……こういう切羽詰まった状況で慌てて使うと、私はやり過ぎる傾向にあった。
つまり、世界樹さんだけでなく私も盛大に水を被った。近くにいた兄もびしょ濡れである。
「やっちゃったー」
「まあ、世界樹さんが驚いて泣き止んだから、結果オーライかな」
てっきり叱られるかと思ったが、植物ラブな兄的には問題なかったらしい。
「ロザリンド、大丈夫!? ああ、もうハンカチ程度じゃどうにもならない!」
ディルクが慌てて駆け寄って、ハンカチで顔を拭いてくれた。マジ天使!! マイダーリン最高!!
「……早く乾かしてくれる? 寒いんだけど」
「ヘイ! 喜んで!!」
兄から絶対零度の微笑みをいただきました。余計冷えるからやめてください、マジで。服から水を弾き、温風で乾かすこと暫し。微妙にしまらないけど、楽しいからいいかなって思う。
再度、皆でグラスを手に取った。
「「改めて、いつもありがとう! 世界樹さん! それでは、乾杯!!」」
よく晴れた空の下、私と兄の声が響いた。それは、とても楽しいパーティでした。
追伸・兄特製の肥料に、世界樹さんはとっても喜んでいました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます