元ホームセンター店員の異世界生活 ~称号≪DIYマスター≫≪グリーンマスター≫≪ペットマスター≫を駆使して異世界を気儘に生きます~/KK
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観光都市バイゼルでの事件を解決して数日。バカンス目的でこの観光都市を訪れていた私達は、そろそろアバトクス村へと帰ろうという話になった。
これは、その出立の日の前夜の物語である――。
「うわぁ、すごい! どうしたの、これ!?」
ここは、観光都市バイゼルの中心――市街区域から少し離れた土地。
とある事情により街から追い出されていた
その村の一角で、
何か所にも焚火が熾され、その上に設置された鉄板や網の上で焼かれているのは、溢れ返るほどの肉や魚、それに野菜の数々。
肉は街から、魚は近くの海から仕入れて来たのだろう。
加えて野菜は、この村で採れたものだ。
「あんた達には、随分と世話になったからな」
その盛大な光景を前に目を丸めている私達に、
「到底返し切れる恩じゃないが、せめて、勝利のお祝いと、あんた達への感謝の気持ちを込めて、明日の出立の時間まで存分にパーッと盛り上がってくれ」
「うひょー、酒だー!」
「食い物もいっぱいあるぜ!」
盛り上がる
彼等は、この村の復興のためにアバトクス村からやって来てもらった者達である。
「本当にいいの?」
私は
「良いって事よ。むしろ、俺達のためにも、やらせてくれ」
「あんた達は、もう明日にはいなくなっちまうからな」
「本当は寂しい気持ちでいっぱいだけどよ、しみったれた顔でお別れはしたくないだろ?」
「だから、最後は思う存分楽しんでいってくれよ」
「みんな……」
「マコ、すごいね!」
「早く早く」
双子のマウルとメアラが、私の手を引く。
では、お言葉に甘えて――
早速、お酒の注がれたジョッキがぶつけ合わされ、宴会が開始する。
宴は各人の思うがまま、食べるも飲むも自由な感じとなっている。
「「おいしい!」」
「だろう! なんたって俺が指導して作った野菜達だからな!」
バーベキューをもぐもぐと食べるマウルとメアラ。
その横で、
ウーガは野菜作りに長けた
「お前一人の力じゃねぇだろ」
「俺達が頑張って畑を作ったからだ」
「
「なんだよお前等!」
発言を聞いた仲間の
「……あの……」
と、そこにやって来たのは、頭から長い耳を生やした、
ルナトさんとムーである。
「……よろしいのでしょうか、私達も折角の催しに参加させていただいて」
ルナトさんはSランク冒険者であり、その強靭な脚力を活かした肉弾戦を得意とする女性である。
しかし、普段の彼女はとても寡黙で大人しく、礼儀正しい淑女である。
そんなルナトさんが、おずおずとウーガに聞く。
「なーに言ってんだ。この村の復興の際には、ムーにも手助けしてもらったしな。それに、あんたも今回の勝利の立役者の一人だぜ」
ルナトの肩をぽんぽんと叩くウーガ。
「聞いたぜ。あの悪魔の洗脳を解くために、自分で自分の顔を傷つけたんだろ?」
そこで、ウーガがルナトの顔を見る。
「折角、綺麗な顔してんだ。元に戻って良かったぜ」
「……ありがとうございます」
ウーガの言葉に、ルナトさんは照れたように微笑む。
「何いちゃついてんだ、ウーガのくせに!」
しかし、ラブコメの波動を感じ取ったラム達に八つ当たりされてしまった。
『もぐもぐ、肉だけじゃなく魚もいけるな』
一方。
脂がたっぷり乗ったバイゼル鮭に頭から食い付いているのは、《神狼》のエンティア。
『くくくっ……肉を食らう悦びを忘れたとは、神狼の名が泣くぞ、白毛玉』
『そう言う貴様も美味そうに食っているではないか、この黒埃』
その横で、
皆、用意されたご馳走に舌鼓を打っている様子だ。
「マコ、見て!」
そこで、一人の少女が私の前にやって来る。
彼女はレイレ。
この国の王都で出会い、ひょんな事から私の弟子になった、大商家のご令嬢である。
見ると、彼女が手に持つ皿の上には、綺麗に盛り付けされた刺身盛が。
「うわぁ、すごい!」
「ふふふ、私とブッシの合わせ技よ」
レイレは魔力を持っており、その力を駆使して水分を凍結できる魔法が使える。
その力を用い、生魚を冷凍することによって、この地で刺身を生み出すことに成功したのだ。
そして、
更にガラスの芸術家である
「早速、マコにも味見してもらおうと思ってね」
「いいの!? じゃあ、ありがたく頂戴いたします」
私は、レイレの持ってきた刺身を口に運ぶ。
んー、最高!
ぷりぷりで身の引き締まった刺身は、歯応えがありとてもおいしい。
――そんな感じで、楽しい夜は過ぎていく。
未だ衰えることなく盛り上がり続けるどんちゃん騒ぎ。
そんな彼等の姿を見ながら、私は「ふあー」と欠伸を発した。
「眠いのか?」
そこに、一人の男性がやって来る。
長身で引き締まった体格をした人物。
彼は
私がこの世界にやって来た当初の頃に出会った人物で、もう結構長い付き合いである。
「あ、ガライ。ちょっと、眠くなっちゃって」
「よかったら、温泉にでも入ってきたらどうだ」
ガライは、森の中に作られた浴場の方を指さしながら言う。
「今なら人もあまりいない。堪能するにはいい時間だ」
◇◇◇
何気に、この街で温泉を掘り起こしたり、浴場を作ったりはしてたけど、温泉自体に入るのは初めてかもしれない。
というわけで、ガライの提案に乗っかり、私は第二アバトクス村横の、森の中に作られた浴場の一つに向かう。
源泉かけ流しで、自然の中に作られた景観抜群の温泉だ。
「はーぁ……」
白濁のお湯に体を浸すと、自然に溜息が出てしまった。
正に極楽気分。
「まさか、異世界でこんな純日本テイストな気分を堪能できるとはねぇ」
お湯に体を浸し、ゆっくり体を休める私。
すると。
『こりゃー!』
どこからか、聞き慣れた鳴き声が聞こえて来た。
「あ、チビちゃん」
『こりゃ! こりゃ!』
見ると、ウリ坊のチビちゃんがぱちゃぱちゃと湯船で泳いでいる。
いや、チビちゃんだけではない。
『ぽんぽこー!』
『きゅーん!』
『ぷー』
マメ狸のポコタに、小鹿のバンビちゃんに、子豚ちゃん。
気付くと、動物の子供達も湯舟で泳ぎ回っている。
「第二アバトクス村の温泉は、動物達にも大人気だねぇ」
◇◇◇
「うへぇ……俺はもうダメだ……」
「情けないぞ、バゴズ!」
「誰かガライに勝てる奴はいないのかよ!?」
「ようし、次は俺が挑戦だ!」
さて、温泉を堪能し終えた私が宴会場へ戻ってくると、まだ宴は継続中のようだった。
「ガライ、やっぱりお酒が強いんだ」
前にも似たようなことがあったな。
私は滅茶苦茶弱いので、お酒は遠慮しておくけど。
(……しかし)
そこで私は、そんな彼等の姿をぼんやりと、遠目に見詰める。
この街はここからが大変だ。
破壊された街の復興もあるし、捕らえた悪魔の正体や目的も未だ明確にはわからない。
偏見が解消されたとは言え、まだ色々と遺恨が残っているだろう。
不安も多いはずだ。
……けど、幸せそうな彼等の今の姿を見ていると。
「……うん、守れてよかった」
そう、素直に思う私だった。
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