目覚めたら最強装備と宇宙船持ちだったので、一戸建て目指して傭兵として自由に生きたい/リュート


  <キャプテン・ヒロ一味と建国記念日>



 ブラド星系でブラックロータスを手に入れ、整備士姉妹をクルーとして迎えてイズルークス星系へと向かっているある日のことである。


「ん?」


 朝の運動とシャワーを終え、いつものようにうちのシェフこと自動調理器のテツジン・フィフスに朝食を頼んだのだが、いつもよりもなんだか内容が豪華であるように思える。朝から人造肉のステーキがメインの上、デザートまでついているのは珍しい。


「おー、おはよーさん」

「おはようございます。あれ? 朝から豪勢ですね?」


 テツジンから出てきた食事のプレートを手に首を傾げていると、ちょうど良いタイミングで整備士姉妹が食堂に入ってきた。結局のところブラックロータスの方がクリシュナよりも生活空間が広くて快適なので、俺を含めてクリシュナのクルー達はブラックロータスに生活の場を移している。

 必然、こうして整備士姉妹と生活の場が重なることが多くなるわけだ。


「おはよう。別に何も特別メニューを頼んだわけじゃないんだけど、朝から豪勢なメニューなんだよな。こんなのは初めてな気がするが」

「へー? なんやろな?」


 そう言いながらティーナもテツジンに朝食を注文する。すると、俺と同じようにやはり朝から豪勢な内容のメニューであった。


「朝からビールまでついてるんやけど」

「朝から飲酒か? まぁ今日は移動だけだし二人の仕事も無いと思うけど」

「まぁこれくらいうちらにしてみたら水と変わらんけども」

「肝臓が強い」


 などとティーナと話しながら席に付き、朝食を食べ始める。そうすると、少し遅れてウィスカも食事の載ったプレートを手に席へと歩いてきた。


「お姉ちゃん、ヒロさん。そういえば今日は建国記念日だよ」

「建国記念日?」

「おー、建国記念日やったか。なるほどなー。建国記念日にも対応してるとか凄いなテツジン・フィフス」

「ね、凄いね」


 ティーナとウィスカはテンションが上がっているようだが、俺としてはなんじゃらほいという感じである。いや、まぁ建国記念日ってワードだけで大体は察したけれどもね。


「つまり今日はグラッカン帝国の建国記念日で、それで食事が豪華になっていると」

「せやで。ってか兄さんテンション低いなぁ。建国記念日やで? 建国記念日」

「俺この国の人間じゃないからピンとこないんだよ」


 そう言いながらソースのかかっている人造肉のステーキを口に運ぶ。うん、程よい固さの肉質がとても良い。俺、肉は柔らかすぎるのよりもこれくらい歯応えがあったほうが肉を食った感じがして好きなんだよね。


「別に然程特別なことをするわけじゃないんですよ。普段よりも少しだけ豪華なものを食べたり、飲んだりするくらいですね。帝都やその近傍の星系では盛大なお祭りが開催されるそうですけど」

「ほーん」


 などと話していると、シャワーを浴び終えてきたばかりらしいミミとエルマも食堂に姿を現した。二人ともかなりラフな格好だ。昨晩ナニも致していなかったらついつい反応してしまっていたかも知れない。


「おはよう。あら、朝から豪勢ね?」

「建国記念日の特別メニューじゃないかってウィスカが言ってるぞ」

「ああ、そういえば今日は建国記念日か。どこかのコロニーに寄ってみる? お祭りが開催されてるかもしれないわよ?」

「ふむ。まぁスケジュールには多少余裕があるから、それもアリだな」


 今はブラド星系からイズルークス星系への輸送任務を請け負っている状態だ。なんでもイズルークス星系で猛威を奮っている結晶生命体に対抗するための新型砲弾の試作品であるらしい。ただ、言った通りスケジュールには多少余裕があるから、少しくらい寄り道をしても問題はない。

 場所が場所だけに何かしらのトラブルに見舞われる可能性もゼロではないから、寄ったコロニーで今一度しっかりと補給しておくのも悪くない考えだ。


「建国記念日のお祭りですかー……やっぱりコロニーによって結構違うんですかね?」


 いつもの甘いお粥のようなものを口に運びながらミミが首を傾げる。ミミのメニューには人造肉のステーキはついていないようだが、デザートが二種もついているようだ。


「そうね。ただいつもより少し良いものを飲み食いするだけのところもあるし、何か催し物を行う場合もあるわ。基本的に帝都に近ければ近いほど、そして貴族の影響力が大きければ大きいほど盛大にやってる感じね」


 そう言ってエルマが持ってきたプレートの上にはでーんと分厚い人造肉のステーキと山盛りのフライドポテトのようなものが載っていた。相変わらず朝からパワフルな食事内容だな。


「なるほど。まぁ寄ってみるか」


 俺の想像するお祭りといえば神社の縁日とか用意された会場で団体で踊ったりするようなやつなんだが、この世界のお祭りってのはどういうものなのかね? お祭りってのは元を正せば神事や宗教行事である事が多いというのが俺の印象だが、この世界ではあまり宗教の話を聞いた覚えがないんだよな。

 ブラックロータスの休憩スペースに設置されているホロディスプレイを使ってコックピットのメイに連絡し、次に到着する星系の交易ステーションに寄ってもらうことにした。


 ☆★☆


「コロニーへのドッキングリクエストを送ったら、とても嫌そうに応答されました」


 ブラックロータスのタラップでメイを待っていたのだが、現れるなりメイがしょんぼりした様子でそう報告してきた。多分今日の港湾管理局の局員は祝日返上で働くことになった運の悪い人だったんだろうな。


「どんまい……今日は一緒にコロニーに降りて見物に行こうな」

「はい」


 しょんぼりとした雰囲気が多少は和らいだようで何よりだ。ブラックロータスは無人ということになるが、そもそもセキュリティキーを持たない人間がそう簡単に押し入れるものではないし、ハッチや船殻をブリーチングするのには最低でもプラズマグレネード級の熱量が要る。離れていてもメイが艦の状況を把握できるようだし、なんなら低出力でシールドを起動しておけば近づくことすらできない。安全対策は完璧だ。


「いつも思うんやけど、兄さんってこの手の安全対策が過剰過ぎひん?」

「こんなもんはやりすぎなくらいで丁度良いんだよ」


 肩を竦めてそう返事をしながら再度ロックとシールド展開の確認をする。

 俺はこの世界の治安というものを信用していない。何せコロニーに足を踏み入れたその日に路地裏に引きずり込まれそうになっているミミを見たからな。船にまで手を出してくるようなやつはそういないとは思うが、それも絶対ではない以上、用心するに越したことはない。


「セキュリティ意識ガバガバよりも良いと思うけど」

「それはそう」


 妹のウィスカも話に加わって――というか二人で何か議論を始めた。技術的な話みたいなので放っておこう。一度始まると長いし。


「ミミ」

「はーい」


 俺の呼びかけですべてを察したミミが議論を始めた整備士姉妹の手を両手で片方ずつ手を繋いで歩き始める。ミミを間に挟んで何やら難しげな議論をしている二人だが、アレでミミよりも歳上である。というか俺とほぼ同年齢(タメ)である。見失って迷子にならないようにおててを繋がれているということに気付いたらどんな顔をするだろうか?


「では私も」


 そう言いながらメイが俺の手を取る。


「俺は迷子にならないが?」

「私が迷子になるかもしれません」

「なるほどね?」


 メイなんて俺以上に迷子になんてならなさそうだが、本人がそう言うならそうかもしれないな。

 そうなるともう片方の手が余っているのもなんなので、エルマに差し出しておく。


「……何よ?」

「おててつなごうぜ」

「……そこまで言うなら仕方ないわね」


 いかにも仕方なくという風を装っているが、ピコピコと上下に動いている赤い耳で全て筒抜けである。エルマは可愛いなぁ。指摘するとアームロックとかで俺の腕を痛めつけてくるだろうから、絶対に指摘しないけど。


「それにしても、あんまり祭り感は無いな」

「そうね。でもコロニーの規模の割に出歩いている人は多いんじゃないかしら」


 赤くなった耳に空いている左手を当てながらエルマが辺りを見回す。

 今、俺達が足を踏み入れているのは外からの来訪者が足を踏み入れることができる第三区画だ。

 第一区画は管理者級の所謂『お偉いさん』が住んでいる区画で、第二区画は一定以上の地位或いは特異な技術を修めた技術者が住んでいる区画とされている。つまり、ここまでが『大変に治安の良い』区画で、俺達が足を踏み入れている第三区画は単純労働者が住んでいる区画だ。


「なんとなくですけど、ターメーンプライムコロニーより上品な感じがします」

「そうか? そう言われればそのような気もするな」


 ターメーンプライムコロニーの第三区画はスラムとまではいかないが、あまり治安の良さそうな雰囲気ではなかった。それに比べるとこのコロニーの第三区画は町並みも綺麗だし、仕事にあぶれた無法者のような連中の姿も見えない。


「ここは裕福なコロニーみたいね。統治してる貴族か、管理者が優秀なのかもしれないわ」

「なるほどなぁ」


 ターメーンプライムコロニーの第三区画で管を巻いていたような連中は仕事にあぶれて悪行に手を染めていたのかね? まぁそうだったとしてもミミみたいな可愛い女の子を食い物にするのは論外だし、同情する気は起きないけど。

 え? ミミが可愛い女の子じゃなかったらどうしてたのかって? そりゃ俺と同い年かそれ以上の歳の男だったら助けなかっただろうな。そんなもん男なら自分でどうにかしろ。まぁ、年端も行かない少年だったら助けていたかもしれない。

 もしエルマが女じゃなく男だったら? うーん、それは難しいな。エルマは右も左もわからない俺に親身に接してくれてたし、もし男だったとしても助けていたかも知れないな。実際、俺はエルマが勘違いで身を差し出してきたからそのまま美味しく頂いただけだし。

 つまり彼女が勘違いで身を差し出してくる前には単純に人柄と実力、知識、それに繋いだ縁だけを意識してクリシュナのクルーとして誘ったわけだから、意外とエルマの性別が男だったとしても今と同じように行動を共にしていたかも知れないな。


「何よ? 私のことをジッと見たりして」

「いや、ちょっとした考え事。本当に大したことじゃない」


 ここでもしエルマが男だったら、なんて話をしたらエルマの機嫌を損ねることになるだろう。そう言うことを考えずになんでかんでも口にするほど俺は間抜けではない。


「ふーん? まぁ良いけど」


 痛い痛い、握る手に必要以上の力を込めるんじゃない。細くて可憐な見た目に反して本当にフィジカルが強いな、お前は。


「ヒロ様ヒロ様、あっちで何か人が集まってるみたいですよ」

「おお、何かわからんが行ってみるか」


 ティーナとウィスカの二人と手を繋いだままミミが人の集まっている方に歩き始めたので、俺もメイとエルマの二人と手を繋いだままその後を追う。なんか男どもの視線が厳しい気がするが目を合わせないようにしておいた。ふふ、羨ましかろう?


「なんだこりゃ?」

「射撃大会、でしょうか?」


 なんだか人が集まっている方に歩を進めてみると、軍主催のレーザーガン、レーザーライフルの低出力射撃を使った射的ゲームのようなものが執り行われていた。その他にもあっちの奥の方では傭兵ギルド主催の航宙艦シミュレーターを使った操艦体験コーナーが開催されているようだ。祭りなんだか隠れた人材の発掘なんだかよくわからない催しものだが、意外と人気があるようで参加者は実に楽しそうである。

 その他には公共スペースが結構な広さで開放されて、そこに各々好きなものを持ち込んで飲み食いしたり、広場で音楽を流して踊ったりしているようだ。割と自由だな、建国記念祭。


「俺のイメージする祭りとはちょっと趣が違うけど、住人には好評みたいだな」

「光学兵器に触れるのも、シミュレーターに触れるのも、コロニーの住民にとっては十分に非日常的な体験です。このような士気向上やガス抜きを目的とした催しにはもってこいでしょう」

「なるほどなぁ。俺達にとっての日常は普通の人の非日常か」

「そういうことなんでしょうね。ミミなんて毎日が刺激的なんじゃないかしら」

「俺もそうだけどな」

「そう? なんだかとても自然体に見えるけどね、ヒロは」

「そんなことないぞ。毎日が刺激的だ」


 今だってメイとエルマで両手に花状態だしな。こんな美女に囲まれた毎日が刺激的じゃない筈がない。傭兵としての生活も楽しいし。


「兄さーん、なんかこっちで食いもん売ってるみたいやでー」

「おー、今行くわー」


 ティーナの大声に応え、メイとエルマの手を引いて歩き始める。

 ま、何にせよもう暫くはこの自由気ままな傭兵生活を楽しもう。何れは腰を落ち着かせるのも良いかも知れないけど、それはまだ暫く後の話だな。

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