魔王になったので、ダンジョン造って人外娘とほのぼのする/流優


  <たこ焼きパーティー、略してたこパ>



「――パーティーしようぜ!」


 俺が高らかにそう言うと、レフィはチラッとこちらを見た後、何事もなかったかのように手元の漫画を再度読み始める。


「…………」

「…………」

「……パーティーしようぜ!」

「ぬわぁっ、な、何じゃ!?」


 ぐわし、と顔を近付けて同じ文言を叫ぶと、動揺したのか、開いていた漫画のページからビリッという音が聞こえる。


「うわっ、お前、やめろよ。物は大事に扱えよ」

「誰のせいじゃと思うておる! 全く……それで優希ユキ、何じゃ、突然」

「ほら、今ってパーティーの季節だろ? だから、季節ものとして、パーティーしたいと思って」

「そうか。とりあずお主が思い付きで話しておるというのは、よくわかった。何じゃぱーてぃーの季節って。そんなもの、個々人によりけりじゃろうが」

「御託を並べるのはやめたまえ! 俺は、お前が実はパーティーをしたいって思ってることを、見抜いてるんだぜ? さぁ、共に楽しもうではないか!」


 レフィは、一つため息を吐くと、パタリと呼んでいた漫画を閉じる。


「……これは、儂が何を言うても止まらぬぱたーんじゃな。まあ、別に構わぬが。で、どうするんじゃ? ぱーてぃーと言う以上は、儂とお主の二人でやる訳ではないんじゃろう?」

「おう、勿論だ。具体的には隣のイルーナ達三人姉妹と……ネルも呼ぶか。アイツも、三人と面識があったはずだし。あと、イルーナの友達の子らも呼んであげるか?」


 我がボロアパートの隣に住む、結構な付き合いがある三人姉妹、レイラ、リューイン、イルーナ。

 同級生で、それなりに仲の良いネル。

 イルーナの友人らしく、その関係で俺も親しくなった、シィ、エンと、三人姉妹であるレイ、ルイ、ローという、特殊な種族の幼女軍団。

 ……言った後で我ながら思ったが、友人を思い浮かべてあがる名前が、全て女性陣というのはどうなんだろうな。


「ふむ、アレじゃな。ものの見事に女ばかりじゃな。お主、もしや、同性の友人が少ないのか?」

「……言うな。今、自分でも思った」


 ど、同性の友人も……いる。

 うん、いる。決して、俺に友人が少ないとか、そんな事実はない。はず。


「……あー、何じゃ。その、悩みがあれば聞くぞ? 儂は、お主の同居人じゃからな。他者には言い難いことでも……儂になら、言えるのではないか?」

「割とマジの心配顔で言うのはやめてください。大丈夫です、ちゃんと男の友人もいるので」


 俺は、オホンと一つ咳払いをしてから、言葉を続ける。


「それより! そういう訳だから、何かパーティーのアイデアを言いたまえ、レフィプレゼンターよ」

「優希、儂は最近、無茶ぶりという日本語を学んだのじゃが、今のお主はそれに当てはまると思わんか?」

「ほう、レフィさんはまた一つ賢くなりましたね。偉い! 賢い!」

「よし、喧嘩を売っておるのじゃな。受けて立とう」

「フハハハ、いいだろう、お前の負け犬史に、更なる一ページを加えてやろうではないか!」

「抜かせ、それはお主の史に刻むが良いわ! 儂が新たに、大乱闘すまっしゅしすたーずで学んだ技、三連こんぼを食らってな!」

「! それは楽しみだ! 付け焼刃で、果たして俺のガロンの重量級攻撃を突破出来るのかどうか、見物だぜ!」



 

 ――そうして会話が脱線しまくり、一通り勝負を終えたところで、話は元に戻る。


「んで……結局、何が良いと思う?」

「……無難に、『たこパ』でもすれば良いのではないか? 女ばかりならば、焼肉とかよりは、そちらの方が喜ぶじゃろう」


 彼女の口から出た言葉を聞き、俺は真顔でレフィの顔を見る。


「……何じゃ」

「いや、お前の口からたこパなんて言葉が出て来るとは思わなくて」


 たこ焼きパーティー。略してたこパ。

 ほぼ引き籠りのコイツが、まさかたこパなんて言い出すとは。


「……てれびでやっていたのを見ただけじゃ。印象に残ってたでな」

「なるほど。つまり、やっぱりお前も、実はパーティーがしたかったと」

「いや、別にそういう訳では……まあ良いわ、そういうことで」

「流石俺の同居人! 俺の求めるものがわかってるな!」

「何でお主、今日はそんなにてんしょんが高いんじゃ?」


 わからん。

 そんなこんなで、俺の思い付きは形になっていく――。



       ◇   ◇   ◇



 地球が『異世界』と繋がり、異世界人が往来を歩くという光景が、非日常から日常へと変化してから、すでに何年も経っている。

 魔法という技術が公にされたことで、未だ熱中は冷めやらぬものの、人が空に浮かんでいたり、杖の先から火の玉を飛ばしていたり、なんか身体からビーム出してたりしても、「あぁ、そういう魔法があるんだな」と見られるだけで済むようになっているのである。

 いや、まあ、ビーム出してるヤツに遭遇したことはまだないのだが。

 それだけ、異世界の存在は人々に受け入れられ、他種族が地球にいても特に疑問を持たれないようにはなっているのだが――それでも、これだけ数多の種族が揃っているのは、他では見られない光景だろう。


「リュー、それ、焼け具合から見て、多分中はまだ生焼けですよー?」

「えっ、ホントっすか? う、うーん……レイラはよくわかるっすね。ウチ、焼き加減、全然見極めらんないっすよ」

「あはは、気持ちはわかるよ、リュー。たこ焼きもそうだけど、お肉とかも、十分に焼いたと思ったら、意外と裏が焼けてなかったり、まだ赤っぽいと思ったら、意外と焼けてたりするんだよね」

「わかるっす。それで、焼き過ぎて焦がしちゃうところまでがセットなんすよ……」

「リューが黒焦げにしたお肉、私はどれくらい食べたか覚えてませんねー」

「うっ……わ、悪いとは、思ってるんすよ、ホントに」

「リューお姉ちゃん、ちょっと不器用さんなところ、あるからね~」

「カカ、童女に言われておるぞ、リュー」

「れ、レフィは、不器用さに関して言えば、ウチと大差ないじゃないっすか!」

「儂の場合は、同居人である優希が大体用意するからの! 問題ない」

「何を偉そうに言ってやがるんだ、お前は」

「うーん、おいしそうなもの、いっぱいだヨ! ユキおにいちゃん、よんでくれテ、ありがとう!」

「……感謝。レイとルイとローも、嬉しいって言ってる」


 スライム幼女シィと、和服の幼女エンの言葉の後に、半透明な身体をしている幽霊幼女レイ、ルイ、ローの三人が、「ありがとー!」と言いたげに宙をふよふよと飛び回る。


「おう、楽しんでくれてるなら何よりだ。いっぱい作るから、いっぱい食べてくれよ。あ、この辺りのが、レイス娘達用の、魔力込み込みたこ焼きだからな」


 レイス娘達は、身体が半透明なので、俺達のような物質的な食事は取らない。

 その代わり、魔法が伝わったことで同時に伝わっている力、『魔力』は食すことが出来るので、それを利用した『魔力食材』で作った料理ならば、食べられるのだ。

 一般的に売られているものの、特殊な食材だから多少割高なんだけどな。しょうがない。

 ――ここにいる種族は、龍、ウォーウルフ、羊角の一族、吸血鬼、スライム、魔剣、レイス、そして人間の、計八種族である。

 スライムとか、魔剣とか、もう何ぞやって感じではあるが、実際そういう種族なのだ。

 レイスであるレイ、ルイ、ローとか、一昔前なら、普通にただの幽霊だしな。

 彼女らがただのイタズラ好きな子供だと、今の俺は知っているが、初めて出会った時は正直ビビッたものである。

 この中で、何の変哲もない普通の人間なのは、俺とネルだけだ。しかもネルの方は、異世界出身の人間だし。

 イルーナは、外見は人間と差異が一切ないものの、種族は吸血鬼である。

 まあ吸血鬼と言っても、他の生物の血を直接接種しないと、必要な栄養が生成出来ない特殊体質の種族というだけで、基本的には俺らと変わらない。

 欲する血は微量で、食事も人間と同じものを三食食べるし、日光が弱点だったり流水が渡れなかったりする訳でもないのだ。

 ちなみに、吸血鬼用の輸血ジュースなんかも、今の時代スーパーで売られていたりする。

 誰でもが買える訳ではなく、それが必要な種族なのだと証明出来る身分証等が必要になるそうだが、それでも、普通に売られているのだ。

 魔力食材も合わせ、何ともまあ、混沌とした世界になったものである。

 と、そんなことを思っていると、隣のレフィがコソッと俺に耳打ちする。


「……このボロ部屋でも、意外と人が入れるものじゃな」

「あぁ、我が家が意外と広いってのを、こういう時に思いだすよ」


 レフィの言葉に、俺は笑ってそう答える。

 ここは、愛すべき我がボロアパートの、俺の部屋だ。

 これだけの人数がいるが、そんなに狭苦しさは感じず、まだゆっくり出来るだけのスペースがある。

 我が家がボロなのは間違いなく、家賃もそれに見合う安さではあるのだが、実は部屋は結構広いのだ。

 田舎だからな、土地が余っているのだろう。

 そして、この部屋がアパートの一階角部屋であり、隣がイルーナ達の部屋で現在無人、上は単純に誰も住んでおらず無人なので、騒音に関しても今は気にする必要がないのである。

 ボロでも、ここは結構良い物件だろう。


「そうそう、お前ら、たこ以外も用意してるからな。チーズとか、ウィンナーとかで作るたこ焼きも美味しいらしいぞ。何か入れたいのがあったら言ってくれ」


 そう言いながら、俺がたこ焼きマシンでたこ焼きを作っていると、まずイルーナがピッと手を挙げる。


「はい、おにいちゃん! わたしは、チョコ入りたこ焼きがいいです!」

「チョコー!? そういうのもありなのネ! ならシィは、マシュマロさん!」

「……エンは、お肉がいい。お肉」

「あー、シィ、マシュマロに関して言うと、たこ焼きに入れず、そのまま焼いた方が美味しいと思うぞ……?」

「そーお? じゃあ、マシュマロやいて~」


 ニコニコ顔のシィに俺は、苦笑を溢す。可愛いヤツめ。


「オーケーオーケー。じゃあこっちのゾーンは、甘いものゾーンな。肉とかはこっち」

「……たこの入っていないたこ焼きは、果たしてたこ焼きと言って良いのじゃろうか」

「定義からは外れていますよねー。派生料理であると考えれば、まあたこ焼きと評して良いのかもしれませんがー」

「お前らに、良いことを教えてやろう! 美味しければ正義! 美味しければ、全ては些末事であり、許されるのである……」

「そうだよ、おねえちゃん達! 細かいことは、いいの! おいしいは、せーぎなの!」

「しょくがみたされれば、せかいは、へいわなんだヨ!」

「……ん。世界征服は、胃袋を掴めば可能。食は、全てを制覇する」


 ハフハフと息を吐いて冷まし、幸せそうにたこ焼きを食べる幼女達の姿を見て、ネルが楽しそうに笑う。


「フフ、そうだね。よし、僕はチーズをお願い! 背徳的なチーズたこ焼きが食べたいです!」

「あっ、じゃあウチは、チーズとウィンナーの両方をお願いしたいっす! せっかくっすから、贅沢にいきたいっすね、贅沢に!」

「むむっ、ずるいぞ! では儂は、たこと焼肉を両方入れた、すーぱーたこ焼きを所望する!」

「いいけど、お前それ、多分デカくて食い辛くなるぞ?」

「贅沢に行くのじゃからな! これくらいはせんと」

「ユキさん、こちら側は、私がやりましょうー」

「なら、おにーさん、僕はこっちのゾーンをやるよ」

「おう、悪いな、助かるよ」


 この面々の中で、女子力が高めなレイラとネルが俺の手伝いを始め、それを見たちょっと女子力低めなリューが、焦ったような声を漏らす。


「な、ならウチも手伝いを……」

「リューよ、諦めよ。自身が出来ることと出来ないことを把握するのは大事なことじゃぞ。儂らは大人しく、食べるのみよ」

「ありがとな、リュー。楽しんでくれりゃあ、それでこっちは嬉しいよ。んで、レフィよ。逆にお前はもうちょっと、手伝うということを覚えても良いと思うんだが」

「お主と共に、準備をしたじゃろう? それ以上は、儂の手には余ることじゃの!」

「何でお前はさっきから自信満々なんだ。ほら、主催者側として、もっと俺を手伝いたまえ、我が同居人よ。具体的には食材を切りたまえ」

「しょうがないのう。お主が頼りにして止まない、頼れる相方が手伝うてやろうではないか」

「……斬ることなら、エンも手伝う」

「む、そうか、童女よ。助かるぞ」

「エンちゃんはネ~、マケンさんだから、きることがうまいんだよ!」

「そうなんだよ、おにいちゃん! エンちゃん、りんごでウサギさん、出来るんだよ!」

「へぇ~! そりゃすごいな」

「……エッヘン。エンは、魔剣だから」


 無表情ながらも、わかりやすく胸を張るエン。

 全然関係ないのに、それを真似してレイス娘達が隣で胸を張っている。

 俺達は、一切会話が途切れることもなく、そのまま延々とワイワイ騒ぎ続け――。



       ◇   ◇   ◇



 玉座にて、うたた寝していた俺は、目を覚ました。


「……たこパか」


 いいな。

 久しぶりに、ガッツリたこ焼きが食いてぇ。

 たこパだ、たこパをしよう。

 思い立ったが吉日。


「レフィ! レフィー!」

「む……なんじゃ、急に。お主昼寝しておったのではないのか?」

「今起きた! たこパするから準備を手伝いたまえ!」

「たこ……何じゃて?」

「たこパだ、たこパ! たこ焼きパーティー! レイラー! 今日の晩飯は、たこ焼きにしよう! 生地の用意手伝ってくれ!」

「たこ焼き、ですかー? わかりました、では準備しましょうー」

「大変じゃな、お主も。此奴の思い付きに巻き込まれて」

「うふふ、いつものことですからー」


 こちらの世界での思い付きもまた、皆の協力によって、形になっていく。

 そしてそれが、楽しいものになることは、すでにわかっているのだ。

 さあ、楽しいことがもっと楽しくなるよう、しっかり準備しないとな!

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