21.お昼寝の後に⑨

 私とリルフは、サンドウィッチを持って、エルッサさんの元に帰って来ていた。

 リルフを抱きしめていたため、結構時間が経ってしまった。まずは、それを謝らなければならないだろう。


「エルッサさん、ごめんなさい。少し時間がかかってしまいました」

「別に構わないわよ。作ってもらっているんだから、文句なんて言わないよ」


 エルッサさんは、特に怒っていなかった。それは、わかっていたことである。彼女は、このくらいで怒る人ではないのだ。

 怒る人ではないから、余計に申し訳なく思ってしまう。いっそのこと、怒ってくれた方が、こちらとしては楽なのだ。


「サンドウィッチ……そういえば、リルフは草食なの? 肉食なの?」

「そのことについては、この子がどのような生物かわからないので、それもわからないということになりました」

「わからない? それじゃあ……」

「ええ、この子の本能にかけて、食べてもらうしかないと思います。結局、どうすることもできない訳ですから……」

「そうかい……まあ、仕方ないことね」


 そこで、エルッサさんもリルフのことを心配してくれた。やはり、そこは気になる所なのだろう。

 動物には食べられない物がある。そういうものをリルフに食べさせれば、大変なことになるかもしれない。


「大丈夫だよ、二人とも。よくわからないけど、ボクは大丈夫だと思う」

「リルフ?」

「……わかるんだ。喋れていることとか、パンをパンだと知っているように、ボクはこれが食べられる物だと思っている」

「リルフ……」


 リルフの言葉を聞いて、私は少し複雑な気持ちになった。先程まで、この子はそのことで悩んでいた。それなのに、そんなことを言われると、なんだか胸が痛くなってくる。


「そんな顔をしないで、お母さん。これは、いいことだよ。ボクの体に刻まれたこの記憶が有益に働くのなら、それは利用すればいい。お母さんが抱きしめてくれたから、ボクはそういう風に思うようになったんだ」

「……そっか」


 リルフの表情を見て、私は大丈夫だと思った。

 きっと、先程の出来事でこの子の中ではある程度の整理ができたのだろう。それがなんだか嬉しくて、私の胸が今度は温かくなってきた。


「……何かあったみたいだね?」

「あ、エルッサさん、すみません。実は……」

「別に何も言わなくていいよ。あなた達で整理できたというなら、これ以上私が言うことはないもの」

「……ありがとうございます、エルッサさん」


 エルッサさんは、何も聞かなかった。その気遣いが、今はとてもありがたい。

 本人が折り合いをつけていても、あのことをもう一度話すのは気が引けた。それを説明しなくていいというのは、とても助かることである。

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