12.刷り込みで母親に?⑧

「まあ、そんなに難しく考え過ぎないことね。例えば、誰かからあやかるとかでもいいのだから」

「あやかる?」

「親の名前を子供に受け継がせるというのは、よくあることよ。例えば、あなたのお母さんはリフェイナで、あなたの名前はフェリナでしょう? あなたのお母さんにあやかって、あなたの名前はつけられたという訳ね」

「なるほど、確かにそうですね……」


 そこで、エルッサさんがいいことを教えてくれた。確かに、親からあやかるというのは、よくあることである。

 それなら、この子の名前は私からあやかるということになるのだろう。自分でそれをするのは少し恥ずかしい気もがするが、お母さんにあやかると思えば、それも納得できる。

 そう考えると、一つの名前が思いついた。この子の名前は、きっとそれでいいだろう。


「それじゃあ、この子の名前は、リルフということにしよう」

「リルフ? なんだか、フェリナを反対から読んだような名前ね」

「うん、私やお母さんや、ここにいる皆の名前からあやかったんだ。皆の名前からあやかったんだから、きっとご利益があるよね?」

「まあ、そうね」

「いいかな? リルフ?」

「ピィ!」


 この子の名前は、リルフということにした。皆の名前を合わせた名前だ。

 呼びかけてみると、リルフも喜んでいる。どうやら、気に入ってくれたようだ。


「リルフ」

「ピィ」

「リルフ!」

「ピィ!」


 さらに呼びかけてみると、リルフが声をあげた。やはり、既に自分の名前だときちんと理解しているようだ。

 こんなにも早く理解するなんて、この子は賢い子である。ずっと思っていたことだが、かなり知能がある生き物なのではないだろうか。


「楽しそうね……」

「うん、本当に……」

「え? 何さ、二人とも?」

「いや、フェリナが本当に母親になったみたいだから、なんだかおかしくて……」

「おかしいって、あのね……」


 ミルーシャとメルラムは、私の様子に少し引いているようだ。

 確かに、先程の名前を何度も呼ぶというのは、少し変なことをしていたように思える。だが、そうしたくなる気持ちが、二人にはわからないのだろうか。


「なんだか、フェリナも忙しそうだから、私達はこれで帰りましょうか?」

「うん、そうだね」

「え? もう帰るの?」


 そこで、二人は帰ると言い出した。まだ来たばかりのような気がするので、少し驚いてしまった。

 そもそも、二人は何をしに来たのかさえ、聞いていない。それなのに、帰るというのは、どうしてなのだろうか。


「ええ、今日はその子とあなたでゆっくりすればいいと思うわ」

「……そうだね。そうさせてもらおうかな」


 引き止めようと思っていた私だったが、ミルーシャの言葉に考えを改めることにした。

 確かに、今日はこの子と一緒に過ごすべきだろう。ミルーシャ達には悪いが、今日はリルフを優先するべきだ。この子とは、まだ出会ったばかりなのだから、もっとお互いを知る必要がある。


「それじゃあ、私達は帰るわね」

「うん、またね」


 それだけ言って、ミルーシャは歩き始めた。だが、メルラムはその後をすぐには追わない。何か、紙のようなものを持って、私の傍まで寄って来たのだ。


「フェリナさん、これを」

「うん? 何これ?」

「フェリナさんが悩んでいる間に、僕が知っている竜のことについて、まとめておいたんだ。もしかしたら、何か役に立つかもしれないからね」

「そうだったのね……ありがとう、メルラム」

「お安いご用さ。それじゃあね」

「うん、またね」


 どうやら、メルラムは自分の知識について、まとめてくれていたらしい。これは、とてもありがたいことだ。リルフのことは何もわからないので、情報は多いに越したことはない。


「エルッサさん、それじゃあ、私達は部屋に戻りますね」

「ええ。リルフ、フェリナと仲良くね?」

「ピィ!」


 二人の姿が見えなくなったので、私も部屋に戻ることにした。ここは、宿屋の受付だ。残っていると邪魔になってしまうのである。

 こうして、私はリルフとともに部屋に戻るのだった。

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