9.刷り込みで母親に?⑤
「どちらにしても、専門家に見てもらった方がいいと思うよ。そうしたら、その子の正体もわかるんじゃないかな?」
「専門家に見てもらうって……」
「動物学の専門家なら、わかるんじゃないかな? わからなくても、新種ということだから、それはそれで発見だし……」
「それは……」
メルラムの提案に、私は頷けなかった。それがこの子にとって、まったくいいことだと思えなかったからだ。
動物学の専門家に見てもらって、正体が単純にわかればいい。でも、わからなければ、どうなるのだろうか。
専門家に分析されて、体の隅々まで調べられる。それは、この子にとって確実に負担になるだろう。
もしかしたら、解剖されたりなどもされるかもしれない。どこも悪くないのに、この子の体にメスを入れるなんて、私は絶対に嫌だ。
仮に、そういうことがなかったとしても、この子が多くの目に晒される可能性は高いだろう。
未発見な生物として、見世物にされるかもしれない。檻に閉じ込められて、たくさんの人の目に晒される。それも、とても嫌なことである。
「そんなのは、駄目……」
「え?」
「この子が何者かは気になるけど、専門家やそういう機関に行かせることが正しいことだと、私は思わない。新種だとか、竜だとか、そんなのは人間の勝手なんだから、この子には何の関係もないじゃない」
「フェリナさん……」
私は、胸の中にいる小さな命を抱きしめる力を、少しだけ強くする。
この子は、森で私に発見された。それは、人類とこの子の種族の初めての会合だったのかもしれない。
しかし、それがどうしたというのだろうか。そんなことは、私とこの子には関係ない。ただ、私とこの子が出会っただけなのである。
「メルラム、無粋だったわね。フェリナが、そんなことをする訳がないじゃない」
「そ、そうだよね……ごめんね、フェリナさん」
「あ、いや、メルラムが悪い訳じゃないから、気にしないで。こっちこそ、声を荒げてごめんね」
私が声を荒げたからか、メルラムが謝ってきた。
しかし、彼は別に悪いことをした訳ではない。私が悩んでいたから、提案をしてくれただけなのである。
そもそも、私はメルラムに怒っていた訳ではない。なんというか、この子に対する可能性に対して怒っていたのだ。
しかも、それは可能性でしかない。専門家に見せても、案外何もないかもしれないのだから、怒るというのはおかしいことなのだ。
なんというか、少し恥ずかしい。こんなことで声を荒げるなんて、私はなんて沸点が低いのだろう。
私という人間は、時々熱くなってしまうことがある。これは、私の悪い癖だ。もっと、冷静に、物事を考えられるようにならなければならないだろう。
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