8.刷り込みで母親に?④
「多分、その子は……竜なんじゃないかな?」
「竜……?」
メルラムの口から出た言葉に、私は目を見開いた。竜、その言葉が出てくるなんて、思ってみなかったことだからだ。
「確か、伝説上の生き物だよね?」
「うん、実際に存在するとも言われているけど、ほとんどの人はそう思っていない存在……未確認生物といった所かな?」
「この子が、その竜なの?」
「外見的な特徴は、一致しているよ。竜は、トカゲのような見た目をしていると、何かの文献で読んだことがあるんだ」
「そ、そうなんだ……」
私は、腕の中で不思議そうに首を傾げている小さな子を、ゆっくりと見つめる。
この子が、竜。それは、本当なのだろうか。
「でも、竜というのは、もっと巨大なんじゃなかったのかしら?」
「うん、姉さんの言う通りだよ。竜というのは、人間よりも遥かに巨大な生物であるというのが通説だ。でも、それは成体しか人間が見たことがなかったからなのかもしれない」
「竜の子供……赤ちゃんという訳ね。確かに、それなら、この大きさであるということも納得できるわ」
ミルーシャとメルラムの会話は、この子の事実と一致していた。実際に、この子は産まれたばかりの子供だ。大きくなったら、言われている通りの竜になるのかもしれない。
「ちょっと待ちなさい、二人とも。竜が仮に人間より遥かに巨大だとしたら、もっと目撃証言があるものなんじゃない? そんな巨大な生物が一般に浸透していないなんて、私には信じられないのだけれど」
「竜は普段、海底や湖の底に潜んでいるそうです。あるいは、人間がまだ辿り着いていない地にいるとか」
「少し無理があると思ってしまうわ」
「ええ、僕もこの子を見るまでは、そう思っていましたよ」
エルッサさんの言葉も、一理あるものだった。巨大な竜が、未確認生物。それは、なんだかおかしな話である。
それに、メルラムが言っていることが事実だとしても、少しおかしかった。なぜなら、この子と出会ったのは森の中だったからだ。
水生生物が、森で卵を産むだろうか。それは、少し疑問である。
「なんだか、よくわからないや。この子は、一体何者なんだろう……」
「うん、僕も正直、よくわからないんだ。一番似ているのが竜というだけで、もしかしたら、他の生き物なのかもしれない。多くの謎を秘めた生物だといえるね」
結局、この子が何者なのかはわからない。確定できる情報は、何もないのだ。
とりあえず、今一番可能性が高いのは竜ということになるだろう。この子はもしかしたら、伝説を証明する存在なのかもしれない。
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