最終回 親魏倭王(しんぎわおう)
しばらく目を凝らしていた夏が叫びました!
「親魏倭王(しんぎわおう)だ!」
これは大変なことになりました。日本の歴史上の最大の謎とされている邪馬台国と卑弥呼そして金印の謎が一気に解決されたのです
「やっぱり、ゆきは卑弥呼(ひみこ)だったんだ!・・・だとするとここは卑弥呼のお墓! 私たちが行った弥生の国は邪馬台国!・・・そして親魏倭王の金印はここにある!・・・」
夏は祠に向かって手を合わせました
りんもあわてて手を合わせます
「わたしたち 大発見したんだね でも絶対誰も信じてくれない!」
夏が大桜を見上げて言いました。
「どうしたらみんなに信じてもらえるの?」
「証明するには祠の下のゆきのお墓を掘って調査することになるよ」
「それっていやだよ!ゆきはせっかくここで静かに眠っているのに」
りんが悲しい目で言います。
「そうだね ゆきがかわいそうだね。 神龍さんはどう思う?」
夏が神龍に問いました。
「お二人の判断にお任せします」
そういう神龍も悲しそうです。
「ねえ ねえちゃん。このことは二人だけの秘密にしておこうよ。ゆきはそっとここで眠らせてあげようよ」
少し涙目のりんが祠を見つめながら言います。
「うん、そうだね。・・・それがいいね」
夏もそう思いました。
「じゃあこの金印は神龍さんにお返しするわ。奥歯としてずっと持っていてね。大切にね」
少しほほ笑んだ夏が金印を大事そうに神龍に手渡します。
「もうじき誰も居なくなるこの吉念寺の大桜の丘は、私たち二人でずっと守っていこうよ。そして私たちがいなくなったその後は、きっと神龍さんが守り続けてくれるよ」
りんが神龍のぎょろ目を見つめて言うと安心したかのようにコックンとうなづく神龍でした。
あたりは霧はかかっているもののすっかり明るくなってきました。
「では私は神庭の滝に戻ります」
ほっとした神龍が姉妹に告げます。
「わたしたちも今日横浜に帰るからこの丘は神龍さんにお願いするね」
りんが神龍の前足をポンポンとたたくと、うなずいた神龍がニヤリとしましたがあの金印の奥歯が朝霧の合間からの朝日を受けてきらりと輝きました。
♬ 和太鼓 ♬ 銀の龍の背に乗って
神龍が朝霧の中をゆっくりと飛び立ちます。
同時に辺りに巫女舞いの太鼓の音(ね)が聞こえてきました。
二人には遠慮がちな雷鳴とともに遠ざかる神龍の背中にゆきが乗っているかのように見えました。
「またね~!神龍さ~ん」
神龍が遠ざかるまで手を振り続けた二人でした。
そして姉妹がうなづき合い、丘の祠に手を合わせたその時、朝霧を伴った一陣の風がヒュ~ッと吹き抜け、姉妹の頭上の五分咲きの大桜の枝を、優しく揺らしたのでした。
やがて霧も晴れ朝日が丘に当ってきました。
「ゆき!今度、夏休みに来るからね」
祠にぺコンとお辞儀をしたりんが歩き始めると言いました。
「私、この大桜をおじいちゃんがやったように挿し木してみるよ。そして世界中に平和の使者として配ってみる。それがおじいちゃんとゆきの遺志だと思うから。私たちは今は横浜で暮らしているけど、ここ吉念寺の子供だからね」
先を歩く夏は振り返ると無言でうなずきました。
「ねえちゃん、私お腹すいた!」
「そうだね。朝ごはんまだだったね!」
♬ 空と君の間に
夏は菜の花の咲き乱れる緩やかな小道を少し足早に下り始めました。
「まって~!」
りんは少し遅れながらステップで続きますがその片耳のグリーンのピアスが揺れて朝日に輝きます。
こうして”古代史最大の謎”と言われる”邪馬台国と卑弥呼”の謎は二人の姉妹によって解き明かされました。
しかし姉妹はこの大発見を、二人と神龍だけの大切な秘密とし、末永くこの丘と弥生の大桜を守り続けることを誓いあったのでした。
♬ 和太鼓 さよならの夏
岡山県真庭市別所字吉念寺龍王
数日もするとこの丘の大桜は満開になり大勢の人が訪れます。
でもこの丘が、あの「邪馬台国の女王 卑弥呼の墓」だということは二人の姉妹と神龍、そしてあなた以外だれも知らないのです。
♬ るろうに剣心 飛天 オリジナルサウンドトラック
(第三章 卑弥呼 おしまい)
「桜の丘 女王伝説」 完
* 次回はあとがきです
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