ただいま~

「また森に出ちゃったの? ちゃんと横浜に帰れたのかなあ?」

 りんは、不安そうに立ち上がり、あたりを見回します。


                    ♬ 車の通行音 

 

「ねえちゃん、上の方でブルブルって車の音しない? ほら聞こえるでしょ」

 いうと同時に、りんは斜面を走り出していました。


 少し視界が開けたところで、急に立ち止まり、正面を見つめています。


「やった~! ねえちゃん! ランドマークタワーが見えた。ほらほら右の方。横浜だよ! 帰って来たんだよ!」


 ジャンプしながら、顔をくちゃくちゃにして嬉しそうな、りん。


 ランドマークタワーを見て、夏もほっとしました。おねえさんとしての責任が果たせたからです。


「でもここはどこかな?」斜面を上がっていくと階段がありました。車の音も大きくなりました。

 そして数十段の階段を上がりきると、ついに広い道に出たではありませんか。


 道のむこうは教会です。その右となりは洋館。ふたりは同時にさけびました。


「わかった~! 山手の元町公園!」


 そして、スマホがあることを思い出した夏は、すぐにリュックから取り出してみると・・・ちゃんと通話ができることを示す“アンテナ”が立っています。

 すぐに、おかあさんに連絡を入れました。


「ルルルル・・・」


 呼び出しの間、ふたりは待ち遠しくてたまりません。

 スマホに顔をくっつけて、足踏みして待つこと数秒、おかあさんが出ました。


「あっ、夏ちゃんね。よかった~! いまどこにいるの? りんは元気? 」


「おかあさん! 帰って来たよ。ふたりとも元気だよ」


 横から「りん」がスマホを取ると


「りんも元気だよ! お腹空いてるからすぐ迎えにきて~ お願いしま~す!」と元気百倍です。


「今、山手の元町公園のバス停前にいるよ。前が教会でそのとなりが洋館の山手234番館。レトロな電話ボックス知ってるでしょ? あそこだよ」

 夏が、場所の説明をしました。


「わかったわ。すぐに行くから絶対に動かないのよ! 絶対よ!」


 そして十分後、見慣れたベージュ色の車が、電話ボックスの前で止まりました。


「やった~! やった~! おかあさん! ママ~!」車から降りてきた涙目のおかあさんに、りんが飛び付きます。


 夏は「ただいま~」といって、ぺこりと頭を下げました。



 こうして、夏とりんは、現代の横浜に無事帰ることができ、そして不思議な体験をした夏休みも終わり、新学期が始まりました。


 すっかりたくましくなったふたりは、何事もなかったかのように、いつも通り立野小学校に登校して行きました。


                     ♬ ジェット音


 夏は時々、夜空に飛び立つ飛行機をながめながら、物思いにふけっていることがあります。


“はやと”や“ゆき”のことを思い出しているのでしょうか。


 りんは、相変わらずの、おちゃめですが、すっかり“たくましく”なりました。

 たくさん涙を流して、強くなったのだと思います。


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